「事業承継」社長の英断と引き際(第5回)「任せたら口を出さない」が承継の鉄則

事業承継

公開日:2019.06.24

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チロルチョコ(チョコレート菓子の企画開発・製造・販売)

 事業承継を果たした経営者を紹介する連載の第5回は、幅広い世代に愛されているチョコレートブランド「チロルチョコ」シリーズを開発しているチロルチョコ(東京・千代田)の松尾利彦会長だ。3代目社長を務めた松尾会長は、2017年5月に、息子の裕二氏に事業を承継している。承継に至るプロセスと心境を聞いた。

 1903年に松尾利彦会長の祖父・喜四郎氏が福岡県伊田村(現田川市)で菓子製造業を始めたのがチロルチョコの原点だ。1919年に松尾製菓を設立。

 現在多くの人に親しまれているチョコレートブランド「チロルチョコ」が生まれたのは、1962年。2代目社長で松尾会長の父、喜宣(よしのり)氏が開発した。当時は今のような正方形ではなく、長方形の三つ山のチョコレートだった。

そして2004年に松尾会長が企画・販売部門を独立させ、チロルチョコを設立し、現在に至っている。

松尾利彦(まつお・としひこ)会長
1952年、福岡県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒。米国の大学に留学後、77年に松尾製菓に入社。91年、3代目代表取締役社長に就任。2004年、松尾製菓の企画・販売部門を独立させ、チロルチョコを設立。17年5月に息子の裕二氏に事業を承継し、同社会長となる

 松尾利彦会長は、三男一女の長男。「いずれ自分が会社を継ぐのだろう」という意識の中で育ったという。東京の大学を卒業後、米国の大学に留学。帰国後、松尾製菓に入社した。その後、父である喜宣氏の勧めでヤマザキナビスコ(現ヤマザキビスケット)に出向した。

 ナビスコでの経験が、その後の松尾会長の人生とチロルチョコの経営に大きな影響をもたらすことになる。2年間、ナビスコで学んだことは大きく3つあった、と松尾会長は分析する。

 1つ目は、「営業という貴重な経験をさせてもらった」こと。2つ目は、「自分はサラリーマン的に、周囲の人とうまくやっていくことが苦手である」と気付いたことだ。この気付きにより、「自分は他の企業で働くことは無理。居場所はチロルチョコしかない」と覚悟が決まったという。

 そして、3つ目が「コンビニエンスストアという新たな販路を見つけた」ことである。当時、チロルチョコを販売していたのは主に駄菓子屋だった。コンビニエンスストアが数店、出始めたのを営業活動中に発見した松尾会長は、「今後、駄菓子屋はなくなり、コンビニが主流になるだろう。売り先を変えていくには、商品の在り方や営業体制も変える必要がある」と確信した。

 本社に戻った松尾会長は、「三拡運動」を立ち上げる。「三拡」とは、「チャネルの拡大」「エリアの拡大」「年齢層の拡大」を意図したものだ。時流の変化を見据え、社内改革を推進していった。

 その最中の89年、社長の喜宣氏が突然、脳出血で倒れる。一命は取り留めたものの、社長復帰は不可能な体となった。当時専務だった松尾会長が実務をすべて担うことになり、2年後の91年、39歳で松尾製菓の3代目社長に就任した。

 父である喜宣氏とは、「承継について話をしたことは一度もない」という。チロルチョコを開発した父親に尊敬の念を抱く一方で、松尾会長は「かんしゃく持ちでよく怒る父親には、子どもの頃から苦手意識があった」と話す。父と息子が会話をすることなく、事業は承継された。

「会社を継ぎたい」と息子が突然の宣言…

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執筆=尾越 まり恵

同志社大学文学部を卒業後、9年間リクルートメディアコミュニケーションズ(現:リクルートコミュニケーションズ)に勤務。2011年に退職、フリーに。現在、日経BP日経トップリーダー編集部委嘱ライター。

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