工務店に家づくりをお願いし、施工が始まってから5カ月あまり。完成まであと1カ月ほどとなった。約1年前、夫と2人、パソコン画面で間取りを考えた家が形になって、もう少しで出来上がる。工事の進捗を見るのを楽しみ過ごした数カ月。でも、ここにきてコロナ禍の思わぬ影響が深刻化してきて……。
8月に着工した家。秋の初めには柱や梁(はり)などの枠組みが作られていた
家づくりの過程を見る楽しみ
私たちがお願いしたA工務店では、木造軸組構法ともいわれる在来工法を採用している。日本の伝統的な建築方法で、木の柱や梁で構造を支える仕組みだ。メリットは間取りの自由度が高く、広い空間を作れたり、大きな窓を入れたりしやすいこと。部屋同士の仕切りをなるべく作らず、開放感のある家が希望だった私たちの考えにピッタリだ。
家の工事が始まったのは、真夏の日差しが照りつける8月。1カ月程度の基礎工事を経て、秋の初めには柱が立ち、外壁が張られ、窓が入ると、だいぶ家らしくなってきた。今まで野原で何もなかった所に、自分たちの家が造られていく。これからの生活の拠点となる場所が少しずつできていくにつれて、今まで感じたことのないような心のよりどころを得るような、安心感が増してくる。
週末、畑作業がてら、工事の邪魔にならないよう現場を外から眺めていると、A工務店は内部も自由に見てくださいと言ってくれた。何度か顔を合わせるうちに大工の棟梁(とうりょう)、Nさんともすっかり親しくなり、今では私たちが行くたびに「今週はこの壁を張ったから見てってよ」とか「引き戸の下枠を付けたよ」と作業の手を止めて、家の中を案内してくれる。
最近、階段がつながって2階へ行けるようになった。息子のガクもキョロキョロと周りを見渡しながら、できたばかりの階段をうれしそうに上り下りしている。毎週、少しずつ形になっていく家を見せてもらい、中を探検するのが何よりの楽しみだ。夫も、週末を心待ちにしているようで「工事の過程を見せてもらえると、住む前から愛着が湧くもんだね」と声を弾ませる。
細かい所まで丁寧に仕事をしてくれている棟梁のNさん
職人たちの手仕事の結集…
今どきの家づくりといえば、工場で加工した資材を現場で組み立てるイメージだったけれど、Nさんをはじめ、A工務店の大工さんたちの仕事は、木材をその場で切ったり、削ったり、カンナをかけたりと、ほとんどが手作業のようだ。Nさんの作業に集中している表情や、休憩中に缶コーヒーを手に取りながら図面を見る、そのまなざしからは、いい家にしようと思って仕事をしてくれている様子が伝わってくる。
ある日、「こんなのを作ったよ」と見せてくれたのは、床暖房システムの通気口カバー。小さな木を組み合わせ、裏に付けられた板をスライドすると風量を調整できるように工夫がされている。木の並びが美しく、ちょっとした木工作品だ。通気口には金属のカバーがはめ込まれるものだと思っていたのに、こんなに細かいものも手作りしてくれていると知って感動した。
今まで大工さんのほかに、基礎工事や足場職人さん、屋根をふいてくれた板金屋さんなどの仕事を見たし、これからは外壁、内壁を仕上げてくれる左官屋さん、塗装屋さん、建具職人さんと、まだまだいろいろな職人さんたちに関わってもらうことになる。施工期間はハウスメーカーなどに比べると長いけれど、いろいろな所に作り手のぬくもりが感じられる家になりそうだ。
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通気口のカバー。細部にも職人の技と手仕事の温かさが感じられる[/caption]
ウッドショックと部品不足の影響
ところで、着工後もずっと気になっていたのはウッドショック(※)の問題。秋の終わり頃までは大きな影響はなかったようだが、年末になってA工務店やNさんから資材入荷の遅れが深刻化してきたと耳にするようになった。そして先日、引き渡しが予定日よりも1カ月ほど遅れるという話があった。注文した材料が入ってこず、作業が進められないのだという。輸入材の不足・高騰のあおりを受けて、私たちの家に使われる国産材も入手困難になっているのだ。これまで引き渡しに間に合うように、最善を尽くしてくれていたけれど、最終段階になって、私たちもついにウッドショックの影響を受けることになってしまった。
※新型コロナウイルス感染症拡大に起因し、2021年の夏から発生している世界的な木材価格の高騰。詳しくは経済産業省 経済解析室ひと言解説集「新型コロナがもたらす供給制約 ; ウッドショックの影響」を参照
https://www.meti.go.jp/statistics/toppage/report/minikaisetsu/hitokoto_kako/20210719hitokoto.html
さらに深刻なのは、電気機器の入荷遅れ。最後に取り付ける予定のエコキュートとIHクッキングヒーター、それにウォシュレット・トイレの3つが、メーカーに問い合わせても、入荷のめどがまったく立たず、いつ入るか回答すらもらえない状況なのだそう。もしかしたら、家は完成しても、これらの設備がない状態になるかもしれないとの報告だった。いずれも生活する上で必須のものだけに、間に合わなければ、新しい暮らしをスタートさせるつもりだった春になっても引っ越しができないことになってしまう。
世界的な半導体不足、サプライチェーンのボトルネックがうんぬん……とニュースで耳にしていたけれど、これほどにも深刻だとは。資材の確保に奔走してくれているA工務店に感謝しつつ、今はただ、無事に家が完成し、1日も早く山麓生活をスタートできることを祈るばかりだ。
山野を彩る季節の植物たち ~スイセン~
冬から春にかけて白や黄色の花をつけるスイセン。彩りの少ない時期の花であることに加えて、清楚(せいそ)な姿に引かれるし、花瓶に挿せば部屋中に甘い香りを漂わせてくれる。生活が落ち着いたら庭に植えたいと思っているけれど、「美しい花には……」という言葉の通り、スイセンは有毒植物。体に入ると激しい嘔吐(おうと)、頭痛、下痢などを起こすとか。しかも、葉の見た目がニラにそっくりで、間違えて食べてしまう人が続出しているという。とても身近な植物だけにありうる話だ。花に疎くて料理好きの夫が間違えないように、畑のそばへ植えないよう気を付けなければ。