いよいよリオデジャネイロオリンピックです。現地時間8月5日、日本時間8月6日に開会式が行われます。日本オリンピック委員会では今回、ロンドン大会の倍の金14個を含め、30個以上のメダル獲得をめざしています。何といっても自国の選手が活躍するのはうれしいものです。皆さんもテレビを前にして「がんばれニッポン」と日本選手への応援に力が入ることでしょう。
オリンピックは参加することに意義があるともいわれますが、やはり勝負の世界。常に勝者と敗者が存在します。孔子とその弟子たちの言動をまとめた中国古典の名著、『論語』には「競争」について、こんな名言があります。
子曰く、君子は争う所なし。必ずや射か。揖譲して升り下り、而して飲ましむ。其の争いは君子なり。(『論語』)
(訳)先生がおっしゃいました。「すぐれた人物(君子)は争いを好まない。せいぜいが弓の腕前を競うくらいである。その場合でも、相手とは互いに礼儀正しく譲り合い、対戦が終われば勝者は敗者に酒をふるまい、恨みを残さない。これが君子たる態度である」。
敗者への配慮を忘れず、感謝する…
スポーツに限らず、学問でもビジネスでも、人間社会に競争はつきものです。競争することで物事が進歩したり、競い合うことで互いを高めたりすることができるというメリットがあります。しかし、勝利に対する行き過ぎた執念、あまりにも勝ちたいという意識を持つと、勝つためには手段を選ばないようになってしまいます。最近話題になった、ロシアの組織的なドーピング問題などはその典型例かもしれません。
人に負けたくない、わずかでも人より抜きん出たい。こうした心理は人間の本能かもしれません。我々が成長するのに非常に大切なことでもあるのでしょう。ただこれが他者をおとしめる方向に向かうと大きな問題です。その端的な例が終了後の敗者への態度ではないでしょうか。
リオオリンピックでも活躍が期待されている陸上短距離のウサイン・ボルト選手。ゴール後に見せる勝利のパフォーマンスが有名ですが、北京オリンピックで両手を広げ、胸をたたきながらゴールしたことに対して当時のIOCのロゲ会長から、「敗者への配慮が足りない」と苦言を受けました。
かつて大相撲で横綱・朝青龍が土俵上でガッツポーズをして批判を浴びたことがあります。土俵外でのトラブルだけでなく、敗者への配慮があまり感じられない土俵での態度に横綱としての品格が問われたことも、相撲界を離れる一因といえるでしょう。
中国古典にはこんな名言もあります。
惻隠の心無きは、人に非ざるなり。(『老子』)
(訳)哀れみいたましく思う心が無い者は人ではない。
惻隠の心は、仁の端なり。(『老子』)
(訳)哀れみいたましく思う心は、仁の糸口である
惻隠の心は惻隠の情(じょう)ともいいますが、相手の心情を深く理解し思いやるという意味です。そして、その相手を思いやる心(情)はやがて人の最高の徳である「仁」に通ずるというわけです。惻隠の情は日本の武士道にも大きく影響していますし、現代の日本社会にも根付いています。
こうした配慮は、日本だけにあるわけではありません。例えば、米国のメジャーリーグにも暗黙のルールがあります。ホームランを打った選手はガッツポーズなどはせずに淡々と塁を回る。これは打たれた投手に対する配慮だといわれています。
ビジネスにおいてもこうした心遣いは大切です。競争相手は、自分を成長させてくれた恩人に他なりません。だからこそ、勝利したからといって、敗者を侮蔑せず、逆に感謝をしなくてはならないのです。17日間にわたって熱戦が期待されるリオオリンピック。日本人選手を応援するのはもちろんですが、努力を重ねてオリンピックに出場している選手すべてに敬意を払い、健闘をたたえるという態度で観戦しましょう。