とある日、ITビジネス系のサイトを巡回していた筆者、ただならぬニュースを目にして驚いた。それは、会計検査院が2024年10月21日「国のIT導入補助金事業で、2020年度から2022年度の3カ年に1億4755万円の不正受給が見つかったと公表した」というニュース。IT導入補助金は同期間、9万9908社に対して1464億2197万円を受給しているが、見つかった不正受給は氷山の一角で、不正受給を主導していた不適正ベンダー15者の支援した1978事業58億円に対し、不正受給の疑いがあるとして調査を進めているという。
「IT導入補助金では、以下の行為はすべて不正であり、犯罪です」と書かれた「不正行為について」、さらに「立ち入り調査について」「補助金の返還について」「不正に関する情報提供について」に分けて、不正行為に当たる内容、疑わしい場合の立ち入り調査について、後から不正受給であると判断し補助金を返還したい場合の手続きの流れ、不正受給と思われる場合の情報提供について、などが詳述されている。
「IT導入補助金2025」のトップには、「WARNING IT導入補助金は不正を絶対に許しません」-「情報漏洩」「キックバック」「重複受給」「実態のない役務」「なりすまし行為」というバナーが掲げられており、ただならぬ様子が見て取れる。
IT導入補助金の受給を受けている企業は、先述の「不正行為について」をよく読み、公正に受給しているかどうかを一刻も早く確認したほうがよい。不正受給と判断された場合には、「交付決定取消、補助金の返還請求」だけでなく、後述する加算金の支払い、社会的信用の失墜、法的処罰など、多くのリスクを伴うからだ。
なお、「不正行為について」は、不正に当たる行為が列挙されている。引用しておこう。
・不正行為について
IT導入補助金では、以下の行為はすべて不正であり、犯罪です。
1.本補助事業と同一の内容で国(独立行政法人を含む)から他の補助金、助成金等の交付を重複して受けていた場合。
2.事業期間中及び補助金交付後において、不正行為、情報の漏洩等の疑いがあり、補助事業者として不適切な行為を行っていた場合。
3.ITツールが導入されていない、役務の提供がなされていない等、補助事業が遂行されていない場合。
4.補助事業者自身が行うべき行為(申請マイページの開設及びその後の交付申請における手続き等)を当該補助事業者以外が行っていた場合(なりすまし行為)。
5.ITツールの販売金額に占める補助事業者の自己負担額を減額又は無償とするような販売方法(形式・時期の如何を問わず、補助事業者に実質的に還元を行うもの)あるいは、一部の利害関係者に不当な利益が配賦されるような行為を行っていた場合。(下記例①②)
例① ポイント・クーポン等(現金に交換可能なものを含む)の発行・利用を行うことでITツールの購入額を減額・無償とすることにより、購入額を証明する証憑に記載の金額と実質的に支払われた金額が一致しない場合。
例② ITツールの購入額の一部又は全額に相当する金額を口座振込や現金により申請者へ払い戻すことにより、購入額を証明する証憑に記載の金額と実質的に支払われた金額が一致しない場合。
先述の報道によれば、会計検査院の調査における不正受給率は約8%。多くのケースで、ITベンダー(IT導入支援事業者)がユーザー企業に不正を働きかけていたという話である。ちなみに前年度「IT導入補助金2024」において登録取消となったIT導入支援事業者は「IT導入支援事業者の登録取消について」から参照できる。なお、登録取消となったIT導入支援事業者に係る事業者には、今後の対応について事務局からメールで連絡が来るという。
これら登録取消事業者からの申請や、その他の事業者においても上記のような不正行為の可能性が考えられる場合は、事実をよく確認のうえ、必要に応じて自主返還の手続きを行うことになる。なお、個人情報の漏えいなど「不適切な行為」があった場合にも、補助金を返還する必要があるので注意しよう。
交付後に不正行為や不適切な行為が判明した場合やITツールの解約・利用中止した場合、その他の事由で補助金交付を受けた補助事業の取りやめなどが発生した場合は、IT導入補助金2024は「IT導入補助金2024 後年手続きの手引き」、2023後期分は「IT導入補助金2023 後年手続きの手引き」を参照して判断や手続きを行う。不明点があれば、巻末の「サービス等生産性向上IT導入支援事業コールセンター」に問い合わせできる。
なお、2023年7月31日以前の申請分については「IT導入補助金 重要なお知らせ」から登録取消となったIT導入支援事業者を参照しよう。
加えて、各種補助金などの返還手続きを装う詐欺が横行しているため、その点でも注意が必要だ。慎重に事実関係の確認を行ったうえ、判断を行うよう心がけよう。IT導入補助金事務局からの送信をかたった「なりすましメール」も確認されているので、メールが来たときはまずメールアドレスのドメインを注意深く確認しよう。
不正受給するとどうなるのか?全額返還+加算金、不正受給者の公表など不利なこと多々
「IT導入補助金2025」の「資料ダウンロード」にある「交付規定」を見ると「補助金の交付を受け、返還すべき金額があるときは、当該金額を事務局が指定する期限までに事務局が指定する方法で返還しなければならない」とある。
さらに「補助金受領の日から納付の日までの日数に応じ、返還すべき額につき年利10.95%を乗じて計算した加算金」が「事務局が指定する期限までに返還金を納付しなかった場合は、納付期限の翌日から納付の日までの日数に応じ、未納付の額につき年利10.95%の割合を乗じて計算した延滞金」が必要となる。こうした加算金や延滞金は不正受給の発覚や返金が遅くなるほど、額が大きくなるので注意が必要だ。
2023年7月31日以前の申請分については「不正関与の認識があるにもかかわらず補助金を受け取ってしまった場合には「加算金を課した上で返還・納付」だが、「意図せずに補助金を受け取ってしまった場合」に「誓約書」を提出して補助金の返還を行った場合、加算金は課さないことが「受領した補助金の自主返還について」に書かれている。
先ほど登録取消となったIT導入支援事業者が公表されている、と述べたが、会計検査院の報告書には、その他不正が行われた企業名および内容、金額などが公表されている。なお、補助金適正化法に違反した不正行為が発覚した場合、「補助金交付等停止措置企業」として、事業者名が経済産業省のホームページに公表される制度もある。これらは当然、社会的信用の失墜などを招くので注意が必要だ。
補助金不正受給に対し、その後の「不支給期間」は一般的に「5年間」とされているが、全額返納していない場合は、その期間分が延長される。その他悪質な場合など、詐欺罪に該当するケースがあり、10年以下の懲役など刑事罰が科せられる可能性がある。さらに、補助金適正化法では「不正の手段により補助金等の交付を受け」た者などに対し、5年以下の懲役または100万円以下の罰金、またはその両方が科される、とも書かれている。これらのデメリットを考えると、不正受給は行わないのが身のためなのは言うまでもない。ただし、「意図せず」受給を受けた、などの可能性がある場合、迅速に相談窓口や警察、弁護士などに相談するのがよい。
今後どうなる? 傾向と対策
IT導入補助金に限らず、補助金の申請を行うときは、ベンダーや支援事業者任せにせず、自社でもよく情報を確認のうえ、正当に判断を行う必要がある。会計検査院の報告書における事例によれば、実質的還元、虚偽申請、第三者申請が多いため、仲介者の甘言に乗らないよう、注意が必要だ。場合によってはそうした業者をいさめる立場になるべく、日ごろの知識や意識を高めておくことも大切だろう。
IT導入補助金は、昨年の12月17日に可決された令和6年度補正予算に組み込まれており、2025年度も行われることが決定している。令和6年12月版のパンフレットによれば、「導入関連費に加えて、IT活用の定着を促す導入後の“活用支援”も対象化」するなど(パンフレットに赤字で示されている)バージョンアップされているので、ますます活用したいのは確か、でもある。
「意図せず」も含む補助金不正行為の防止のためには、自社においてITツールの見積もりや契約内容、補助金の内容や公募要領、申請手順など正確な情報の把握、申請部門に対しての他部門からの二重チェック、定期的な監査による申請プロセスの透明化の確保、補助金制度やリテラシーなど知識を深める社員教育の強化、が挙げられる。申請・続きについては「新規申請・手続きフロー(中小企業・小規模事業者等のみなさまの手続き)」がよい参考となる。
「IT導入補助金制度概要」によれば、IT導入補助金は「中小企業・小規模事業者等の労働生産性の向上を目的として、業務効率化やDX等に向けたITツール(ソフトウェア、サービス等)の導入を支援する補助金」と書かれている。IT導入補助金の目的はあくまで「ITを利用した経営課題の解決」。本来の目的を忘れず公正に制度を活用、今後の未来に役立てていこう。
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