中小企業の経営者にとっては、財務管理は大きな悩みの1つです。今後数年にわたって、働き方改革による残業規制の強化、被用者保険の適用拡大、消費税務ではインボイス導入など対応が必要な事項が続きます。そんな中で、財務を改善するため、補助金導入を検討してみるのも経営改善に役立ちます。今回は、中小企業生産性革命推進事業に係る補助金について解説します。
中小企業生産性革命推進事業とは、経済産業省所管の独立行政法人中小企業基盤整備機構が、中小企業・小規模事業者による制度変更対応や生産性向上の取り組み状況に応じて、設備投資、IT導入、販路開拓などの支援をして、複数年にわたり中小企業・小規模事業者の生産性向上を継続的にサポートするものです。
同事業の補助金には、「ものづくり補助金」「IT導入補助金」「小規模事業者持続化補助金」の3種類があります。通年の複数回公募ですので、事業者が都合のよいタイミングで申請できます。こうした補助金の中には、今回の新型コロナウイルスによる経営への影響をカバーするため、補助対象を拡大しているケースもあるので要チェックです。
設備投資を支援する「ものづくり補助金」
「ものづくり補助金」は、革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセス改善を行うための設備投資(機械装置・システム構築費・技術導入費・専門家経費・運搬費・クラウドサービス利用費・原材料費など)を支援するもので、補助金額は100~1000万円、補助率は中小企業者が2分の1、小規模企業者・小規模事業者が3分の2です。
実施期間は、交付決定日から10カ月以内(ただし審査合格発表日から12カ月後の期日まで)となっており、発注・納入・検収・支払いなど、すべての事業手続きをこの期間内に完了させなければなりません。交付決定日以前に発注などを行った場合は補助事業経費の対象外になりますから注意が必要です(他の同事業補助金も同様)。
今年度の申請の中で、2次公募が5月20日締め切りでしたから、もう終了してしまいましたが、3次公募が2020年8月頃、4次公募が2020年11月頃、5次公募が2021年2月頃の予定となっています。3次公募以降の申請をめざしましょう。ただ、その際は2次公募とは、要領が変更になる可能性もあります。各回の公募要領をよく確認するようにしてください。
「ものづくり補助金」の申請に当たっては、事業計画期間内で、以下の3要件をすべて満たす事業計画(3~5年)を策定・実施する必要があります。
1.事業者全体の付加価値額(営業利益・人件費・減価償却費を足したもの)を年平均3%以上増加させること
2.給与支給総額(非常勤を含む全従業員と役員に支払った給与、賞与、役員報酬などの額で、福利厚生費、法定福利費や退職金は除く)を年平均1.5%以上(被用者保険適用拡大の対象となる中小企業・小規模事業者などが制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上)増額させること
3.事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にすること
なお、新型コロナウイルスの影響を乗り越えるために前向きな事業者に対して、通常枠とは別に補助率を引き上げ(一律3分の2)、営業経費を補助対象とした「特別枠」を新たに設けた優先的な支援もあります。また、新型コロナウイルスの影響によるサプライチェーンの毀損などに対応するための設備投資などを行う事業者については、上記1~3に係る目標値の達成時期が1年猶予されます。
ITツール導入を支援する「IT導入補助金」…
「IT導入補助金」は、バックオフィス業務の効率化や新たな顧客獲得など付加価値向上につながるITツールの導入支援で、補助率は2分の1です。対象事業者は中小企業および小規模事業者(業種は飲食、宿泊、小売・卸、運輸、医療、介護、保育などのサービス業、製造業や建築業などが対象)です。
「IT導入補助金」の対象となるソフトウエアは、以下の2種類に分けられます。
<1>A類型(1~3つの業務プロセスがあるソフトウエア)は、補助額が30万円から150万円未満
<2>B類型(4つ以上の業務プロセスがあるソフトウエア)は、補助額が150万円以上450万円以下
上記のソフトウエアは事務局に登録されているIT導入支援事業者が提供するもので、6つの業務プロセスに分類されています。
(1)顧客対応・販売支援
(2)決済・債権債務・資金回収管理
(3)調達・供給・在庫・物流
(4)業種固有プロセス
(5)会計・財務・資産・経営
(6)総務・人事・給与・労務・教育訓練
A類型およびB類型共に事業実績報告が必要となります。今年度の第2次は2020年5月29日が申請締め切りなので、間に合わせるのは難しいかもしれませんが、第3次が2020年9月末予定、第4次が2020年12月末予定ですので、それをめざしてはどうでしょうか。
2020年4月、「IT導入補助金」には新たにC類型が創設されました。これは新型コロナウイルス対策で、サプライチェーンの毀損対応、非対面型ビジネスモデル、テレワーク環境整備などに取り組む事業者に優先的に支援する補助金(補助率は3分の2で、最大450万円。PC・タブレットなどのハードウエア・レンタル費用も対象)です。
審査など一定の条件がありますが、公募前に購入したITツールなどについても補助金対象になります。ただし「IT導入補助金」のA・B類型と併用はできません。「IT導入補助金」C類型の補助対象は細かく規定されていますので、公募要項でご確認ください。第1回公募締め切りはA・B類型の第2次と同じ2020年5月29日。詳しいスケジュール発表はまだですが、今後複数回の公募が予定されています。
「ものづくり補助金」と「IT導入補助金」の申請手続きは電子申請のみになります。申請の際に「gBizIDプライムアカウント」が必要です。アカウント取得には最長2週間かかりますので、あらかじめ手配しておくのが確実です。
業務効率化を支援する「小規模事業者持続化補助金」
「小規模事業者持続化補助金」は、小規模事業者による持続的な経営計画に基づき、地道な販路開拓の取り組み(例えば、新たな市場に参入するための販売促進、新規顧客獲得に向けた商品改良・開発など)、さらに併せて行う業務効率化を支援する、原則上限50万円(補助率3分の2)の補助金です。
該当する小規模事業者は、以下の通りです。
【1】商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く)で、常時勤務する従業員数が5人以下
【2】サービス業のうち宿泊業・娯楽業で、常時勤務する従業員数が20人以下
【3】製造業・その他事業者で、常時勤務する従業員数が20人以下
事例としては、新たな販売促進用チラシ作成・送付・ポスティング、インターネット広告、インターネット販売システム構築などが該当し、商工会の助言や指導などの支援を受ける必要があります。今年度の締め切りは、第2回公募が2020年6月5日、第3回公募が2020年10月2日、第4回公募が2021年2月5日の予定です。
以上3つの補助金のほか、新型コロナウイルスへの対応として、中小企業庁の制度・セーフティネット保証4号・5号、危機関連保証により、民間金融機関で実質無利子・無担保の融資が2020年5月より始まりました。これは業況の悪化している個人事業者・中小企業者へ資金供給を支援するための措置です。
対象は、以下の売り上げ減少の要件を満たし、セーフティネット保証4号・5号、危機関連保証いずれかの認定を受けていることです。2020年1月29日から7月31日までに認定を取得した事業者については、従来30日間としていた認定書の有効期限が2020年8月31日までに延長されます。
〔1〕個人事業主(事業性のあるフリーランス含む、小規模のみ)
売り上げが5%以上減少なら、保証料・金利はなし
〔2〕小・中規模事業者(上記除く)
売り上げが5%以上減少なら保証料は2分の1、売り上げが15%以上減少なら、保証料・金利はなし
<融資条件など>
据え置き期間などは最大5年、無担保(経営者保証は原則非徴求)、融資上限額3000万円、補助期間保証料は全融資期間で、利子補給は当初3年
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、全国で中小企業・小規模事業者の資金繰りが逼迫しています。2020年5月1日にセーフティネット5号の指定業種が全業種になりましたので、こうした支援の活用も検討してみましょう。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2020年5月14日)のものです