2016年度の税制改正大綱で、企業の利益にかかる法人実効税率が現在の32.11%から20%台へ引き下げられる見通しです。日本は諸外国よりも法人税が高いこともあり、これが軽減されれば、国際競争力が高まる、と期待されています。
こうした減税がマスコミを賑わせる一方で、2016年度の税制改正を詳細にチェックすると、法人税の減税分をカバーする内容も含まれているので注意が必要です。例えば、これまでは基本的に大企業向けに課税されていた法人事業税の外形標準課税が拡大され、さらに、赤字企業の税負担を抑える「欠損金の繰越控除制度」についても、控除上限額が引き下げられる見通しとなっています。
経営者はこうした改正についての情報を確認しておくのはもちろんですが、法人税制には、旧態依然とした硬直化した考え方による問題点が多々あることにも留意が必要です。その代表が、役員報酬に対する考え方です。今回は、依然として融通の利かない役員報酬の矛盾を見ていきます。
役員報酬といえば、日産自動車のカルロス・ゴーン氏の“10億円越え”ともいわれる高額の役員報酬が昨年話題になりました。こうした報酬額は、有価証券報告書で開示されている「社内取締役の報酬」や委員会設置会社で示されている「執行役報酬」の合計額を、社内取締役と執行役の合計人数で割り、算出することで推定できます。新聞や週刊誌、マネー雑誌まで役員報酬ランキングの発表が恒例となり、さまざまな話題を我々に提供してくれます。
中小企業の役員報酬は、カルロス・ゴーン氏のような高額ではありませんが、経営に重要なポイントであることは間違いないので、その決め方の要点を押さえておく必要があります。
役員報酬は税法と照らし合わせて、綿密に計算した上で決定することが重要です。会計上、役員報酬は、収入から差し引く「費用(=経費)」になるのですが、法人税法上、必ずしも全額が、課税所得を計算する上で差し引ける「損金」にはなるわけではないからです。会社の業績が好調だからといって、高額の役員報酬を大盤振る舞いしても、それが法人税法上は、損金算入ができない可能性があり、法人税に影響してしまうのです。
法人税法では役員報酬について、損金算入できるケースは以下の3つに限定されています。
(1)月給など一定期間ごとに同額を支給する給与(定期同額給与)
(2)賞与に代表される支給時期、支給額をあらかじめ届け出た給与(事前確定届出給与)
(3)利益に関する指標に連動する給与(利益連動給与)
しかもこれらは、「職務を実際に行う前にあらかじめ決めた一定金額や、限定された支給方法に完全に一致しないと、一切損金に算入しない」という、極めて硬直的で融通が利かない仕組みなのです。
業績不振でも役員報酬は減らないカラクリ
こうした硬直した税制が最も深刻な問題をもたらすのは、企業業績が悪化したときです。
例えば、3月期決算のある機械メーカーが、業績不振のため、役員の定期同額給与(月給)を10月支給分から5割引き下げることを検討したとします。しかし実際に月給を下げれば、既に支給した7~9月の月給についても5割分が損金に算入できなくなってしまうのです。定期同額給与の改定時期は、期初から3カ月以内か、減配が必要なほど経営状況が著しく悪化した場合などに限られる、という税制上の決まりがあるからです。
そのため、このメーカーは、「意図しない損金不算入が生じる」として、役員報酬の減額を見送る可能性が出てきてしまいます。つまり、業績不振を少しでも和らげたいという経営判断に、税制がブレーキをかけてしまうことになるのです。
逆に業績が好調な際にも、現行の法人税制は役員報酬が増額しやすい制度になっていないことも問題です。
日本の企業は欧米の企業と比べて、役員報酬に占める固定の月給やボーナスの割合が大きく、業績連動部分が少ないといわれています。欧米の名だたる企業の経営者が受け取っている報酬は驚くほど高額です。
例えば、上記の3点だけでなく、自己資本利益率(ROE)などに連動した報酬が損金に算入できるようになれば、業績連動型の報酬を採用する企業が増える可能性があります。このように役員の働きに報いる報酬を損金算入しやすくすれば、日本企業の国際的な競争力が高まるのではないでしょうか。
法人税減税という“アメ”に安易に浮かれず、現行の融通の利かない税制の中で、どのように役員に報いるのかなど、冷静に経理・会計の改善を図っていくことが経営者には大切です。