ビジネスを加速させるワークスタイル(第15回)
似ているようで違う、法人向け光回線の選び方
公開日:2023.10.05
前回はアプローチ5として、第8回と第9回で解説したリアルタイム・サービス法を実行するための具体的な手法、「小ロット化」を紹介しました。今回と次回は、これとは違った切り口で人員配置の無駄をなくし、生産性向上を図る「マルチタスク化」を説明します。
生産性向上の鍵を握るのが、マルチタスクです。これは、1人の従業員が自分の担当業務や部署を離れて異なる業務に従事することで、製造業では「多能工」と呼ぶ場合もあります。
旅館やホテルには、フロント、客室、厨房、食事処、見送り、清掃、施設管理といった多様な業務があります。特に大型施設では働いている従業員数が多く、これらの業務は一般に縦割りで管理されています。フロント担当はフロント業務にかかりきりとなり、手が空いても客室や厨房の業務を手伝うことはありません。
お客さまは、いろいろなサービスを受け、滞在時間が長いときは「流れ」に沿って動きます。そのためフロントから部屋、風呂、レストランの忙しさのピークは部署によってずれています。
各部署には管理者がおり、その管理者がスタッフを使って業務をこなしますが、忙しさのピークが他の部署に移ったとき、その部署の従業員は手待ち時間を持つことになります。一方、お客さまが予想外に多いときなどは、投入スタッフ数だけでは十分なサービスを提供できず、クレームを言われる可能性もあります。こうした事態を避けるため、管理者は突発的なお客さまのピークに合わせてスタッフを確保しようとします。
しかし、それでは投入人員数を無駄に増やすこととなり、言葉を換えれば、従業員は不必要に出勤を命じられ、休むこともできず、結果的には残業時間などが増えるのです。
マルチタスク化が実現すると、スタッフが協力しながら他部署の業務をこなし、一瞬の業務量の変動にも無駄なく対応できるようになります。他部署の業務を知り、こなせるようになれば、日頃の協力関係も強められます。
子どもがサッカーボールを追いかけるように、お客さまが集まる場所や業務に臨機応変に従業員を投入できれば、きちんとサービスを提供できるので顧客満足を上げられるだけでなく、少ない人数で生産性が上がり時短も進められるので、従業員の不満もなくなります。
リアルタイム・サービス法を現場で推進していくには、予測とは違うお客さまの動きにきちんと対応できるようにしなければなりません。そのためには、従業員がお客さまの近くで働くだけでは駄目で、臨機応変に他の部署から従業員が駆けつけて、マルチタスクで働けるようにしなければならないのです。
現場でマルチタスク化を進めていくのは簡単ではありません。従業員が他の現場に駆けつけてすぐに業務を手伝えるようになるためには、まず業務の標準化や単純化を進め、さらにすぐに業務に着手できるよう整理・整頓(いわゆる5S)や定位置・定量・定品(いわゆる三定)をして、それに沿って従業員の教育もしなければなりません。
また、マルチタスクで現場の労働力を柔軟に動かそうとすると、いずれ同一労働同一賃金にしていかなければ、賃金格差によって協力関係が阻害されてしまいます。
業務に慣れていないスタッフが自部署に来ると、一時的に生産性が下がります。さらに、「マルチタスク化は労働強化だ」と言われるかもしれません。慣れていない業務をするのは確かに大変ですが、業務の標準化や単純化を進めるしかありません。
ここで、現場の投入人数を大胆に減らすという荒療治の選択肢もあります。多くの現場では、適正人員数を把握していません。ならばとにかく人員数を減らし、業務を回してみる。すると自分の持ち場が回らなくなったとき、現場は自然に他部署に助けを求めるようになります。そのときが、その部署の適正人員数という見方もできます。
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執筆=内藤 耕
工学博士。一般社団法人サービス産業革新推進機構代表理事。世界銀行グループ、独立行政法人産業技術総合研究所サービス工学研究センターを経て現職。
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中小サービス業の“時短”科学的実現法