富裕層を対象とした課税の強化が着々と進んでいます。例えば、相続税の最高税率引き上げと基礎控除の引き下げ、国外財産調書制度、財産債務調書提出制度の創設、給与所得控除の上限引き下げなどがそれに当たります。
こうした課税の強化は、個人の相続や所得に影響が及ぶだけではありません。中小企業の経営者にとってはビジネス上の問題も生じます。最大の問題はスムーズな事業承継を妨げる可能性があることです。税負担が増えると、意図せずして事業の継続を断念せざるを得ないケースも起きるかもしれません。
多くの企業経営者が節税に頭を悩ませています。中小企業の場合は、特例を活用するのも選択肢の一つです。その中には“一発逆転”の節税効果が期待できるものもあります。雇用の確保や技術力・ノウハウを守るためにも、中小企業経営者が知っておくべき、税制の特例を紹介します。
リーマンショック直後、中小企業経営者は事業の維持・安定に注力しました。その危機を乗り切った経営者にとって、現在の最大の関心は、事業の発展や資産を増やすことではなく「相続」に移っています。
中小企業経営者が、事業の発展に取り組み、ある程度業績も安定し、いざ後継者にバトンタッチしようと考える。その際に、途方もない高額の税負担にがくぜんとすることもあるといいます。
税負担が高額になるケースの主要因は「自社株の評価」にあります。自らの努力によって事業が発展し、自社株の評価が思いもよらず上昇した結果、事業継承の際に多額の相続税が問題として生じることがあるのです。
知らないと損どころか廃業も!? 相続税の大きな落とし穴…
相続は、例えば不慮の事故や病気で、自社株を保有するオーナーが亡くなった際にも当然のように発生します。その際に思いもよらぬ高額の相続税負担に耐えられず、やむなく廃業や事業の売却を検討しなければならなかった悲劇も実際に起きているのです。
相続税負担を原因とする廃業や事業の売却は、経営者だけの問題ではありません。そこで働く従業員とその家族、取引先にも影響が及びます。中小企業がスムーズに経営承継を行えるようにすることは、雇用の確保や地域経済活力維持の観点からも、重要な課題となっています。
こうした問題への対応策として、2008年5月9日「中小企業経営承継円滑化法」が成立しました。法律の根幹をなすのは「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」と「遺留分に関する民法の特例」です。これぞ特効薬といえるほど、大きな効果が期待できる特例です。中小企業経営者ならぜひとも知っておくべきでしょう。
特例を利用すれば大きな節税効果も!
「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除の特例」とは、中小企業オーナーが保有する自社株の相続や贈与時の負担軽減を目的としたものです。
後継者である相続人が一定の条件の下、非上場会社の株式などを先代経営者から取得し、その会社を経営していく場合には、80%に対応する相続税の納付が猶予されます。さらに、後継者が死亡した場合などには、猶予されている相続税の全部または一部が免除されます。
この特例は相続税だけでなく贈与税も対象ですから、オーナーが死亡する前に自社株を計画的に後継者に贈与する際にも適用されます。後継者である受贈者が、一定条件の下で非上場会社の株式等を、先代経営者から全部または一定以上取得しその会社を経営していく場合、贈与税の全額の納税が猶予されます。さらに、相続税と同様に、先代経営者が死亡した場合などには、猶予されている贈与税の全部または一部が免除されます。
自社株を相続するにしても、贈与を行うにしても、この特例を利用することで大きな節税効果を期待できます。中小企業の事業承継の際に“知らなかった”ではもったいない法案です。
効果が大きいだけに利用要件は厳しい
しかし、この特例は効果が大きいだけに厳しい要件を満たす必要があることも覚えておきましょう。
まず、資本金の上限や、従業員の雇用が一定数以下であることなど、一定の基準が設けられています。さらに、資産管理会社や風俗営業会社は対象外になっています。業種によって適用条件が異なり、製造業よりも小売・サービス業のほうが基準が厳しくなっています。
この特例は、あくまでも地域経済活力の維持や雇用の確保という観点から設けられた制度です。相続税負担に耐えられず、中小企業が廃業に追い込まれることは、地域経済の活力や雇用が失われます。そういった事態を避けるための措置なのです。利用する側もそれを十分に認識して活用する必要があります。せっかく育てた企業ですから、次世代にスムーズに受け継がれるように配慮しましょう。