2017年6月7日、中小企業信用保険法の改正法が成立しました。同法に基づく保険と信用保証協会付融資は密接にリンクしています。今後、銀行や信用金庫が行う信用保証協会付融資がどのように変わっていくか、改正法のポイントを紹介していきます。
融資を行う金融機関の立場で考えた場合、小規模企業はリスクの高い貸出先となります。取引先を1つ失っただけで経営が傾くこともありますし、経営者が病気で倒れることで事業の継続も困難になるといったさまざまなリスク要因があるためです。
大企業に比べて返済が滞ってしまうリスクが高い小規模企業に融資をしていくためには、金融機関側でも“保険”が必要となります。悪習といわれる連帯保証人や不動産担保の設定も、本を正せば金融機関側の“保険”の1つとして行われてきたもの。仮に融資先が返済不能に陥ったとしても、連帯保証人から取り立てたり、担保に取った不動産を売却したりすることで損失額を抑えるのです。
しかし、借り手側の企業視点で考えると、快く連帯保証を引き受けてくれる人はまれですし、担保に出せる不動産がないことも多くあります。そうした小規模企業は、金融機関から融資を受けることが難しくなります。
信用保証協会付融資は、このような金融機関と小規模企業のミスマッチを埋めるために生まれた制度です。借り手側の企業は一定の保証料を支払うことで、信用保証協会が保証人になります。仮に返済不能になった場合は、信用保証協会が保証人として立て替え払いを行うので、金融機関も安心して貸し出せるわけです。
中小企業庁の調べによると、日本の企業数の約3分の1にあたる137万社が信用保証協会付融資を利用しています。信用保証協会付融資は、小規模企業が金融機関の融資を受けるためのツールとして広く普及しています。
事業者支援拡充と同時に、金融機関にリスク負担を求める…
中小企業信用保険法は、信用保証協会に対して財政支援を行うことを定めた法律です。信用保証協会としても金融機関への立て替え払いが相次ぐと経営が苦しくなります。そこで、信用保証協会が立て替え払いした金額に応じた保険金を国から支払うことで、信用保証協会の経営負担を軽減する仕組みをつくったのです。
2017年6月7日に成立した今回の法改正では、信用保証協会が保険をかけられる金額の上限が変更になりました。これまでは、小規模企業向けの保証に対する保険は1社あたり1250万円まででしたが、2000万円にまで拡充されました。借り手側の企業にとっては、2000万円までは信用保証協会が保証人になってくれるということなので、金融機関から融資を受けやすくなるというメリットがあります。
この拡充面だけを切り取って考えると、小規模企業・金融機関の双方にとってメリットの大きい改正と評価できますが、改正内容を綿密に読み取ると違った顔も見えてきます。
信用保証協会は、小規模企業が返済不能となった際、金融機関に立て替え払いすると説明しましたが、この立て替え払いには、融資残額の全額を立て替える「100%保証」と、融資残額の80%を立て替える「80%保証」の2種類があります。
例えば、返済不能になった融資残額が100万円だった場合、100%保証だと100万円が融資した金融機関に支払われますが、80%保証だと80万円だけ支払われます。残りの20万円は金融機関側で損失計上することになるのです。
今回の法改正に伴って、セーフティネット5号と呼ばれる不況業種向け融資を、100%保証から80%保証に切り替えることになりました。セーフティネット5号は、一歩間違えるとノーリスクで融資をして、取れるだけの金利を搾取し、返済不能に陥ったときは責任を全て信用保証協会に押し付ける金融機関が現れかねないといった課題がありました。この課題を解決していくために、金融機関にも一定の責任を負わせる80%保証に変更することになったのです。
セーフティネット5号に過度に依存してノーリスクの融資を行ってきた金融機関は今後、融資姿勢の改善を求められることになっていくでしょう。
もし、現在のメーンバンクが100%保証・セーフティネット5号を使わないと融資をしないという金融機関だった場合は、メーンバンク変更も視野に入れたほうがよいかもしれません。ノーリスクで金利だけは取るという考えの下で融資してきたということですので、今回の法改正を機に融資態度が変わる可能性もあります。
中小企業庁では、金融機関ごとの100%保証利用状況を公表していますので、今後の付き合い方を検討する上での参考材料にしてみるとよいでしょう。メーンバンクが100%保証ありきの融資姿勢なのか、リスクを取って融資していく姿勢の金融機関なのかが分かります。