経営者として事業を行う上で大切な業務の1つに資金繰りがあります。仕入れ代金の支払日や、支払手形の期日、融資の返済日などに必要な資金がないと企業は倒産の危機を迎えます。売り上げの代金をすべて現金で即時に支払ってもらえれば資金繰りの苦労は少なくなるのですが、手形で受け取ったり、帳簿への記載と入金時期にずれがある掛取引になったりするケースも多いのが実情です。
しかし、手形取引や掛取引によって生まれた売掛債権は支払期日までは現金化できないため、帳簿では黒字になっていても、現実では現金の持ち合わせがないという資金ショートが生じることがあります。こうしたとき、従来は支払期日前の受取手形を金融機関に買い取ってもらう手形割引や、金融機関から手形貸付や証書貸付によってつなぎ融資を受けることなどでしのいできました。最近はそれらに加えて売掛債権を売買するファクタリングという手法が定着しつつあります。
ファクタリングとは
ファクタリングは、売掛債権の譲渡または売買契約のことです。つまり自社が持っている“モノ”を他社に販売するのと同じことになります。ファクタリングの場合、他社に販売するモノが「売掛債権を受け取る権利」なのです。
例えば、印刷会社がパンフレットの印刷契約を500万円で受注したとしましょう。これにより印刷会社側には、500万円の売掛債権が発生します。この500万円の売掛債権を他社に売却することで現金化することが、ファクタリングという資金調達です。
ファクタリングを活用するメリットは、現金の入金・支払時期のタイムラグを原因とした資金ショートによる黒字倒産を防げることです。
先ほどの印刷会社を例に、資金ショートの仕組みを解説します。
●パンフレットの印刷契約を3月1日に締結しました。印刷代金の支払いは、納品日の月末までに入金されるスケジュールです。
●印刷会社は、パンフレットの印刷に必要な紙を製紙会社から購入することにしました。購入代金は200万円で、支払期日は3月31日で現金払いです。
●紙が印刷会社に納入されるのは、支払期日後の4月5日となっています。
●印刷会社は4月5日に紙が納入されると印刷を行い、4月15日にパンフレットを納品。契約にあるスケジュールにのっとると、4月30日に印刷会社へ売掛債権の500万円が支払われます。
この契約は、現金の入金が4月30日で、支払いの時期はその前の3月31日ですから、1カ月のタイムラグがあり、その間の資金繰りを考える必要があります。こうした際に有効なのがファクタリングの活用です。
ファクタリングとは、支払期日前の売掛債権を第三者へ売却するというものです。例示した印刷会社の場合なら、契約締結後に500万円の売掛債権を売却し、それを3月31日の紙の代金に充てれば、いいのです。
割引手形・融資との比較…
このような資金ショートを防ぐことは手形の割引や融資でも可能ですが、それぞれ問題点があります。
手形の割引は本来の支払期日に口座へ振り込まれるお金で弁済する仕組みです。そのため割り引いてもらった手形に関して期日までにお金が振り込まれず不渡りとなった場合は、事前に受け取ったお金を、金融機関に返済することになるのが一般的です。そのため、支払手形の振出人である企業の支払い能力を把握しないと、リスクのある資金調達となってしまいます。
また、つなぎ融資を受ける場合には、借り手としての適格性の審査=融資審査が必要になります。そのためには、借り手である企業は財務諸表などを提出して経営状況を報告するコスト(手間)があり、金融機関にもチェックするコスト(手間)が生じています。
一方、ファクタリングは売掛債権の売買であるため、手形割引のように不渡りによる問題が生じたり、融資のように借り手の審査が行われたりすることはありません。売掛債権を買う側(ファクタリング会社)がチェックするのは、売掛債権が実際に支払われるかという信用度です。
前述したパンフレットの印刷契約の相手が、名前を知られた大企業、もしくは国や県庁といった政府機関だったとします。資金力豊富な大企業や政府機関であれば、パンフレットの印刷代金を踏み倒すことなく、まず契約通り4月30日までに代金を支払ってくれるでしょう。
売掛債権を買う側からすると、売り手である印刷会社よりも、売掛債権の相手方である取引先の信用力が重要なのです。ファクタリングによって、印刷会社は、つなぎ融資で必要だった自社の信用力を証明するコスト(手間)を削減できますし、買い取り側(資金提供者)も貸し倒れのリスクを軽減することができます。
近年では銀行や信用金庫といった金融機関でも、ファクタリングサービスを手がけるところが出てきています。優良な取引先を抱えていて売り上げが黒字の企業には、融資よりファクタリングのほうにメリットがあると考える金融機関もあるようです。
ファクタリングの注意点
ただし、ファクタリングは売掛債権と同額の金額で売却することはできません。例えば、500万円の印刷代金の売掛債権を400万円で印刷会社から買い取って、取引先から500万円の入金を受ける、あるいは500万円で購入した上で、印刷会社から別途手数料を徴収するなどという仕組みです。つまり売り手としてファクタリングを利用する際は、最終的に会社の手元に入ってくる金額が契約時よりも少なくなるという点を理解しておくことが必要です。
また、金融機関が提供するファクタリングサービスは、売掛金の入金先を、売り手から、金融機関に変更する3者間ファクタリング方式が一般的であるため、売掛債権の帰属先や代金の入金口座の扱いについて取引先にも了承を得ておく必要があります。
その場合、取引先に売掛債権を売却したことを知られることになります。それにより取引先から、資金繰りを不安視されるというリスクが3者間ファクタリングにはあります。つまりにファクタリングは、売掛金が目減りする、取引先に売却情報が伝わるといったことがデメリットとなります。
資金ショート対策となるファクタリングですが、前述のようなデメリットには注意が必要です。今回紹介した3者間ファクタリング以外に、取引先に情報が伝わらない2者間ファクタリングという方式もあります。しかし3者間方式と比較して手数料が高かったり、闇金業者による詐欺が横行していたりという問題があります。そのような点からファクタリングの活用を検討される際には、買い手が信用できる企業や機関であるかというチェックを怠らないようにしましょう。