今からおよそ500万年前に誕生したヒトの例を出すまでもなく、一部の動物(ゾウ・カマキリ・チョウチンアンコウなど)を除けば、オスのほうが生物学的(体の大きさや筋力の強さなど)にも社会学的(生物学的な優位性による社会的役割など)にも優位にあるというのが一般的です。
そのため自然界ではオスが狩りをし、メスが出産・育児などを行うという役割分担が自然発生的に生まれました。それらの分業は「(性)差別」ではなく、あくまで適材適所としての「区別」であり、当然その意識は日本のみならず世界中に存在していました。その後人間や文明が進化・進歩するにつれ、徐々に「区別」が「差別」に、あるいは「区別」が「同列」に変化することになります。
現在「男尊女卑」意識が強い国は日本・韓国・中国といった東アジアと、イスラム各国だといわれています。これは、それらの国が持つ意識の根底に儒教やイスラム教といった宗教の教えが強く流れているためで、特に宗教への意識が高いイスラム圏では「男尊女卑」が慣習としてだけでなく法律に規定されている国もあるほどです。…
日本は女性の社会進出という面では非常に遅れているものの、そのような国々に比べると女性の権利や自由は法律に規定されていますし、女性に対する積極的な軽蔑・身体的な攻撃・権利否定といった直接的な差別行為は(諸外国に比べ)それほど多くは見られません。「性差別の直接性」という意味では、日本は「男尊女卑の少ない国」であるといえます。
しかし江戸時代あたりから戦後復興期あたりまでは、日本にも確実に「強い男尊女卑意識」が常識化していたことに異論はなく、それらの歴史的事実と「主要先進8カ国にも名を連ねている先進国」としてのギャップが、日本の「男尊女卑」のイメージをより濃くしていると考えられます。
「世界的に見ればそれほどでもないが、先進国としては、日本は強い男尊女卑が残っている国」というのが正しい書き方だといえるでしょう。
(備考)
1.「労働力率」は、15歳以上人口に占める労働力人口(就業者+完全失業者)の割合
2.米国の「15~19歳」は、16~19歳
3.日本は総務省「労働力調査(基本集計)」(平成24年)、その他の国はILO“LABORSTA”、“ILOSTAT”より作成
4.日本は2012(平成24)年、その他の国は2010(平成22)年の数値(ただし、ドイツの65歳以上は2008(平成20年))
(出典:平成25年版男女共同参画白書「女性の年齢階級別労働力率(国際比較)」)
先進国の中でも遅れている日本
前段では言葉的な「日本の男尊女卑」についての誤解を説明しましたが、実際のところはどうなっているのでしょうか。
上の図は、日本・ドイツ・韓国・スウェーデン・米国の計5カ国の「女性の年齢階級別労働力」を年齢別に比較したものです。横軸が女性の年齢、縦軸が女性の労働力率(社会進出率)であるこの図は、「女性が年齢を経るにつれ、社会にどの程度進出しているか、あるいは社会(企業)から隔絶されているか」を表しています。
この図を見ると、スウェーデンをトップに、ドイツと米国が比較的なだらかな山なりのカーブを描いています。これは「女性が労働力年齢に達してからリタイアするまでの間(便宜上20~60歳とする)、その状態に大きな変化はない(年齢によらず、企業が労働力として雇用し続けている)」ということを表します。
対して、「男尊女卑の残る国」として挙げた日本と韓国はどうでしょうか。2国の変化の推移を見ると、数値的には韓国が日本よりも10%ほど低くなってはいるものの、その形は両国とも、30代を谷の頂点とする「M字型」になっています。これは「妊娠・出産の際に一時的に労働(企業)から離れる」ことを意味しており、日本の労働力事情が他の先進国とは大きく異なっている点の1つだといえます。
またこの図から、日本が抱える女性労働力市場の問題が見て取れます。日本と同じくM 字を描いている韓国は全体的な数値こそ低いものの、「40~44歳」時という早い段階で、「M字の谷」から女性労働力率のピークである「25~29歳」時の水準に回復しています。
一方日本はといえば、一度落ちた労働力率が山のピーク近くまで回復するのは「45~49歳」時と、比較的遅くなっています。これは「日本では一旦職場を離れると職場復帰をすることが難しい」ことの証しであり、ここにこそ日本特有の労働市場の闇があると考えられます。
グローバル化が進み、法的整備や個人の意識も大きく改善しているはずの日本ですが、その変化は実際の労働力市場にはまだ反映されていないようです。この状況では、欧米各国から「日本の労働力市場は遅れている」「日本は男尊女卑をいまだに引きずっている」と言われても仕方ありません。