最近の生成AI動向といえば、OpenAIが2024年12月5日に発表したChatGPTの最上位モデル「o1 Pro」のサブスクが話題となっている。このサービスは月額200ドル(3万円)という、通常のPlusプラン(月額20ドル、3000円)の十倍の高価格だ。「果たしてその価値はあるか」「実際に試してみた」など、さまざまな記事やリポートが世の中にあふれた。
大きな特徴は、「より難しい問題を解決するための思考力の強化」で、「最も信頼性の高い応答を提供するためより長い思考を行う当社の最もインテリジェントなモデル」という点。外部専門家のテストでも「特にデータサイエンス、プログラミング、判例法分析などの分野で、より信頼性が高く、正確かつ包括的な回答を生成していると評価」されたという。Proモードは回答の生成により時間がかかるため、進捗バーや通知送信機能も備える。この「考えるのが得意な」Proモード、興味のある人は試してみるとよい。
ところで、フリマ出品のアピール文を生成AIが補助してくれたり、ラフなメールを生成AIが適切な敬語に直してくれたりなど、生成AIを使った個人にも助かるサービスが続々始められている、と 。だが、この中にはサービスを終了するものも現れた。インプレスのニュースサイトでの「AIで記事要約」ボタンである。
筆者、このサービスをなかなか重宝していたが、2025年の1月末をめどに終了するという告知を見て驚いた。2024年2月に提供開始、現在月10~15万件の利用があり、要約記事に挿入される広告収入により「GeminiのAPI利用料は十分にまかなえている」サービスだが一旦中止し、「新たな挑戦を模索する」という。
生成AIはまだまだ上り調子の感があれど、サービス終了の声が聞かれるということは、上り調子から“熟成期”に入っている証拠かもしれない。もちろん、生成AIの問題点については(毎回書いてはいるが)未解決なものも多く、いつでも十分な注意と検討が必要なのは言うまでもない。
生成AIについては、ビジネス利用ばかりがクローズアップされがちだが、個人がもっと余裕をもって生きられるよう、私的な部分をもっと生成AIがサポートしてくれたらいいな、と思うこともしばしばある。2024年6月の米Appleの「WWDC」基調講演で、iPhone、iPad、Macで使える新しいパーソナルAI機能「Apple Intelligence」が発表された。こうした機能は「もっと個人をサポートしてほしい」という筆者の希望に近いのかもしれない。
そもそも「パーソナルAI」とは、一般的に「特化型人工知能の領域に分類され、個人ひとりひとりに合わせて最適化された情報提供やソリューションを提案することを目的とした人工知能技術」のことらしい。例えば、筆者の性格や、感性、癖、好み、生活スタイル、1日の過ごし方、思考パターン、交友関係、仕事などをAIが理解して最適化、効率的なスケジュールを提案して知らせる、その他にも「そろそろ友人の〇さんに連絡したら?」「あなたの好きな作家の新刊が出ました。購入してお読みになりますか?」など、自身のあらゆる部分に関してサポートしてくれたら、うれしいと思う。 したMicrosoft Copilotのデモは、なかなかそうした希望に近かった。
パーソナルAIのアプローチは、筆者の希望でもある「ユーザーの感性・好みを理解し、ユーザーの好みに合った提案をする」他、「クラウド上に第二の自己を作り上げる」「ユーザーの特性を解析・推論し、ユーザーと会話をする」などがあるらしい。2つ目は、例えば筆者の思考や文章のパターンを学ばせれば、筆者の死後もこうしたITに関する記事を執筆し続けてくれることも可能かな、などと思いをはせる。3つ目は、自分と同等かそれ以上の知能を持ち自分の特性を理解した生成AIと会話することで、1人で考えるよりさらに高度なアイデアや発想、作品などを生み出せそうで、期待がもてる。
NTT東日本「では、「パーソナルAI」を「ユーザーの言動や行動パターンといったパーソナルデータを学習させ、ユーザーの代理で自律的に業務を実行し、意思決定につながる提案、あるいは意思決定そのものを行う生成AI」と定義、実際ビジネスに取り入れる動きもあるという話だ。
ユーザー固有のデータを学習して秘書のような役割をする他、対話してさらなる結果を生み出す、ユーザーに代わって業務や判断を行う、「パーソナルAI」に注目しておこう。これに関連する「Microsoft 365 Copilot」や「Apple Intelligence」などの動向、その他既存の生成AIサービス、PCやスマホのOSまわりの動向などもチェックしておこう。
生成AIに特化した「AI PC」とは何か?
「パーソナルAI」にも関連する、最近よく耳にする「AI PC」という言葉。これは一般的に「AI処理に特化したPC」を指し、従来のパソコンよりAI処理に必要な性能が大幅に向上しているのが「売り」のパソコンだ。AIの演算処理に特化したプロセッサ「NPU(Neural Processing Unit)」を一体化した「SoC(System on a Chip)」と呼ばれるチップを搭載しているのが特徴だという。
米ヒューレット・パッカードのサイトにある「AI PCとは?仕組みや利用するメリット、ユースケースを紹介」という特設記事が分かりやすい。これによれば「AI PC」の定義の共通事項は、「NPUを搭載している」「Copilotキーがある」「Copilot in Windowsを使用できる」の3つが条件だそうだ。
代表的なAI PCはMicrosoft「Surface Laptop(第7世代)」だろう。説明には「Surface Laptopに搭載されたCopilot in Windowsは、よりスマートに作業し、生産性を高め、あなたの人生で大切な人やモノとつながるお手伝いをする、AIを活用したコンパニオンです」とある。「SnapdragonR X Eliteプロセッサと SnapdragonR X Plusプロセッサを搭載し、従来の86%増という驚異的な速さを発揮」、NPUと最先端のAIにより「45兆回の操作を秒速で行い、生産性と創造性を飛躍的に向上させます」と書かれている。Microsoftの他、先述のHP、Lenovo、Dell、ASUSなどが続々と「AI PC」を発売している。
とはいえ「生成AIはChatGPTもGeminiもクラウドベースの処理なのに、どうして生成AIに特化したPCが必要なの?」と思う人もいるだろう。先ほどのChatGPT Proなどのクラウドサービスでは「より深く考え、最も難しい問題に対してより優れた答え」の提供にAIの推論処理を行うが、その際に生じるネットワークの遅延やセキュリティ・リスクが課題となっているという。
そこでNPU搭載のデバイスを使い、デバイス内部で生成AIを活用、リアルタイムでAI処理や推論を行う動きが生まれてきた。これによりインターネット接続が不可能/不安定な場所や環境でも生成AIを使えて、へき地や特殊な場所、災害時などにも強いのに加え、AIが処理したデータが外部に漏れにくく、セキュリティ面においても安全性が高まるなどのメリットがある。なお、AI PCは電池の持ちがいいのも特徴で、先ほどの「Surface Laptop」は「1日中長持ちするバッテリー駆動時間」というのも地味にうれしい。
これは「エッジAI(Edge AI)」という、近年注目されている技術の1つ。一般的なクラウドベースの生成AIは「クラウドAI」と呼ばれる。エッジAIは処理をクラウドではなく端末(エッジデバイス)で行う。その他、自社ネットワークにサーバーを置いて処理を行うAIを「オンプレミスAI」と呼ぶ。この「クラウドAI」「エッジAI」「オンプレミスAI」という3つを頭に入れておくとよい。
いろいろ調べていて「AI PC」が欲しくなった筆者だが、まだまだ生成AIはクラウドベースが主である流れと、「Surface Laptop」などAI PCがまだ20万円以上という高価格なところから「時期尚早」な感もあり、様子を見たほうが賢いかもしれない。
今後どうなる?傾向と対策
「生成AI利用の主なリスク」として前回「情報漏えいリスク」と「間違った情報を利用することによるリスク」「生成AIの生成物の利用により、他者の権利を侵害・公序良俗に反するリスク」を挙げた。今後、生成AIの利用を「クラウドAI」「エッジAI」「オンプレミスAI」の3種類で想定し、使い分けを考えていくことで、さらにリスクを減らし効率的に安全に利用していけるかもしれない。
ChatGPTの有料プラン「Plus」には、特定の目的や用途に合わせて自分好みのカスタムChatGPTを作れる「GPTs」サービスが2023年11月に開始されている。さらには2024年1月から「GPTs」で作成したカスタムGPTを出品できるマーケットプレイス「GPT Store」が開始され、有料ユーザーは自身の制作したカスタムGPTで収益化も可能という。なお、無料ユーザーでもストアのアクセスや閲覧、一部の公開GPTの利用ができるので一度のぞいてみるとよい。
そういえば筆者は、Google発の生成AI「Gemini」に「ITライター青木恵美の作風をまねて何か書いてみてください」と頼んだら、このような結果が返ってきた。普段からこんなふうに解析されているのかと思うとともに、プロンプトを工夫などすれば複雑なテーマの文章も執筆が可能かと、便利さの反面、少々恐怖を覚えたりした(もちろん、本サイトの記事執筆に生成AIを使うことは今のところはないが……)。
どちらにせよ人間のために作られた人工知能、人間がその存在に脅かされるのは本末転倒だ。昨年ノーベル物理学賞を受賞した「AIのゴッドファーザー」ジェフリー・ヒントン氏は、AIの危険性について積極的に警鐘を鳴らしている。
このようにAIに対して警鐘を鳴らすAI専門家のヒントン氏(筆者連載「対話型AIの危機?サイバー攻撃悪用のリスクも」でも触れた)がノーベル賞を受賞したことは世界的にも意味が大きい。氏は受賞後のインタビューで「私たちは今、AIが人からコントロールを奪うことがないよう、一生懸命に取り組むべき。なぜならわたしたちが大切にしているのは常に“人”であるから」と述べている。あくまで「人」を大切に、生成AIをうまくコントロールしつつ、明るい未来を築いていこう。
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