長い間、オフィスの電話はビジネスのコミュニケーションで中核的な存在を担っていた。昭和時代のドラマの1コマで、鳴り響く電話の呼び出し音にオフィス内の緊張感が高まる――などといったシーンを思い出す人もいるだろう。
コミュニケーションのスタイルや電話環境が激変
電子メールの普及、ビジネスチャットやWeb会議など新しいツールの広がりなど、ビジネスコミュニケーションの姿は変わりつつあるが、今でも電話はなくてはならないツールの1つだ。電話番号の記載がなくて問い合わせ先が確認できないようなオンラインショップに対しては、購入を控えるといったリスク管理方法もある。電話はビジネスの窓口として不可欠な存在であり続けている。
とは言え、電話を取り巻く環境は大きく変化している。携帯電話やスマートフォンの利用が当たり前になり、社用でもスマートフォンなどを持つようになって、電話はオフィスのデスク上だけのものではなくなってきた。そして、電話をつなぐ仕組みも、物理的には従来の銅線の電話回線から光ファイバーに変わり、さらに電話交換機による接続から、インターネットなどと同様のIPを使った接続へと移り変わっている。
ビジネス通話に関係するところでは、IP電話への移行や、クラウドPBXの利用といったキーワードを目にしたことがあるかもしれない。コストを引き下げながら、現代のビジネスシーンに合致したさまざまなコミュニケーションを実現するための手法として、IP電話やクラウドPBX(構内交換機)の利用が進んでいる。ビジネスパーソンにとって、IP電話であってもクラウドPBXであっても電話が通じれば良いだけのことだが、今後のコミュニケーションの品質向上とコスト削減には両者とも重要なポジションにいる。ただし、その役割は、それぞれ異なっている。
通話サービスを提供するIP電話とシステムを提供するクラウドPBX…
IP電話とクラウドPBXの役割を整理してみよう。いずれも高度な電話サービスを低コストで実現するためのツールであり、電話やインターネットの仕組みに詳しくない人にとっては、似たようなものに感じるかもしれない。しかし、両者は役割そのものが異なっている。IP電話は通話機能を提供するサービスであり、クラウドPBXはさまざまなビジネス上での通話やコミュニケーションの機能を実現するシステムである。
家庭の電話で例えるなら、IP電話は通信事業者の電話回線を引き込んで利用する電話サービスに相当する。一方のクラウドPBXは、家庭ならばコードレス電話やFAX付き複合機に近いイメージだ。ただし物理的に家庭に設置するコードレス電話や複合機と違って、通信機能を企業内に設置するPBXというハードウエアで実現するのではなく、クラウド上のサービスとして利用する。
双方の役割を知って自社の電話環境最適化の検討を
IP電話は、光ファイバーなどを使った回線の上で、前述したようにIPというプロトコルを使って音声データを運ぶ。IPは、インターネットで動画やWebサイト、SNSなどのデータを運ぶ基本の仕組みで、それらのデータと同様に音声も運ぶわけだ。IP電話を利用する端末は、オフィスや家庭の電話機、スマートフォン、パソコンなどバリエーションが多い。通話料金は従来の電話回線よりも低く抑えられ、動画通信も可能だ。現在では「050」から始まる電話番号に加えて、「03」などの一般の電話番号(0ABJ番号などと呼ばれる)も割り当てて利用することができる。
一方のクラウドPBXは、企業や事業所などにハードウエアとして設置していたPBXの機能を拡張してクラウドに移設したものであることを説明した。PBXが提供していた機能として、内線通話、電話サービスを使った外線通話、通話の保留・転送、電話帳などがあり、これらをインターネットなどの回線を経由してクラウド上で実現する。電話機型の端末やパソコン、スマートフォンなど、インターネット上でデータ通信ができる端末からクラウドPBXに接続することで、内線通話や外線発信、着信などが手軽にできるようになる。
オフィスなどに専用の機器を置かずに済むので、運用保守やハード更新のコストが軽減できるメリットは想像に難くない。さらに、インターネットなどの回線を経由して内外線の発信、保留・転送、社内電話帳などの機能を使えるので、場所や端末の種類を問わずに自社や自席の電話番号でコミュニケーションが取れるメリットもある。場所を問わずに効率的に業務が遂行できるほか、電話の取り次ぎのためにオフィスに人員を配置するといった人材の無駄を省くことにもつながり、働き方改革の第一歩としても有効だ。
ここまで見てきたように、IP電話とクラウドPBXは、それぞれが異なる役割を担いながら、電話環境の変革に対して相互に密接な関係を持っている。従業員が数人といった小規模の企業や事業所ならば、従来の電話回線からIP電話に変えることで、通話料金の圧縮が可能になるほか、パソコンなどを通話やFAXの端末として活用できるようになる。
中規模以上の企業などでこれまで内線通話のためにビジネスフォンやPBXを使っていた場合は、外線として利用する回線をIP電話サービスに変えることで、コスト削減につなげられる。その上でハードとして設置していたビジネスフォンやPBXの機能をクラウドPBXに置き換えることで、どこでも内線でつながったり外線発着信ができたりするように電話利用の自由度をぐんと高められる。IP電話とクラウドPBXというキーワードが気になったら、電話環境を現代向けにアップデートすることでコスト削減や働き方改革の第一歩を踏み出してみたい。
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