大手メーカーと中小企業をマッチングする新しいサービスを展開するリンカーズ。前回はサービスを利用する大手メーカーのニーズの集め方を解説した。第2回は、相手先の中小企業の絞り込み方を説明し、マッチングの実例も紹介する。
リンカーズ(メーカーマッチングサービス)第2回
発注された大手メーカーのニーズは、リンカーズの担当者によってA4サイズ1~2枚分ほどにまとめられ、メーカーマッチングサービスサイト「Linkers」を通して全国のコーディネーターへ一斉配信されます。その案件の詳細を見て、コーディネーターがニーズに合った企業を推薦します。
案件によりますが、公募期間は3週間~1カ月程度で、少なくとも1案件に20~30社、多いときは100社以上の企業が上がってくることもあるといいます。
全国1200人のコーディネーターが活躍
コーディネーターには2種類あります。1つは公的機関に所属している人が業務の一環として協力するケースです。公的機関の人は謝金を受け取ることができないケースが多いのですが、「地元の産業を盛り上げたい」「成功事例を生み出していくことがうれしい」という思いを持ち、同社のビジネスに共感してくれている人が多いといいます。もう1つが民間や個人のコンサルタント、中小企業診断士などの専門家たちです。
コーディネーターの質も重要になってくるため、契約前には必ず一人ひとりと面談をします。同社とコーディネーターの間に地域統括コーディネーター機関を介することもあります。例えば関西地方では公益財団法人のNIRO(新産業創造研究機構)と連携しています。関西エリアから最近提案が少ないとなれば、このような機関を訪問し、フィットする企業はないかを聞いてみるなど、普段からのコミュニケーションを欠かさないようにしているといいます。
リンカーズは、オンライン上だけではなく、こうしたオフラインのコミュニケーションを取ることで、全国の1200人ものコーディネーターとの関係性を維持しているのです。「今後は質を維持しつつ、コーディネーターを2000~3000人規模まで拡大したい」と話す前田社長。そのためにも常にコーディネーターの提案数をウオッチしています。
中には提案が少ないコーディネーターがいるため、その場合はただ忙しくて提案できないのか、企業を知らないのかを見極めます。企業を知らないコーディネーターは、同社からただ情報を漏らすだけになってしまいリスクとなるため、判別していくことが非常に重要だと前田社長は考えています。今後は提案数や成約率によって、コーディネーターのランク付けも検討していくそうです。
複数の候補の中から中小企業を絞り込む…
コーディネーターから紹介された企業に対し、リンカーズの担当者が介在し、3~4段階にわたって最適なパートナーを絞り込んでいきます。大手メーカーのプロジェクトを成功に導くために、このプロセスが最も重要になります。
発注企業と何度もやりとりをしながら、最終的に2~3社に絞ります。この段階で、両社の面談を設定し、試作を経て最終決定となります。試作は、難易度が高いテーマが多いので、複数社に依頼するケースが多いそうです。発注側に、最終製品のイメージを高めたり、リスクをヘッジしたり、コスト面の比較をしてもらうため、複数社を紹介しているのです。
成約後は、受注できなかった企業について、推薦したコーディネーターへ落選理由を徹底してフィードバックしています。技術やコスト面など何が弱くて落選したのか分かる情報を返していることが、コーディネーターからも共感を得られている理由の1つだといいます。
こうしてコーディネーターを仲介しながらマッチングをしていくことで、同社には中小のものづくり企業の情報がどんどん蓄積されています。現在、約43万社のうち、1割強に当たる5万社ほどを把握しているといいます。「この1割の企業がコーディネーターにお墨付きをもらった優秀な1割の企業であることに意味がある」と前田社長は話します。この網羅性により高いマッチング率を誇っているのです。
エンタメ企業と老舗段ボール製造会社をマッチング
Linkersを利用して実際にマッチングが実現したケースを紹介しましょう。
エンターテインメント企業・バンダイナムコグループのVIBEは2013年にLinkersを通してある技術を持つパートナーを探しました。家庭用カラオケソフトを販売していたVIBEは、部屋の防音がネックだと考え、気軽に部屋に置ける段ボールの防音室を作れないかと考えていたのです。
この依頼に対して、Linkersを通して約25人のコーディネーターからわずか1週間で30社もの候補企業の情報が届きました。そこから細かく条件を絞り込んでいき、3週間後には1社に絞り込まれ、両社の面談が行われました。
選ばれたのは福島県にある創業110年以上の段ボールメーカー・神田産業。同社は通常よりも強度の高い段ボールの開発を進めていました。ボール紙を蜂の巣状に張り合わせたもので、熱や音を遮断する機能も高かったといいます。
神田産業の担当者の谷田部幸太郎氏は「段ボール加工屋はお客様から依頼された製品を作ることが主なビジネスです。そのため、自分たちで新しい事業分野に出ていくことはとても難しいのです。今回紹介していただいた案件は、これまでの事業とは異なる分野にもかかわらず、私たちの強みとする技術を生かすことができる、わくわくするような案件でした」と話します。
神田産業を紹介したコーディネーターは、東北経済連合会の磯明夫氏。「以前に技術的な支援をしたことがあり、神田産業さんの実力はよく知っていました。しかし、その技術や製品力を生かせるようなお客さんを見つける支援ができなくて歯がゆい思いをしていたのです。Linkersで今回の依頼を見たときに、まさにピッタリの案件と思い、神田産業さんを推しました。ただ、マッチングがうまくいくかは正直なところ半信半疑でした。リンカーズの皆さんが他社を含めていろいろな側面から神田産業さんの評価をしてくれたことで結果的にうまくいったのではないでしょうか」と話しています。
また、依頼者であるVIBEの大久保明氏はこのように振り返ります。「それまで1年かけてパートナーを探しても見つからなかったんです。Linkersに依頼したときも、正直、簡単には見つからないだろうと思っていました。ところがわずか1週間で、私たちのニーズにフィットする企業にたどり着いたことに、メンバー全員が驚きました。その後、面談で神田産業のご担当者とお会いして、その熱意と仕事の速さ、アウトプットのレベルの高さに再び驚かされました。想定したよりはるかにクオリティーの高い試作品をたった2週間で作り上げてくれたのです。さすがにプロの方に評価された企業だなと感じました」
このマッチングによって生まれた商品が段ボール製防音室の「だんぼっち」です。部屋の中で周囲を気にせず歌を歌ったり楽器の演奏をしたりすることができます。部屋に防音設備を入れると工事費で数十万円掛かるところを、6万円ほどで手軽に防音室が作れるのです。これは2014年の発売以来、ヒット商品となったそうです。
日経トップリーダー/森部好樹