資金繰りの手法の1つとして、前回、売掛債権の売却で現金を得るファクタリングを解説しました。そのファクタリングには2社間方式と3社間方式があります。今回は近年増えつつある2社間方式を中心にファクタリングを利用する際の注意点を説明します。
また売掛債権および在庫などの動産を担保とした資金繰りの手法として、動産・売掛金担保融資(以下、ABL)についても解説します。
3社間ファクタリングと2社間ファクタリングの違い
前回、紹介したファクタリングには、売掛債権を売却する企業(A)、売掛債権を買い取るファクタリング事業者(B)、売掛先の企業(C)によって行われる3社間方式のほかに、AとBだけの2社間方式というものもありますと説明しました。両方式の違いは、3社間方式はCに債権譲渡の承諾を得る必要があるが、2社間方式はAとBの間の関係のみで契約が完結する点です。
そもそもファクタリングは、3社間で行われることが一般的です。売掛債権を買い取るBの立場からすると、Cから債権譲渡の承諾を得ることで確実性が高まるためです。
2社間方式はファクタリング事業者からすると、売掛債権を売却する企業のことを信用した上で、債権の回収に至るまでの手配一式を任せるということになります。契約当事者は2社だけですので、契約条件は柔軟に設定できるなどのメリットがあります。ただし、売掛先の企業に不測の事態が生じて、売り掛けが回収不可能となった場合、損害を被るのはファクタリング事業者です。
そのファクタリングで売買の対象としているのは、売掛債権という目に見えない不確実な資産です。その売掛債権は実在するのかといったところから確かめる必要があります。こうしたこともあり、金融機関の関係会社などが提供するファクタリングサービスでは、基本的にリスクがより低い3社間方式を採用し、独立系のファクタリング事業者が2社間方式のサービスを提供するケースが多いようです。
悪質な偽装ファクタリング事業者も潜む2社間方式…
2社間方式のファクタリングのメリットは、契約内容を柔軟に設定できることです。一方、デメリットは3社間方式に比べて手数料が高いことです。
契約内容を柔軟に設定できるということは、売掛債権を売却する企業に不利益な契約を結ばせることも可能だということです。例えば、売掛債権を買い取るファクタリングと称しつつ、実態は融資に近い形態の契約を結ばせる悪質な偽装ファクタリング事業者もあります。
ファクタリングは、あくまでも売掛債権の売買です。売掛債権を現金化できなかったときのリスクは買い手側が負います。しかし、偽装ファクタリング事業者は、売掛債権が現金化できなかったときや不良債権化した場合に、売掛債権を持ち込んだ企業に買い戻しをさせることができる償還請求権のある契約を結ばせたりします。こうした偽装ファクタリングを行う悪質な事業者が横行しており、2017年には貸金業法違反で摘発される事件も発生しました。
償還請求権のある契約は、売掛債権の売買ではなく、売掛債権を担保とした融資です。金融機関もしくは貸金業登録をした業者しか行うことができません。偽装ファクタリング事業者に引っかからないよう、2社間方式のファクタリングを利用する際は、償還請求権の有無を契約時に確認し、「有る」場合は事業者が貸金業法に登録されているかを確認しましょう。
貸金業法に登録されている事業者なら、返還請求権がある契約の場合は、ファクタリングではなく「動産・ABL」という融資であることを説明してくれます。
ユニークな動産も担保に認める融資ABL
ファクタリングは売掛債権の売買であり、資金を借りる融資ではありません。金融機関に売掛金が入金されなくても、売却した企業側に資金の返還を求めないというのが原則です。返還請求権が契約にある場合は、前にも述べた通り、ファクタリングではなくABLとなることが貸金業法で定められています。
ABLは売掛債権に加えて、従来なら認められることが少なかった動産も担保することが可能な融資です。2013年に金融検査マニュアルで、その運用が明確化され、中小企業の経営改善・事業再生などを図るための資金調達の1つとして、金融庁が積極的な活用を推進しました。その動産として担保に供(きょう)されるのは、商品や製造途中の仕掛品といった「在庫」も含まれています。
運用の明確化に伴い、動産担保に認められるものが増え、ユニークな事例が見られるようになりました。例えば、自動車販売店の店頭に並ぶ自動車。変わったところでは、人形店がひな人形を担保に融資を受けています。1年を通じてひな人形を作りためておいても、それが店頭での販売実績につながるのは3月の桃の節句に近づいてからです。今は在庫として眠っているひな人形が、3月には確実に売れるだろうという商品価値が評価され、ABLを受けられました。
ABLは、このように商品在庫を保管している消費者向けの小売り販売業や、製品在庫を抱える製造業などといったビジネス形態での活用が見られます。売掛債権のファクタリングがうまく進まなかった際は、金融機関に対して在庫などの動産を担保にしたABLを認めてもらえるか問い合わせてみることもよいでしょう。
資金繰りを支援する金融サービスは、さまざまなニーズへ対応すべく多様な広がりを見せています。融資やファクタリングがマッチしないと考えられていたビジネスの形態や規模でも、ABLのようにマッチするサービスが存在するかもしれません。しかし金融サービスが多種多様となっているからこそ、利用の際には自社のビジネス形態を鑑みて、それぞれの特徴とメリット・デメリットを把握することが重要になります。