穴子(アナゴ)は、東京湾や大阪湾、瀬戸内海など人の営みに近い海でよく捕れる魚です。古くから親しまれてきた食材だけに、とりわけ瀬戸内に沿った町々では、穴子ずしや穴子めしなどが郷土の名物料理、名物駅弁として主役を張る姿がよく見られます。
とはいえ現在では漁獲量の減少や、高タンパクで低脂肪という栄養面での評価の高まりもあって、穴子の位置付けはもはや高級魚。ビジネスパーソンの「おひとり様」が出張に合わせての一食として味わうには、少々敷居が高いところがあるかもしれません。
そこでオススメしたいのが、東京・銀座にある「はかりめ」。国産の天然穴子を燗(かん)酒とともに堪能できる専門店として芸能人も通う名店です。ところが、ランチタイムにはお値打ち価格で穴子料理を提供しています。
関西育ちなら、穴子と聞けば、腹を開いてから串を入れ、甘辛いしょうゆだれを塗ってパリッと焼き上げたかば焼きを思い浮かべる人が大半でしょう。関東では、開いた穴子を煮て提供する「煮穴子」が主流。江戸前のすしには欠かせないネタの1つです。
食べ方の違いは、穴子の大きさが違うからともいえます。大阪湾や瀬戸内海でよく捕れる穴子が小ぶりなのに対し、東京湾や日本近海の穴子は大きなものが多く、「焼き」ではどうしても小骨が当たり、食感が固くなります。瀬戸内海の穴子の産地・播磨灘(主に兵庫県)では大ぶりな穴子を「でんすけ」と呼び、好まない風潮があります。これは、あくまで「焼き」をよしとする関西ならではの見方といえるでしょう。
一方、大ぶりな身を調理の工夫でおいしく味わわせてくれるのが関東流。焼き穴子とは対照的にふっくらとした食感の煮穴子に、高鳴る心を抑えながら、銀座四丁目交差点から徒歩2分の「はかりめ」へと向かいます。
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間口が広い「はかりめ」のエントランス[/caption]
「はかりめ」は銀座のど真ん中、銀座コアの南側、三原小路の先にあるビルの6階です。
このかいわいには、穴子料理の看板を上げる店がちらほら。昼時には行列が見られるなどにぎわいます。人気店の中にあって「はかりめ」は、慌ただしい時間制限などもなく、個室でゆっくりとランチがいただける店として、周辺のビジネスパーソンから確かな支持を得ているようです。
ビルの6階というロケーションにありながら、靴脱ぎ石と高い式台が出迎える店のしつらえは、昼のちょっとした会食や夜の接待にも使い勝手が良さそうです。
赤と白、好みで選べるランチの「あなご丼」
スタッフの案内を受けて靴を脱ぎ、奥へ続く廊下を抜けて迎え入れられたのは、掘りごたつ式の席が並ぶ個室。カウンター以外は個室で区切られた店内、気の知れた仲で予約するなら、少人数でゆったりと卓が囲める丸テーブルの個室も用意されています。
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ランチミーティングや客先との会食、接待に使えそうな個室[/caption]
ランチメニューの狙い目は、赤と白の2種類から選べる「あなご丼」(999円)。赤は、いわば定番の味わい。炊き上げた煮穴子に甘辛く煮詰めた自家製のタレをたっぷり塗って提供しています。
白は、煮穴子にかつおだしを利かせたあんをかけ、ユズと合わせた揚げのりを乗せて提供。「はかりめ」オリジナルという珍しい一品です。
ここはやはり、白をオーダー。穴子特有の真っ白な身が際立つ上品な盛り付けは目のごちそうになります。期待に反せず、身はふっくら。箸を入れ、さっとほどいて艶やかに炊き上がったご飯とともに口へ運びます。気になる小骨は、あらかじめ抜き取ってあり舌に触ることもありません。細かい作業になるところをいとわない丁寧な仕事ぶりがうかがえます。
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揚げのりの風味も良いアクセントに[/caption] [caption id="attachment_17898" align="aligncenter" width="252"]
丁寧な下処理と手際よい調理が身上[/caption]
穴子もアリ!な「ひつまぶし重」
穴子の産地を聞くと「漁が旬を迎える夏は東京湾から、その他の季節は良質な穴子が安定して水揚げされる長崎から」と同店の店長。丼では飽き足らない人に向けての一品として「穴子ひつまぶし重」(1728円)を推してくれました。
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薬味を添えたり、温かいだしをかけ回したり、食べ方はお好みで[/caption]
「はかりめ」では、タレを塗った煮穴子を器にたっぷりと。おひつならぬお重を用いての提供です。まずはそのまま食した後、程よいところでわさびなどの薬味を添えて味の変化を楽しみ、最後は温かいだし汁をかけ回してお茶漬け風にサラサラとかき込みます。ランチタイムで「3つのおいしさ」を味わえるのはかなりお得な気分です。
この「穴子ひつまぶし重」に、付き出しや刺し身、揚げ物、デザートなどが付くランチ限定の「はかりめコース」(3780円)があります。お得意さまとの接待に使いたいという向きにはこちらのコースがお得でしょう。
さて、ここで豆知識を1つ――「はかりめ」とは穴子の粋な愛称で、生け魚に見られる点々とした白い模様が、魚河岸などで使われていた棒状の秤(はかり)の目盛りを連想させることから呼び習わされてきたといいます。
この「うんちく」を披露するためにも、次の機会には客先や友人、家族と共に店を訪れたい……という冗談はさておき、おいしく、ゆったりと銀座ランチを楽しむことができたうれしさは、夜の再訪を誓うきっかけとして十分なものでした。
※文中にある金額はすべて税込価格です
あなご 燗酒 「はかりめ」
http://www.hakarime.jp
東京都中央区銀座5-9-5 チアーズ銀座6階
東京メトロ銀座線・日比谷線・丸の内線「銀座」A5出口徒歩1分
東京メトロ日比谷線・都営浅草線「東銀座」A1出口徒歩2分
12:00~14:30、17:30~23:30(土曜は17:00〜、日曜・祝日は17:00〜23:00)
年中無休
03-6253-7070