会社経営をしていく中では、経済センサス、工業統計調査とさまざまな調査に回答していく場面があります。調査の主体は、総務省、経済産業省、県庁、市役所といった公的な機関であることが多いですが、その中に紛れて、帝国データバンク、東京商工リサーチといった名前を見かけたことはないでしょうか。
まず知っておきたいのは、帝国データバンク、東京商工リサーチという企業は、民間の信用調査会社なので、調査に回答しなければいけないという義務はないことです。答えたくない情報を無理に回答する必要はありません。
しかし、回答することによるメリットも存在するので、そのことを踏まえて回答するかどうかを判断しましょう。判断の材料として、信用調査会社の調査に回答することで、それが自社にどのようなメリットがもたらされるのかは知っておくべきです。
信用調査会社の役割
民間の信用調査会社は、他社の財務情報を知りたいと考える存在がいるからこそ成り立っている業種です。他社の財務情報を知りたいと考える存在とはどんなものが考えられるでしょうか。中には競争相手の内情を知りたいというライバル企業もあるかもしれませんが、それよりも多いのは、自社の取引先になり得るか、自社の取引先としてふさわしいかなどを知りたいという顧客の内情をチェックする企業だと思われます。
株式を公開しているような企業は、財務情報の開示義務などがあるので、ある程度公開情報から内情が分かります。しかし、それ以外の企業の場合、公開情報以外の情報収集が必要となります。その主要な手段の1つが民間の信用調査会社のデータを利用することなのです。
金融機関を含め、会社を相手にしていくBtoBのビジネスの世界で、新規取引先を開拓していくに当たっては、手当たり次第に営業をかけるのではなく、不良債権になるリスクが高い会社を除くという、営業先を選別していくことが重要となります。また、一旦取引を開始しても、それを継続していいのかというチェックを定期的に行う必要もあります。そのため、新規に取引を開始しようとする企業はもちろん、時には既存の取引先についても信用調査会社に情報を求めるのです。
金融機関はどのように信用調査会社を使っているか…
一般企業に対する金融機関の主な取引は融資です。融資は、取引先に100万円を貸し付けた段階で利益が確定するというものではありません。例えば、年利が1%だとすると、100万円を融資し、金利分も含めて1年後101万円を返済してもらった段階で、ようやく1万円分の利益が出るのです。利益が出るまでに時間がかかるのですから、すぐに返済不能の状態に陥られると、金融機関の損失となります。当然、返済不能となるリスクが高い会社との取引は行わないように気を付けて情報を収集します。
融資の際にはもちろん、融資先の企業から、財務や経営に関する資料を提供してもらうことになります。しかし、その資料だけでなく信用調査会社からの情報も参考にして、融資の可否を決めるケースが少なくありません。
金融機関によって、信用調査会社から得る情報の使い方は異なります。例えば、ある金融機関では、信用調査会社から入手した企業の情報に、一定以上の売上高があるという条件で営業先を抽出し、融資ニーズの掘り起こしに使います。別の金融機関では、信用調査会社が企業の経営状態を評価した「評点」を抽出材料に用いて取引先の拡大を図っているところもあります。
信用調査会社の評点とは?
評点とは、企業の売上高規模、収益性、財務の健全性、資産状況などに関する情報を基に、信用調査会社が独自に経営状態を点数付けしたものです。点数が高いほど、倒産リスクが低いとされ、金融機関にとって営業をかけたい相手になります。
金融機関は、取引先からの資料などを基に、独自に企業を採点・ランク付けすることによって、顧客管理と融資審査の効率化を図っています。それを裏付ける情報の1つとして信用調査会社の評点も利用しています。
こうした背景から、信用調査会社の調査に回答しないと、経営情報が分かりにくい企業になってしまい、金融機関は返済不能になる可能性が高いのか低いのかという判断ができません。よって、融資が受けられないといったリスクが生じるのです。
信用調査会社との向き合い方
冒頭でも触れた通り、民間の信用調査会社の質問に回答する義務はありません。しかし、質問に回答することで信用調査会社のデータベースに自社の情報が収録されます。そのことが金融機関の判断材料に加わるならば、新たに融資を取り付ける際などにメリットとなるので、適切に対応する必要があります。
ただ、金融機関にとって、信用調査会社の情報はあくまでも企業に対するファーストアプローチに使ったり、補完資料として参考にしたりするものです。信用調査会社の評点を上げるために、財務状況などを良く見せたとしても、融資審査時に提出する決算書と違いがあれば意味がありません。むしろ、財務情報をごまかす傾向がある企業と受け止められてしまう可能性すらありますので、正直に答えましょう。
そのため信用調査会社の調査では、その先にいる金融機関や取引先のことを考え、自社のありのままの姿を知ってもらうのだという意識を持って対応することが重要です。調査内容は、財務状況などの数値を回答する以外に、業況や将来の見通し、投資の予定といったものもあります。これらの質問には、経理や財務では答えられないケースも多いはずです。それに正確に回答できる経営陣が対応することを考えるべきでしょう。
【参考文献】
平成28年6月中小企業庁「平成 28 年度中小企業等に関する信用情報提供サービスの実態調査事業報告書」第3章
http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000647.pdf