本格的な夏山シーズンが到来です!読者のみなさんも、夏休みを利用した登山を計画している方が多いのではないでしょうか。この夏、私は北アルプスや南アルプスなど、いくつかの大きな山へ行く予定です。どこかの山頂でお会いするかもしれませんね。
宿泊を伴うような大きな山に登る場合、泊まり方には大きく分けて2つの選択があります。1つは、山小屋(営業山小屋)に泊まる。もう1つがテント泊です。それぞれに長所・短所があり、状況によって使い分けることになりますが、今回はテント泊についてお話ししましょう。私が思うテント泊の魅力を6つの視点で紹介します。
1)山との距離が近くなる
最近の山小屋は清潔で、かつ設備が整っていてとても快適。食事の用意もあり、寝るスペースも提供してくれます。疲れて到着しても食べて寝るだけ。こんなにありがたいことはありません。
でも、山の醍醐味を存分に味わうなら、ぜひテント泊にチャレンジしてみてください。テント泊は山という大自然で、テントの生地1枚隔てられただけのスペースで寝るのですから、物理的に山との距離が近くなります。そして、そういう状況に身を置くと、心も自然に溶け込んでいくように思います。
昨年の夏、北海道・日高の山へ行って、絶景が広がる場所にテント泊をしました。暗くなるまでテントから暮れゆく北の大地の山を眺め、朝は生地を通して入ってくる光で目覚めました。山に来た!という実感に満たされたことをよく覚えています。
テントに落ちる雨の音、生地を揺らす風、沢の水音、朝の光。そういったありのままの自然を敏感に感じられるのがテント泊の最大の魅力でしょう。山の中で過ごす時間が、また格別に感じられます。
2)より冒険的な登山になる
衣食住のすべてを背中のバックパックに詰めて山を歩く。山小屋(他の人)にお世話にならず、自分の好きなことを、自分だけの力で行う。つまり自己完結に近い形をとれるのが、登山のシンプルな魅力の1つだと思います。
普段は感じませんが身の回りのものは便利にあふれていて、日常生活でもビジネスでも誰かの知恵や支えで生きているのが人間です。登山を、そうした便利をそいで自分と向き合える場とみる愛好者も少なくありません。自分の力で山に登り、自分で食事を作って、自分で立てたテントに寝る。登山の一切合切を自分の力でやるってすごいことだと思いませんか。自力で山登りをすることを目的にするテント泊には、より冒険的な楽しさを感じます。
3)自由な山旅を楽しめる…
山小屋を利用するときは基本的に事前予約が必要です。混雑時期は変更が困難だったり、当日も食事の時間が決められていたりと、快適なサービスが受けられる半面、ある程度の制約があります。テント泊の場合は、今日は体調がいいから予定の場所より先へ進もうとか、逆にここでのんびりしたいから1日の行動を打ち切ろうなど、現地でのアレンジも自在。自分の都合で行程を変えられます。
そもそも山小屋ありきの登山は、営業していなければ、その山に登ることもできません。日本の大きな山は、国立公園内であることが多く、テントも指定地にしか張れないことが多いですが、北海道の山など、テント泊でないと登れない山もあります。
初夏、東北の三岩岳へ行ったことがありました。この山には山小屋がないので、よほどの健脚でない限り、テント泊でないと登れません。事前の計画では途中で1泊し、翌朝は早くから山頂を目指して行動する予定でした。しかし、朝起きてみると、テント場周りの景色があまりに美しく、そこから動く気が薄れてしまいました。山頂に登ることなど、どうでもよくなってしまったのです。そして、緑が美しい木々の間にこだまする小鳥のさえずりを聞きながら、のんびり朝寝。当然、山頂へはたどり着きませんでしたが、それに替えがたいぜいたくな時間を過ごしました。そんな自由さもテント泊の長所だと思います。
4)お金を節約できる
山小屋はたいてい1泊2食付きで1万円程度の費用がかかります。それに比べてテントは指定地使用料として、支払う料金が1人1000円程度で収まります。テント泊をするには、テント、シュラフ(寝袋)、マット、調理用具などを買いそろえる初期費用が必要ですが、一度、そろえてしまえば経済的です。私は、長期縦走(何日もかけて山から山へ歩くこと)をする場合、プライベートで行くならテント泊を選びます。
5)自分たちだけの空間を保てる
最近の登山者にはプライバシーを重んじて、山小屋で、知らない人と同室になったり、詰め込まれたりするのを嫌う人もいるそうです。
テントは張ってしまえば、そこにプライベート空間を確保できます。今は、仲間数人で行ってもテントはソロ(1人用テント)で、食べるのも寝るのも別々というスタイルが珍しくありません。そうした楽しみ方も理解できますが、私は友人と行くときは、テントで一緒に過ごす時間も大切にしたいと思っているので、たいていは大きなテントで一緒に寝泊まりします。不思議なことに、普段は話せないようなことも素直に話せたりします。テントで過ごす時間は特別なもので、そこで築いた絆は一生ものです。
6)好きなものを食べられる
行程の厳しい山行のときはフリーズドライ食品を利用するなど、軽量化に努めますが、余裕のあるときは生の野菜や肉を持っていくなど、山で食事を作ること自体を楽しむようにしています。山小屋では、メニューを選べず、出された食事をいただくことになりますが、テントでは自分の好きなものを、好きな時間に食べられます。
女子4人で南アルプス北部の鳳凰三山へ行ったときは、テントの中で盛大なお好み焼きパーティーを楽しみました。とても盛り上がりましたが、道具すべてにお好み焼きのにおいが付き、帰ってからの手入れがたいへんでしたが……。
荷物が重くなる、気象の影響を受けやすいなどの短所もありますが、一度テント泊を経験したら、ハマること間違いなしです。日帰り登山しかしたことがない、宿泊はいつも山小屋という人も、どうぞ山でのテント泊を楽しんでみてください。
なお、道具をそろえることにハードルを感じる人は、まずはレンタルで手軽に楽しむのもいいでしょう。「そらのした」「やまどうぐレンタル屋」などで、登山専用のテント道具をレンタルできます。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年6月30日)のものです。