今年1月からマイナンバー制度の運用が開始されています。しかし、中堅・中小企業を中心に、実際にはまだ十分な対応ができていないという事業者も多いと思います。例えば制度の概要はある程度は理解していても、要求されている安全管理措置は十分に満たしていると考えていない経営者も多いのではないでしょうか。
マイナンバー制度への対応が十分に行えない理由の1つに費用の捻出が考えられます。マイナンバー制度に対応するにはセキュリティーの強化が欠かせません。情報漏えいの防止に向けて、取り扱い区域の管理を行うためのパーテーションを設置するといった物理的安全管理措置が必要です。パソコンやソフトウエアなどを新たに用意する技術的安全措置も求められています。こうした措置のための投資に悩む経営者も多いと思います。
そこで今回は、2016年度税制改正で適用期限が延長された「少額減価償却資産の特例制度」について紹介します。この制度はマイナンバー制度への投資にも使えるからです。
「少額減価償却資産の特例制度」は、法人税法や所得税法の本則に定められているものではなく、適用期間が限られた「時限立法」です。2016年3月31日で期限切れとなるところでしたが、2016年度税制改正で、2018年3月31日まで適用期限が延長されました。この制度が、中堅・中小企業に多く利用され、そうした規模の企業において取り組みが遅れているマイナンバー制度への対応にも適用できることなどを考慮して、特例の延長が行われたようです。
一般的に、機械や器具備品など固定資産を購入した場合、法定耐用年数に応じ、減価償却費として損金に計上します。ただし、取得価額が10万円未満であれば、全額を当該年度に損金として計上することができます。取得価額が10万円以上20万円未満であれば、一括償却資産として3年間で均等償却することができます。
本特例制度はこれに加えて、取得価額30万円未満の資産を購入した場合、法定耐用年数に関係なく、その事業年度に全額損金算入(即時償却)することができるようにするものです。対象となる企業は、「中小企業者等」に限られます。2016年度税制改正においては、常時使用する従業員の数が1,000人超の法人または個人事業主は対象外とされました。つまり、対象範囲を制限した上で2年間延長されたという形になります。
対象額は税込みで判定される? 税抜きで判定される?
対象となる資産は、前述の通り取得価額30万円未満の減価償却資産です。ただし、限度額が設けられており、事業年度における取得価額合計額は300万円となっています。事業年度が1年に満たない場合は、月数で調整した金額が限度額となります。注意点として、他の優遇措置との関係があります。例えば取得価額10万円未満の資産、取得価額20万円未満で一括償却資産として損金算入されるものについては、少額減価償却資産の特例の適用はありません。
「償却資産税」との関係にも注意が必要です。償却資産税とは、事業に使用する機械装置などの固定資産に課される税金です。取得価額10万円未満の資産、取得価額20万円未満の一括償却資産として損金算入されるものについては、償却資産税の課税対象とはなりませんが、少額減価償却資産については、償却資産合計額150万円以上の場合、課税対象となります。なお、2016年7月1日の中小企業等経営強化法の施行後に取得した一定の資産については、償却資産税の軽減制度が新設されています。
少額減価償却資産を判定する際の取得価額は、消費税の処理方法により異なります。税込経理の場合には「税込金額」で、税抜経理の場合には「税抜金額」で、30万円未満の判定を行います。
ソフトウエアなど無形資産も対象
少額減価償却資産の特例は機械装置や器具備品などの有形資産だけでなく、ソフトウエアなどの無形資産も対象となる点でマイナンバー対策の出費に広範囲に適用できる可能性が高いのです。金庫、パーティション、パソコン端末などの有形資産の購入だけでなく、情報セキュリティー強化のためソフトウエア導入などの場合にも、特例が利用できる可能性があります。
ただし、源泉徴収票・支払調書作成や年末調整用システムをマイナンバー対応にするための更新は、資本的支出(固定資産)ではなく、機能維持のための「修繕費」に該当する可能性があり、特例の適用が難しいケースがあるので注意しましょう。
中堅・中小企業においてもマイナンバー対策は必要不可欠です。そのための費用が損金処理できる本特例をぜひとも活用してください。