物品を購入するとき、会社の経費で落とすために必ず領収書をもらうように心がけている人も多いでしょう。経理の担当者は提出された領収書について、社内コンプライアンスの問題と、税務調査が入った際に税務署から指摘を受けない正当なものかどうかを気にしているのではないかと思います。
領収書や請求書は取引の発生を証明し、その取引内容を示す書類であり、取引上の紛争が発生した場合には証拠物件としての役割を果たす重要なものです。そのため、宛名は「上様」ではなく社名を記入してもらうなど、経理担当者からは形式的に整ったものを要求されているのではないでしょうか。
ちなみに、白紙の領収書をもらって自分で記入したり、記載内容を勝手に修正したりすると、経理担当者から却下される可能性があります。近年はあまり多くないようですが、昔は社内決済を通しやすくするためという理由で、領収書を2枚に分けてもらっていたビジネスパーソンも少なくありませんでした。
こうした取引内容を示す領収書ですが、税務調査においては、架空・架装の両面からチェックが入ります。では、税務署の調査官は、領収書の何を見て架空・架装を判断しているのでしょうか。
手書きの領収書をはじめ、レジで印字された領収書などは、他人にまねできないような「個性」を持っています。
例えば、
① 発行番号を付す
② スカシを入れる
③ 用紙の枠に独特の模様を入れる
④ 独特のチェックライターを使用する
⑤ 取扱者印を押す箇所があり、「取扱者印無きものは無効」と付言する
⑥ 控えとの間に割印を押す
⑦ 新判は発行のつど押印する
⑧ 色彩に個性を持たせる
⑨ 紙質に個性を持たせる
などです。
領収書だけでなく請求書もチェックする理由…
企業が架空の仕入れを計上するときには、架空の領収書を取引先に発行してもらう場合が多いようです。
中には取引先から請求書の用紙をもらい勝手に請求書を作っているケースや、調べてみると請求書までは作っていなかったというケースもありました。これらを踏まえ、調査官が領収書や請求書などをチェックする際には、次のような点に注意して確認しています。
1.個性のない証拠書類か否かを以下のポイントから判断
① 汚れや折り目のない市販の領収書である
② 領収書名がゴム印で押されている
③ 領収者印が摩滅していない
④ 取扱者印がない
⑤ 割印がない
⑥ 発行番号がない
2.領収書に相違する点があるか否か
仕入れ先と通謀して架空仕入を計上し、領収書などを偽造している場合は、同一時期に発行された領収書との間に相違する点がある場合などがある。
一般納税者からすると、金額と発行企業名、ただし書きが記載されていれば、領収書は皆一緒と思っている人も少なくありませんが、細かく見ていくと領収書には個性があり、調査官はそこを入念に確認しているのです。いまだ手書きの領収書にこだわる会社も少なくありませんが、税務署側の目線で見ると、レジから打ち出され、明細が記載されたレシートのほうが、取引内容が正確であり、調査の手間が省けると喜ばれています。飲食店であれば、そこに人数が記載されている場合があり、信ぴょう性が高い取引資料と思っています。
執筆=一般社団法人租税調査研究会(https://zeimusoudan.biz/about)
法人税、源泉所得税、所得税、消費税、印紙税、資産税、酒税・揮発油税、関税、国際税務、公益法人、査察、事務訴訟などの各税務分野の国税出身税理士を招集し、会計事務所向けに相談・教育等を手掛ける団体。現在、在籍する研究員・主任研究員は47名。会員会計事務所は約100会計事務所。
最近の会員向け勉強会は以下のテーマで開催。
『個人課税部門職員の正義感 ~所得税調査で調査官が注視するポイント~』
『スーパー国税調査官の養成~税務大学校の研修体系など』
『消費税インボイス制度のポイント ~適格請求書発行事業者の登録申請に係る注意事項etc~』
『重加算税の適用要件と実務対応 ~「質問応答記録書」を踏まえて~』
『税務署が動く国際税務への対応 国際源泉課税調査のポイント』など。
監修=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役、税務・会計のニュースサイト「KaikeiZine」論説委員兼編集委員。税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。