小規模企業共済とは、小規模企業共済法に基づいて1965年に発足した制度で、中小企業基盤整備機構が運営する小規模企業の経営者や個人事業主のための退職金制度となっています。サラリーマンは勤務先によっては退職金制度がありますが、個人事業主の方などにとっては、この小規模企業共済が退職金の役割を担います。
小規模企業共済制度には、個人事業主や小規模企業の経営者または役員が加入できますが、事業専従者である配偶者やサラリーマンなどは加入できません。加入資格は、業種に応じて常時使用する従業員の数が20人または5人以下の個人事業主または会社等の役員とされています。
従業員数20人以下の業種ですが、建設業・製造業・運輸業・サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)・不動産業・農業などで、従業員数5人以下の業種としては、卸売業・小売業・サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)などが該当します。そして、小規模企業共済は退職金制度ですので、個人事業の廃業も退職と考えられ、法人成りをした場合や解約した場合にも共済金を受け取れます。
小規模企業共済の掛け金は、月額1000円から7万円まで500円単位で自由に選択できます。ですから掛け金を最高額の7万円にすれば、年間で最大84万円の所得控除を受けられます。このように、個人事業主の方やオーナー社長にとっては節税対策と廃業時などの退職金の確保という観点からもiDeCo同様、上手に利用していきたい制度です。
この節税効果の高い小規模企業共済の5つのメリットについて具体的に解説します。
【メリット1】
掛け金の全額が所得控除できる。小規模企業共済に加入して掛け金を支払えば、その全額が課税所得から控除できるため、高い節税効果があります。
【メリット2】
小規模企業共済の加入者は、一定の要件を満たせば掛け金の納付期間の範囲内(掛金納付月数に応じて掛金合計額の7~9割)で事業資金などの借り入れができます。借入額は10万円以上2000万円以内の5万円単位となっています。借入期間は借入金額により6カ月から最長60カ月となります。貸付制度には、一般貸付の他に緊急経営安定・傷病災害時・福祉対応貸付などがあります。
【メリット3】
掛け金は、1000円から7万円までの範囲で自由に選択できますし、加入後の増額、減額も自由に変更できます。
【メリット4】
共済金は、退職時や役員退任時、廃業時や法人解散時、共済契約者の方が亡くなられた場合などに受け取れます。受け取り方法は「一括」「分割」「一括と分割の併用」から選択できます。一括受け取りは退職所得扱いとなり、分割受け取りは雑所得となりますが、事業所得と比べれば税負担が大幅に軽減されます。
【メリット5】
6カ月以上掛け金を積み立てていれば、退職した場合に共済金を受け取れます。また、12カ月以上積み立てていれば解約手当金を受け取れます。
以上のとおり、小規模企業共済は税金の負担が軽減される制度となっていますが、次の注意点をおさえておく必要があります。
廃業時に受け取れる共済金は6カ月以上、解約時に受け取れる解約手当金は12カ月以上の掛け金を納付しないと受け取れません。掛け金の納付月数が240カ月未満で任意に解約した場合、掛金合計額よりも受け取れる共済金が下回ってしまいますので、目先の節税効果は重要ですが加入時に十分な検討を要します。
共済金などを受け取る場合には課税されます。共済金を一括で受け取る場合は退職所得として課税されますし、その他共済金の受け取り方や任意解約した場合には雑所得や一時所得として課税の対象となります。このように、小規模企業共済はiDeCo同様、所得税・住民税の節税効果が十分期待できる退職金制度ですが、注意点も十分理解して活用することをお薦めします。
執筆=笹崎浩孝
税理士・一般社団法人租税調査研究会主任研究員
国税局課税一部資料調査課主査、国税局個人課税課課長補佐、国税局査察部統括査察官、国税局調査部統括国税調査官をはじめ、複数の税務署長を経て、2021年7月退職。同年8月税理士登録。
編集協力=宮口貴志
一般社団法人租税調査研究会常務理事・事務局長。株式会社ZEIKENメディアプラス代表取締役。元税金の専門紙および税理士業界紙の編集長、税理士・公認会計士などの人材紹介会社を経て、TAXジャーナリスト、会計事務所業界ウオッチャーとしても活動。
一般社団法人租税調査研究会(ホームページ https://zeimusoudan.biz/)
専門性の高い税務知識と経験をかねそなえた国税出身の税理士が研究員・主任研究員となり、会員の会計事務所向けに税務判断および適切納税を実現するアドバイス、サポートを手がける。決して反国税という立ち位置ではなく、適正納税を実現していくために活動を展開。