もう1つの事例は「フレンチバル&レストラン ジェイズ」です。これは2013年にプロフィット・ラボラトリーが買収し経営しているレストランです。同社がプロデュースを請け負う前、商品はフレンチのコースで、顧客は一般客、販売方法はウェブや看板でした。
通常の弁当店の弁当よりも、フレンチレストランが作る弁当には特別感があり、月に1万2000~1万3000個ほど売れて、年間で6000万円ほど売り上げが上乗せになったそうです。
「リーズナブルなお店ではあったのですが、フレンチのコースというとどうしても敷居が高く、立地も地下1階で、一般客を集客しづらい状況でした。そこで商品を通常のフレンチのコースからフレンチの食べ放題にずらしました。
これは珍しいということで、メディアにもたくさん取り上げられました。1カ月で予約が1000件くらい入り、1カ月先まで予約が一杯になりました。売り上げは130%ほどアップ。月に約400万円だった売り上げは500万~600万円になったのです。コンセプトは、『フレンチをおなか一杯気兼ねなくお楽しみいただけます』です。女性客にも非常に好評でした」と平川社長は説明します。
ジェイズで使用した販売方法に、ファクスDMがありますが、これはプロフィット・ラボラトリーが顧客企業のマーケティングを行う際に得意としている戦術の1つです。「満席FAX」と名付けてサービス化し、飲食店を中心に全国約1万店舗と契約しています。顧客店舗からある特定の距離にある法人に向けて、ファクス送信を代行するサービスです。
満席FAXのサービスでは、集客しにくい平日用に割引クーポンを付けるなど、どうすればお客を呼べるかファクスの内容(原稿制作)のコンサルティングから請け負い、ファクス用チラシを作成、複数回線を保持する業者を介して一斉送信するまでを行います。初回の原稿制作は1案件1万円ですが、その後の小さな修正などは無料で、ファクス送信は1件あたり25円で請け負っています。
例えば仙台の飲食店で、金土日の繁忙期を除き、10日間だけ使える「生ビール100円クーポン」のファクスDMを2000件の周辺企業へ送ったところ、その効果は大きく、10日間で160人を集客し、50万円の売り上げ増になったといいます。2000件の送信を依頼しても送信料は5万円なので、宴会を1件取れれば顧客店舗はペイできる仕組みになっています。
同社が満席FAXのサービスを始めたのは2009年、東京都内で3店舗を展開するある飲食チェーンのマーケティングを担当したことがきっかけでした。
「アルコールを扱う飲食店のお客様は、会社帰りの方がほとんど。いってみれば法人客なんです。ならば、会社からの帰り道に歩いているところを呼び込んで営業するのではなく、昼の2時や3時に今日はどこに飲みに行こうかと想起させれば必然的にお客様は増えるのではないかと考えました。
ところが飲食店は、そのようなプッシュ型の営業をほとんどしていないのです。理由は2つ。『経験がないからやりたくない』という感情的なものと、『仕込みやアルバイトの管理などで忙しく時間がない』というものです。そこで、商品はずらさずそのままで、看板や店頭でのチラシやティッシュ配り、あるいは飲食店検索サイトへの掲載といった販売方法を、法人へのプッシュ型営業へずらすことを思い付きました」
同社は営業を代行し、試しに飛び込み営業と電話営業、ファクスDMの送信をしました。その結果、ファクスDMの時間対効果が最も高かったのだそうです。
「飛び込み営業だと、1日に回れるのは頑張っても50件程度、これを1万件くらい当社でやっていたらもうヘトヘトになって、当然これを店舗がやるのはとても無理で、再現性がないと思いました。郵送DMは1通100円ほどとコストが掛かりすぎます。ファクスが一番安くて反応が良かったのです」
最初の飲食店は周囲の2300社ほどにファクスを流した結果、売り上げが40万円ほど上がったといいます。そこで、自社事業として「満席FAX」のサービスを始めたのです。ファクスにクーポンを付け、会計時に回収できるため、効果が明確に分かるのもこのサービスが飲食店に受け入れられている理由の1つでしょう。
全国の法人のデータベースが圧倒的な強み
同社がこの満席FAXのサービスで成功している大きな理由がもう1つあります。それは、全国各地の法人のファクス番号を保持していることです。
インターネット上でファクス番号を公開している企業や自治体などの番号を在宅ワークが可能な主婦に依頼したり、独自のツールを使用するなどして集め、現在約300万件のリストをデータベース化しています。それを国土地理院の地図情報と連動させ、緯度と経度に座標化させて、「起点の住所から半径○キロ以内の法人」を絞り込むシステムを開発したのです。
「この技術は特許を取得しました。これが当サービスの一番の参入障壁となっており、他社はなかなかまねできないだろうと考えています」と平川社長。
現在、プロフィット・ラボラトリーでは、満席FAXサービスを北海道から沖縄の離島の顧客店舗まで、全国展開しています。首都圏と地方の割合は7対3ほど。地方と都会では絞り込む距離が変わってきます。
「例えば東京の赤坂だと、お客様に来店してもらうには半径1.5キロくらいが限界ですね。新潟の魚沼市なら、半径20キロでもお客様が来ます」
顧客店舗からは効果のフィードバックを受け、ファクスを送る法人の距離や、サービス内容を調整していきます。
「正直、やりすぎたなということもありましたね。平日限定でクーポンを出したあるステーキ専門店は、1700名ほどお客様が来店されて、そのほとんどがファクスのお客様でした。ファクス以外のお客様を逃がすのはもったいないので、そういう場合はクーポンの特典を弱めたり、半径の距離を縮めたり、顧客店舗と話して調整します」
効果が高いのでリピートも多いこの満席FAXサービスですが、毎月1回依頼する店舗もあれば、年に1回だけの店舗もあるといいます。
同社は年間7回ほどがベストとして勧めているそうです。毎月送る場合は、ファクスを送る時間帯と曜日を変え、受信する法人にとっては「いつ届くか分からない」状態にすることが大事だといいます。決まった日付や曜日に送信すると、受け取るお客にとってサプライズもないし、クーポンなどのサービスは当たり前になって、お客はそれが来るのを待って来店するようになってしまうのだそうです。これだと、プラスオンの集客効果が薄れてしまいます。
顧客店舗からプロフィット・ラボラトリーへのフィードバックの中で、「ファクスを送信した法人からのクレームの有無」についても項目がありますが、これまでにほとんど法人からのクレームはないといいます。その理由は、「他がやっていないから」と平川社長。
「当社のサービス以外で飲食店のクーポンやサービスプランの情報が会社にファクスで届くということはほとんどありません。もし多くの飲食店がやり始めると、『また飲食店からの営業が来た』と思われてクレームになってしまいます。誰もやっていないから法人のお客様にも耳寄り情報として重宝されますし、直接の顧客である外食店舗からも喜ばれているのです」
また、まれにクレームがあった場合でも、過去5年間分のその記録を全て法人データベースに記録しているため、二度とその企業には送らない仕組みができています。これも他社がまねできないことの1つでしょう。