昨年来、テレビや新聞などで「地方創生」という言葉をよく目にしたり、耳にしたりします。ですが、地方創生とは一体どんなものか、いまひとつよく分かっていない方もいるのではないでしょうか。
似た響きのフレーズに「ふるさと創生」というのがあります。こちらはバブル経済華やかりし1988~1989年、当時の竹下登首相の発案で、全国の市町村に地域活性化の資金として1億円ずつ交付金を配った政策です。国が使い道の指示をしない制度だったこともあり、お国自慢のモニュメントを創ったり、金の延べ棒を購入してそのまま展示したりと、その効果には疑問符が付けられる政策でした。
こうした前例があるだけに、今回の地方創生が何を目的に、何をするのかが気になります。今回、地方創生について知っておくべきポイントを、2回に分けて解説します。まず前編では、地方創生の背景と目的、そのフレームワークとなる基本目標を説明しましょう。
日本は今「人口減少」という大きな課題に直面しています。2008 年をピークとして人口減少局面に入り、今後、2050 年には9700 万人程度、2100 年には5000 万人を割り込む水準にまで減少するとの推計があります。加えて、地方と東京圏の経済格差の拡大などが、若い世代の地方からの流出と東京圏への一極集中を招いています。地方の若い世代が、過密で出生率が極めて低い東京圏をはじめとする大都市部に流出し、日本全体としての少子化、人口減少につながっているのです。
そして地方は、人口減少を契機に、「人口減少が地域経済の縮小を呼び、地域経済の縮小が人口減少を加速させる」という負のスパイラル(悪循環の連鎖)が生まれる可能性が高くなっています。さらに、このまま地方が弱体化するならば、地方からの人材流入が続いてきた大都市もいずれ衰退し、日本の競争力が弱まるのは必至です。
こうした危機感から、2014年9月、第2次安倍内閣発足の際、「まち・ひと・しごと創生本部」(通称・地方創生本部)が設置され、担当大臣には実力派の石破茂衆議院議員を起用し、同年末には「まち・ひと・しごと創生法」が施行されました。安倍内閣が重要課題として位置づける、この地方活性化の一連の取り組みを総称して「地方創生」と呼んでいます。
4つの基本目標で総合的に推進
地方創生は、「東京一極集中の是正」「若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現」「地域の特性に即した地域課題の解決」の3つを基本的な視点として取り組みます。それを具体化するために、4つの基本目標を掲げています。…
基本目標の1つ目は、「地方における安定した雇用の創出」です。地域産業の競争力強化や6次産業化による農林水産業の成長産業化、訪日外国人旅行消費の拡大などによって、2020年までの5年間で累計30万人分の若者向け雇用をつくり出すほか、若者の正規雇用率や女性の就業率を引き上げるとしています。
2つ目は、「地方への新しいひとの流れをつくる」です。現在は東京圏への10万人の入超となっていますが、2020 年に東京圏から地方への転出を4万人増やし、地方から東京圏への転入を6万人減少させ、東京圏から地方の転出入を均衡させるとしています。
具体的な施策としては、地方移住を推進するための「全国移住促進センター」の開設、移住情報一元提供システム整備などのほか、1つ目の雇用創出にも関連しますが、税制優遇措置による企業の地方拠点強化、地方採用・就労拡大などの推進があります。
3つ目は、「若い世代の結婚・出産・子育ての希望をかなえる」です。出生動向基本調査によれば、独身男女の約9割は結婚の意志を持ち、希望子ども数も2人以上となっています。それなのに実際は、さまざまな事情で、結婚したくても結婚できず、子どもを産みたくても産めないケースがあるのです。
こうした結婚の希望をかなえるためには「質」を重視した雇用を確保し、安定的な経済的基盤の確保が欠かせません。さらに子育て支援の充実に加えて、男性女性ともに子育てと就労を両立させる「働き方」の実現、いわゆるワークライフバランスが重要です。具体的施策として、雇用創出に加えて子育て世代包括支援センターの整備や、企業における育児休暇の取得推進、長時間抑制などが挙げられています。
最後の4つ目は、「時代に合った地域をつくり、安心なくらしをまもるとともに、地域と地域を連携する」です。人が仕事を呼び、仕事が人を呼ぶ好循環を創出するには、それを支える地域の街づくりが欠かせません。このために安心な暮らしを守り、さらに地域と地域の連携を強化するとしています。具体的な施策として、子どもから高齢者まで年代を超えて交流できる 「小さな拠点」の整備、連携中枢都市圏の形成や都市のコンパクト化と周辺地域とのネットワーク形成などが挙げられています。
地方が主体的に動き、効果も検証する
こうした政府が掲げる4つの基本目標をもとに、実施の主役となる地方自治体は本年度中に地方版総合戦略を策定し、自ら戦略を推進することになっています。地方版総合戦略は地域の実情に応じて今後5年間の目標や施策の基本的方向、具体的な施策をまとめるものです。地方創生は、国から言われたままを実行するのではなく、地方が自主的・主体的に取り組む責任があるわけです。
また、効果を疑問視された「ふるさと創生」の問題を意識したわけではないかもしれせんが、地方創生では「成果を重視した目標設定」も戦略に組み込まれています。具体的には、各施策の効果を客観的に検証できるようにするため、「重要業績評価指標(KPI)」を設定することになっているのです。
多くの地方自治体は、人口減や地域経済の縮小による歳入の減少と、高齢者医療費の増大などによる歳出の増加に苦しんでいます。そんな中で、地方創出に取り組むための財源をどのように確保するのか。政府も新型交付金の創設などを打ち出していますが、政府自身の財政も厳しいわけですから支援も限界があります。地方自治体自身が主体的に動くだけでなく、その成果によって財源も確保していく好循環を生むことが期待されます。