心と体の両面で健康を保ち、生産性を上げる方法を紹介する連載の第13回は血圧調整に役立つ体内リズムの整え方について取り上げています。
血圧とは、血液が体内をめぐる際に、血管壁にかかる圧力のことです。心臓から送り出された血液は動脈を通って、体内の随所に酸素や栄養を運びます。また静脈を通って、体内の随所から、不要な老廃物などを回収して腎臓などに運びます。と同時に、二酸化炭素を回収して肺に運びます。
血圧が低過ぎると、全身に血液を送り届けることができず、血液が届かなくなった部分の組織は死んでしまいます。立っているとき、頭は心臓より上にあり、血圧が低いと、頭に血を届けられずに、脳が酸素不足になり、意識が失われます。
そこまでいかなくても、低血圧の人の中には、立ちくらみや冷え性、肩こり、だるさ、食欲不振、寝つきが悪い症状がしばしば見られます。低血圧症と呼ばれるこの症候群は、低血圧だから症状が出るのかどうか、よく分かっていません。低血圧を含む一連の症状がある体質に由来する可能性などが考えられます。
血圧が高い場合、すぐには問題が見えません。しかし、血圧が高い状態が続くと、血管が傷ついたり、劣化したりしていきます。結果、血管が硬くなり、さらに血圧が高まるという悪循環に陥ります。やがて、脳梗塞や脳出血、心筋梗塞など、血管が破れたり、詰まったりして、血液が必要な所に届かない事態になります。
血圧は高過ぎても低過ぎても、体に大きなダメージを与えます。
適切な血圧とは?
2014年版「高血圧治療ガイドライン」では、血圧の正常値は「140/90mmHg未満」とされています。この基準値は、病院で測定した「診察室血圧」に関する基準です。診察室では緊張するため血圧は高めになります。家庭で測定する場合は「135/85mmHg未満」が正常血圧とされています。
高血圧はいまや国民病であり、通院者率の高い疾病の1位は男女共に高血圧です。男性の場合は2位の糖尿病の倍以上、女性の場合は2位の脂質異常症(高コレステロール血症など)の倍近くです。しかも以前よりもその率は高くなっています(図表1参照)。
■図表1 性別にみた通院者率の上位5疾病(複数回答)
注
1)通院者には入院者は含まないが、分母となる世帯人員には入院者を含む
2)2016(平成28)年の年数は、熊本県を除いたものである
血圧については、高血圧に関する基準だけで、低血圧に関する基準値は出されていません。最高血圧が100mmHg以下、最低血圧が60mmHg以下のどちらか、あるいは最高血圧が100mmHg以下かつ最低血圧が60mmHg以下の場合に、低血圧と診断されることが多いようです。ただ、最高血圧が110mmHgでも、だるさや冷え性などの低血圧症の症状がある場合には、低血圧症と診断されます。
血圧調整の仕組み…
血圧は、心臓から拍出される血液量=心拍出量と、末梢(まっしょう)血管での血液の流れにくさ=末梢血管抵抗で、ほぼ決まります。心臓が力強く、たくさんの血液を送り出すと、血圧は高くなります。
また、末梢血管での抵抗が強まり、末梢血管に血液が流れにくくなると、何とか血液を届けようとして、結果、血圧が上がります。血液が体の隅々にまで届くように心拍動、つまり心臓の血液を送り出す動きが強まり、心拍出量が増えるからです。
心拍出量が減ると、逆に血圧は低くなります。また何らかの原因で血管が拡張すると、血管にかかる圧力が下がります。このほかにも多少関わっている要素があります。
1つは大動脈の弾力性。血管壁が硬くなると、血液が多く流れてきたときに広がらず、血管にかかる圧力は高まります。血液の粘性が高い、つまり、いわゆるドロドロ血の場合、血管内の血液が流れにくくなります。そのため、血液をスムーズに流そうと1回の拍動が強まり、血圧が上がります。
血液循環量、体内をめぐっている血液の量も血圧に関わっています。
血圧を調整している自律神経と腎臓
血圧調整に深く関わっているのが、自律神経と腎臓です。
血圧は一日のうちでも変化しています。朝、目覚める少し前から、その日の活動に備えるように上がり始めます。昼間、活動する時間帯は高いままですが、夕方から次第に下がり始めます。睡眠中はさらに低くなります。活動する時間に高く、休むときは低くなる、これが血圧の正常な状態です。
この体内リズムと自律神経は連動しています。自律神経には活動的に動くときに優位になる交感神経と、休むとき、食べ物を消化するときに優位になる副交感神経があります。活動的に動くときは交感神経が活発になって血圧が高くなり、休むときは副交感神経が優位になって血圧が下がります。
腎臓は3つの点で血圧とかかわっています。1つ目は腎臓の塩分と水分を調整する役割によるものです。腎臓は食事から摂取した塩分を水分と共に尿として排出しています。腎臓の働きが落ちると、塩分と水分がうまく排せつできずに、それが血液量を増やし、結果、血圧が上がります。
2つ目は、腎臓が分泌するホルモン「レニン」の血圧を上げる作用によるものです。腎臓は流入する血液が減ると、「レニン」を分泌します。3つ目は、腎臓に無数にある末梢血管との関係によるものです。腎臓の働きが悪くなると、その末梢血管が硬くなって血液が流れにくくなり、末梢血管抵抗が大きくなり、血圧が上がります。
血圧調整力を高める生活習慣
血圧を高過ぎず、低過ぎない、適切な状態に保つためには、体内リズムを整えることが大切です。
現代人は夜型になり、夕方以降に休む態勢に入るどころか、そこから活発な活動を開始する人も少なくありません。それが血圧調節力を下げてしまう原因です。夕方からはリラックスの時間にして、ゆっくりと落ち着いて、腹八分目の食事を取り、ぬるめのお風呂に入って、副交感神経優位の状態に導きましょう。
高血圧の人は、朝はすでに血圧が上がり過ぎている危険があるので、少しゆったりと朝を始めましょう。
一方、低血圧で午前中がしんどい場合には、朝、熱めのお風呂に入ったり、しっかりとした朝食を取ったりして、体を目覚めさせてください。
高血圧の場合も、低血圧の場合も、朝は太陽をしっかりと浴びて、朝食もきちんと食べて、体に朝を伝えることが大事です。汗をたくさんかいたり、尿の量が多かったりしたときに、水分を十分に取っていないと、血液量が減少して、一時的には血圧が低下します。しかし血液が濃くなると、流れが悪くなり、血圧は上がっていきます。
逆に水分が多過ぎても、血管にかかる圧力が高まり、血圧が上がります。夏は水分不足による脳梗塞が最も多い季節です。水分の摂取は適切な量が重要です。食事や、体に吸収しやすい軟水で、一度に少しずつ、こまめに水分補給しましょう。タバコを吸うと一時的に血圧が上がり、結果、血管を傷つけます。できるだけ早く禁煙しましょう。
血圧調整力を高める食事
血圧が高い人は塩分を控えて、低い人は塩分を取って……といわれることもありますが、日本の食事は塩分が多いので、あえて塩分を多く取る必要はありません。高血圧の人は極力塩分を控えるようにしましょう。
高脂肪、高コレステロールの食事も控えてください。これらは血管が硬く分厚くなる動脈硬化を進行させますし、腎臓に負担をかけます。腎臓から余計な塩分を排出する際に役に立つカリウムをはじめ、カルシウムやマグネシウムなどのミネラル類は、血圧調整に役立ちます。
青魚などに含まれる不飽和脂肪酸は高過ぎる血圧を下げる効果があります。これらはサプリメントではなく、食事で取りましょう。
肉類を控えて、魚を増やし、ナッツ類や豆類と野菜を豊富に取りましょう。アルコールは控えめにしてください。適量を守ることが大切です。休肝日も作りましょう。
血圧調整力を高める運動
軽い運動をできれば毎日、少なくとも週に3日以上行うことは、血圧が高い人にも低い人にも有効です。強い運動は必要ありません。少し速足のウオーキングや、エスカレーターの代わりに階段を使うといった程度の運動でも、まめに行うことで、適切な血圧の維持に役立ちます。