こう指摘するのは、外資系企業のトップを歴任してきた国際ビジネスブレイン(東京・世田谷)の新将命代表だ。撤退を決断するロジックとは、いかなるものか。思考のプロセスを、下記に図示した。
大前提として不可欠なのが、目標設定だ。例えば、当初は赤字でも、将来の成長が期待できる新規事業の場合、何年後に単年度黒字を出し、それから何年で累積損失を解消すれば「合格」なのか。逆に黒字の既存事業でも、何年後に売上高が何%伸びて、利益率やシェアをどれだけ確保できていなければ「不合格」とするか。中長期的な数値目標を、すべての事業について事前に定めておく。
目標を達成している事業は当然、継続する。一方、未達成だった事業について、即座に撤退を決めるのは早計だ。目標を達成できなかった原因を緻密に分析する必要がある。その手順をまとめたのが上記2つの図だ。
事業が不調に陥る原因は大抵、1つではない。そこで、まず考えられる原因をすべて列挙する。次に、それらを自社の今の実力で対応できる問題と、対応できない問題に仕分ける。このとき、最初に列挙した原因を「社内要因」と「社外要因」に分けておくと、対応可能かどうかを判断しやすい。社内要因とは、例えば、エース級の責任者が退職するなど、経営リソースが不足するケースだ。社外要因は、自社を取り巻く市場環境が変化したケース。為替相場の変動などが典型的だ。
一般論として社内要因は、自助努力で対応可能なことが多いのに対し、社外要因は中小企業1社の力では難しいことが大半だろう。とはいえ、市場環境の変化による悪影響を緩和する策がないとは限らないので、慎重に検討する。
対策の効果を数値化する
自社で対応不能な原因については、それ以上は考えない。
一方、対応可能な原因については、具体的な対策を考える。例えば、退職した責任者の代わりとなる人材を、社内から抜てきしたり、外部からスカウトしたりできないかなど、複数の案を出す。
その後、実現性の高いアイデアについて、実行したときに期待できる効果を予想する。すなわち、目標とする指標が、どれだけ改善しそうかを数値化する。
このようにして考えた対策の効果を総合判断し、最終的な結論を出す。「打てる手をすべて打っても、期待ほどに伸びないだろう」と思うなら、撤退を決断する。「目標設定に始まる撤退検討のプロセスには、複数の幹部を参加させるべき。特にその事業の責任者の参加は不可欠だ」(新代表)
主に、2つの理由がある。1つは、社員の納得感。事業撤退と聞けば、社員は気落ちする。特に、責任者の落胆は大きい。だから、経営者が事業継続の可能性を最後まで徹底的に探ったことを理解してもらう必要がある。
もう1つ、経営者の視野が狭まるのを防ぐ狙いがある。中小企業の長所は、経営者自身の判断で素早い方向転換が可能なこと。半面、経営者のものの見方が偏ると、間違った方向に一直線に進んでしまう。バランス感覚を保つ上で、複数の社員の声を聞くことは有効だ。
ただし、最終的に「撤退するか否か」は、経営者が1人で決めるしかない。「多数決では正解が出ないのが経営。特に痛みを伴う事業撤退には、必ず異論が出る。議論を尽くして、最後はトップダウン。〝衆議独裁〞で臨むのが正しい」と、新代表は訴える。
日経トップリーダー
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年2月)のものです。