2月16日にスタートした日本銀行のマイナス金利政策。早くも2カ月が経過しようとしている。マイナス金利についてはさまざまな報道がなされているが、正確に把握しているビジネスパーソンは多くはないのではないか。まずは、マイナス金利政策の基本を復習しておこう。
マイナス金利では、預金や債券に金利(利子)が付かず、逆に金利分が減ってしまう。需給で金利が決まる金融市場では、債券などでこうした現象が2000年代前半から生じていた。中央銀行でそれを景気の刺激策などに使うのが「マイナス金利政策」。世界的に見れば、日銀が初めてというわけではなく、デンマークやスイスなどが先行して実施している。
マイナス金利は金融機関が日銀に預けている当座預金の一部だけ
「マイナス金利政策」といってもすべての預金や債券の金利がマイナスになるわけではない。日銀の場合、金融機関が預けている当座預金の一部で金利をマイナスにしただけ。個人や企業の預金がマイナス金利になって減っていくわけではない。
金融機関は、他の金融機関や日銀とも取引を行っている。その場合の決済手段や個人・企業に支払う現金通貨の支払準備などのため、金融機関は日銀にお金を預けている。これが日銀の当座預金だ。
日銀は、金融機関の当座預金の残高を「基礎残高」、所要準備額と貸出支援制度などの利用額に基礎残高の一部を加えた「マクロ加算残高」、当座預金残高から上記の2つの残高を除いた「政策金利残高」の3つに分類している。このうち「政策金利残高」の金利をマイナス0.1%にするというのが、今回のマイナス金利政策だ。残りの「マクロ加算残高」の金利はゼロ%。「基礎残高」には従来通り0.1%の金利が付く。
日銀は、マイナス金利を2015年1月分の当座預金残高に適用した場合の試算値を公表している。それによると、対象となる「政策金利残高」の額は23.2兆円。これは、金融機関の当座預金全体の9%に当たる。
金融商品による資産運用に逆風、不動産市場には追い風…
日銀がマイナス金利に踏み切ったのは、景気を刺激するため。金利がマイナスになれば、預金をしていると残高が減っていくことになる。そのため、金融機関は日銀に当座預金として預けていた政策金利残高の分を、市中への貸し出しに回すことが期待される。当座預金のマイナス金利と連動して金利全般が下がれば、投資が活発になる効果も見込まれる。
アベノミクスは、デフレを脱却して景気回復を図るため、量的・質的金融緩和や積極的な財政出動などさまざまな政策を打ち出してきた。しかし、いまだに本格的なデフレ脱却には至っていない。景気回復も途上にある。そこで日銀はデフレ脱却の強力な後押しとして、マイナス金利に踏み切ったのだ。
各方面でさまざまな影響が表れ始めている。分かりやすいのは資産運用への影響だ。利回りがマイナスになる見通しになったため、3月に発行予定だった10年物の新型窓口販売国債の募集を財務省が中止。安定した利回りが確保できなくなったので、資産運用各社は国債などで運用するMMF(マネー・マネジメント・ファンド)の新規販売を停止した。また、すでに運用しているMMFも繰り上げ償還を決めている。
複数の生命保険会社が、一時払い終身保険など一部商品の販売停止を決定。販売を継続する場合で、保険料の引き上げや予定利率の引き下げなどを発表している。銀行は普通預金金利、定期預金金利ともに引き下げを行った。個人の資産運用には厳しい状況になりつつある。
逆に金利の下落がプラスの影響をもたらしている分野もある。マイナス金利政策導入後、メガバンクをはじめ銀行各行は住宅ローンの金利を相次いで引き下げている。これにより住宅ローン金利はまれに見る低水準になり、不動産市場へは追い風が吹いている
社債発行は増加傾向も、貸し出しへの影響は未知数
企業への影響はどうだろうか。まず影響が出たのは、社債。社債の利回りは、国債の利回りにプレミアムを加える形で決められる。マイナス金利政策の後、国債の利回りが低下した分、プレミアムを加えた金利も抑えられ、企業は低コストで社債を発行できるようになった。
国債の利回りが下がり、多少は利回りの高い社債への需要が高まることが期待できる。大和証券グループ本社、西日本旅客鉄道、東北電力などが最近、相次いで社債発行を発表している。マイナス金利が企業の資金調達の追い風になっているのである。
しかし、マイナス金利によって銀行が企業への融資でどのように動くかは不透明な部分がある。預金金利が非常に低いレベルにあり、下げ幅に限界がある中、貸出金利は引き下げ競争が行われている。銀行の利幅である貸出金利と預金金利のギャップが縮まっているため、銀行の収益悪化が懸念される。
前述の通り、マイナス金利は金融機関が貸出を増やすことを狙いの一つとしていた。しかし、金融機関は収益が下落局面では、融資基準を厳しくせざるを得ない。マイナス金利は企業への融資にプラスに働くとは限らないのである。
マイナス金利政策が、狙い通りの効果を発揮するのか。もし発揮しないとすれば、さらなる政策強化はあるのか。しばらくは日銀の動向から目が離せない。