少子化対策や、女性のビジネス社会における地位向上が必要とされる中、「イクメン」(子育てをする男性)を増やすことが社会的な要請になりつつある。育休宣言をした国会議員の騒動は男女関係の道徳問題であり、男性の育休取得の是非には何の関係もない。
一言で育休といっても「育児休業」と「育児休暇」の2種類があるのをご存じだろうか。育児休業は、育児・介護休業法に基づく休業のこと。同法は、所定の条件を満たした労働者が事業主に申し出れば、子どもが1歳に達するまで育児のために休業できると定めている。これには男女は関係なく、男性でも休むことが可能だ。育児休業は法律に基づくものなので、たとえ雇用主に規定がなくても申し出れば取ることができる。
ただし企業によっては、育児休業の期間は給料が減額されたり、無給になったりすることも多い。これでは、せっかくビジネスパーソンが育児休業を取ろうと思っても、収入減がネックになる。そのため雇用保険法に育児休業給付金の制度がある。
これは、最初の6カ月は休業開始前の賃金のおよそ67%(上限28万5621円)、7カ月目以降は毎月の賃金の50%(上限21万3150円)を雇用保険で支給するもの。休業中に会社から賃金が支払われる場合は、休業中の賃金と育児休業給付金の合計が休業開始前の賃金の80%を超えないように調整される。一定の収入を保証することで、育児休業の取得を国が促している形だ。
育児休暇は法律に基づかない…
一方、育児休暇は法律に基づいたものではなく、ビジネスパーソンが企業との関係において取る休暇である。
育児休業の期間は子どもが1歳になるまでといった規定があるが、育児休暇の場合は、すべて企業ごとの規定による。また育児休業の場合、所定の条件を満たした労働者が申し出れば、企業は必ず育児休業を与えなければならないが、育児休暇にはこうした義務はない。育児休暇は法律上の制度ではなく、あくまでビジネスパーソンが会社との雇用関係において取る休暇なのだ。
男性ビジネスパーソンの育休の取得では、日本は欧米に比べると遅れている。厚生労働省の調査によると、2014年、民間企業に勤める男性の育児休業取得率は2.30%だった。10年前の2004年には0.56%だったのに比べると取得率は上がっているものの、育児休業を取っている男性ビジネスパーソンはまだまだ少ないのが現状だ。育児休暇制度の利用者も2014年の時点で35.1%にとどまっており、男性ビジネスパーソンの多くが育児のために休業・休暇を取っていないことを示している。
一方、欧米では育休を取っている割合が概して高い。厚生労働省の「平成22年度少子化社会に関する国際意識調査報告書」では、子育てに当たって利用した制度について調査を行っている。それによれば2010年、福祉先進国のスウェーデンでは74.0%の男性が育児休業制度を利用している。
先進諸国で少子化が進む中、2014年に出生率が2.0に達して少子化を脱したといわれるフランスは23.5%が育児休業制度を利用していた。また、フランスは育児休業制度のほかに父親休暇制度を利用した男性が44.2%おり、こうした数字と出生率の関連が指摘されている。同調査で、アメリカの育児休業制度利用率は20.2%だった。
推進してもイメージを変えなければ意味がない
少子化対策として、また女性に偏りがちな育児・家事の負担を軽減するため、国は男性の育児休業取得率を2020年までに13%に引き上げる考えだ。2015年には男性が育児休業を取った中小企業に対して最大60万円の助成金を交付する「両立支援助成金」の制度がスタートしたが、今後これを拡大し、中小企業には最大120万円、大企業には最大90万円までの助成金を出す運びになっている。
しかし、国が推進するだけでは男性の育休取得は進まない。育児休業は申請があれば企業側が認めなければいけないことになっているが、実際には「申請を出しづらい」「育児休業を取りたいと言える雰囲気ではない」という声も少なくない。また、上司などが男性の育児参加などを阻害するパタハラ(パタニティー・ハラスメント)の問題も指摘されている。部下の育児参加に理解のある上司「イクボス」の育成など、男性の育休取得には企業側の意識改革が求められている。