以前から保険料を全額経費扱いにすることで、法人税の節税につながるという保険商品は存在していました。節税保険はそうした商品よりも多額な保険料を全額経費扱いにできることなどが受け入れられ、加入数を増やしていました。
しかし、保険各社が相次ぎそうした商品をラインアップすると、節税効果や多額な返戻金をPRする営業活動が加熱します。その影響もあって、金融庁がPR内容や返戻金の実態などについて問題視し始め、2018年半ばから各保険会社への調査を強化しました。それにより節税保険の新商品発売が延期されているという報道もありました。
金融庁による調査が強化されたのは、企業の節税を目的とした保険という面がクローズアップされたことが要因だと思われます。そこで今回は「万が一のための保証」という目的から逸脱せずに、節税へとつながる保険について再考してみましょう。
しかし保険の目的はあくまで「万が一の時のための保証」です。今回、金融庁は節税や返戻金などを特徴にしていることが、本来の目的から逸脱していると判断したようです。また解約返戻金が多額化したことも問題視しています。金融庁は、各保険会社に対する調査で返戻金が多額となる算出根拠の説明を繰り返し求めているそうです。
そこで「万が一のための保証」という本来の目的を満たしながら、保険料や掛け金などが経費扱いとなり、法人税の節税につながる保険や制度について考えてみます。
その1つが「経営セーフティ共済(中小企業倒産防止共済制度)」という共済制度です。経営セーフティ共済とは、取引先が倒産した際に売掛債権の未回収などによる連鎖倒産や経営難に陥ることを防ぐための共済制度になります。独立行政法人中小企業基盤整備機構が運営し、2018年3月現在、全国約46万社の事業者が加入しています。
加入条件は1年以上継続して事業を行っていることが挙げられており、事業開始2年目以降から加入可能です。また業種ごとに「資本金の額または出資の総額」、あるいは「常時使用する従業員数」の上限が定められていますが、資本金5000万円以下の中小企業であることがおおむねの要件です。企業組合、協業組合などの組合も加入できます。
積立限度額は800万円で、掛け金は月額5000円から20万円までの間です。5000円単位で自由に設定でき、掛け金は毎月、見直すことができます(月額を減額するには、事業経営の著しい悪化など一定の要件が必要)。払い込んだ掛け金は税法上一定の条件を満たすことで、全額を損金に算入できます。さらに前納制度を利用すれば、最大480万円を損金扱いにすることが可能です。
万が一、取引先事業者が倒産したことにより売掛金債権などの回収が困難となった場合、共済金を「借入金」として借りることができます。借入可能額は、取引先の倒産による被害額、もしくはそれまで払ってきた掛け金の総額の10倍に相当する額のうち、少ないほうの額です。借入額の上限は8000万円で、無担保・無保証人・無利子となっています。ただし借り入れ後、共済金の借入額の10分の1に相当する額が払い込んだ掛け金から控除されます。
取引先事業者が倒産するという事象が生じなくても、払い込んだ共済の金額のうち、その時点における解約手当金相当額の95%までの額を、年利0.9%で貸し出してくれる一時貸付金の制度も備えています。また、掛け金の納付開始から40カ月以上経過した後に任意解約すれば、掛け金の100%が解約手当金として返金されます。
生命保険と経営セーフティ共済の違い
一般的な生命保険と、経営セーフティ共済の加入条件や保険料・掛け金などを比較してみましょう。
前述のように経営セーフティ共済には加入条件がありますが、生命保険には企業規模などによる制限はありません。
保険料・掛け金についてはどちらも調整が可能です。しかし、生命保険は途中で保険料などの契約内容の変更を希望した場合、被保険者の告知書や健康診断が必要となる場合があるため、時間と手間がかかることがあるでしょう。
生命保険では、支払保険料の損金扱いは半額までというものが一般的です。一方、経営セーフティ共済は全額損金算入が可能となっています。
また、生命保険と経営セーフティ共済では、その保証対象が全く異なります。生命保険は、経営者や役員の死亡といったリスクを保証するものであるため、生命保険会社は被保険者の年齢や性別などを総合的に見て、保険料を算出します。一方、経営セーフティ共済は取引先の倒産による連鎖倒産リスクへの保証であること、さらに「共済」であることから、払った掛け金分に相当する保証のみ受けられます。そのため、月額は加入者側で設定できます。
万が一の時に支払われる保険金・積立金に関しての経理処理が、生命保険の場合は保険金を益金として計上します。一方の経営セーフティ共済の場合は、積立金を借り入れできるという制度です。その後は返済することになるので、益金扱いにはなりません。
解約時の返戻金・解約手当金に関しての経理処理は、両者とも益金に計上します。また生命保険は契約内容によりますが、全額ではなく一部でも解約可能です。一方、経営セーフティ共済は全額解約のみということを覚えておきましょう。
リスクヘッジしつつ節税する
連載の第21回でも紹介したように、節税に役立つ生命保険は大変魅力的です。一度に大きな金額を節税でき、解約すれば返戻金が戻ってきます。ただし、節税保険のように節税や解約することを前提にしているものは、冒頭で触れたように生命保険会社が金融庁の調査を受けるなどの不安要素もあります。
生命保険も経営セーフティ共済も、メリット・デメリットはあります。どちらにもいえることは、それぞれの目的や仕組みをよく理解した上で利用する必要があるということです。節税を目的にするあまり、安易に高額な保険に加入すれば、その後の保険料支払いが負担となるケースも考えられるものでしょう。
保険や共済は、事業の実質的な現状を鑑みてから加入を判断しましょう。保険商品の設計が税務上全額損金扱いとなる前提があったとしても、あまりにも高額な保険への加入は課税逃れが目的ではないかという印象を与え、税務調査で信頼を損ねかねません。あくまでもリスクヘッジのための保証であるということや、多少の事業計画の軌道修正にも対応できる内容であることを加味し、結果として節税につながれば、保険や共済を上手に活用できたといえるのではないでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2018年11月30日)のものです