2002年度以降適用されてきた連結納税制度が、企業グループの一体的な経営を進展させ、国際競争力を維持強化するといった側面で有効に活用されてきた一方、連結納税制度の選択による事務負担の増大や、税務調査後の処理手続きの煩雑さなどが制度のデメリットとして強調されるようになっていたため、計算構造の変更などを中心に制度の抜本的な見直しが行われ、2022年度よりグループ通算制度に移行されました。
グループ通算制度は、100%保有関係にある内国法人の企業グループ内の各法人を納税単位として、各法人が個別に法人税額の計算および申告を行い、その中で損益通算などの調整を行う制度です。イメージ図をご覧いただくと分かるように、連結納税制度における損益通算の基本的な枠組みは維持しつつ、各法人が個別に法人税額の申告・納付を行う点に最大の特徴があります。
また、税務調査などで後発的に修更正事由が生じた場合に、原則として他の法人の税額計算に反映させない仕組み(以下「遮断措置」といいます)とされており、併せて、グループ通算制度の開始・加入時の時価評価課税および欠損金の持ち込みなどについて組織再編税制と整合性のとれた制度となっています。
グループ通算制度の適用法人に対する税務調査をどのように実施するかについては、税務当局で検討を重ねていると思いますが、各法人が個別申告を行うことや、他法人への遮断措置が適用されることから、調査はそれぞれ個別に行われるものと想定されます。
移行前の連結納税制度における調査は、連結グループに対する調査を効率的に進めるため、連結親法人の調査と同時期に一部の連結子法人の調査を並行して行い、それらの調査結果を連結親法人の所轄部署が取りまとめた上で、連結所得金額などの更正を行うといった手続きが多く用いられていたようです。
移行後のグループ通算制度においては、基本的には、従前の個別申告法人に対する調査スタイルが復活することになります。ただ、調査効率の面などを考慮すると、制度適用法人に対する調査が全くバラバラの時期に行われるとは考えにくく、通算親法人や調査必要度の高い通算子法人を中心にある程度の時期に集中して行われるものと思われます。
なお、
①通算グループ全体では当初申告における所得金額がないにもかかわらず、遮断措置の適用により、所得が発生する法人が生ずるような場合
②遮断措置の適用により、法人税の負担を不当に減少させる結果となると税務署長が認める場合
には、遮断措置の規定が適用されず、グループ全体で各法人の調査後の所得金額を再計算する必要が生じますので、こうした場合には、通算グループ全体に対する調査が行われ、連結納税制度のような緊密な調査体制が予想されるところです。
また、いわゆる税務当局の質問検査権の及ぶ範囲についてですが、従前の連結納税制度においては、制度の特殊性から、他の連結法人の取引関係者までも含む幅広い質問検査権が調査担当職員に与えられていました。
一方、グループ通算制度においては個別申告となったものの、通算グループ全体の調査が必要となる場面に備えて、質問検査権が当該法人の所轄部署の職員だけでなく、他の通算法人の所轄部署の職員にも与えられています。ただ、当該法人の所轄部署の職員の質問検査権が他の通算法人に及ぶとされたものの、他の通算法人の取引関係者までは質問検査の対象に含まれないとされていますので、個別申告方式を採用したグループ通算制度の特徴がこうした点においても表れているといえるでしょう。
新型コロナウイルスが感染症法上の5類感染症に移行され、税務当局が新年度(税務当局の事務年度は7月~翌年6月)を迎える本年7月以降の税務調査は、従来のように積極的にマンパワーを投入して実施されると予想されますが、生まれ変わったグループ通算制度を巡って、税務調査が今後どのように展開されていくか、注目されるところです。
【参考メモ】
⇒国税庁では、毎年暮れに「法人税等の調査事績の概要」を発表しており、各事務年度の調査事績の概要をホームページで確認できます。その中に、「連結法人に係る法人税の実地調査の状況」の計表があり、2018事務年度分まで公表が続いていました(令和の時代になると公表がなくなりました)。当時の発表資料の分析になりますが、連結法人に対する調査件数の増加に加え、不正発見割合や調査1件当たりの申告漏れ所得金額・調査1件当たりの追徴税額などを見ても、一般法人に対する調査事績を大きく上回っており、当局が連結法人に対する調査に力を注いできた結果がうかがえます。