人には必ず強みがあります。「強み」と聞くと、人と比較して秀でているところと考えがちですが、決してそうではありません。普段から当たり前にできているパターンに気付き、必要なときに出して、生かすことが強みになるのです。
ここからは、チームの中で自分の役割を見つけるためにも、自分の「強み」が何なのかを一緒に考えていきたいと思います。
互いの「強み」を生かせば、相乗効果に
皆さんは、「自分の強みを10個挙げてください」、と言われたらすぐに答えられますか?
ママ向け講座の中でも自分の強みを書き出すという宿題を出すのですが、みんな最初はなかなか書き出せません。せっかくの自分の強みを意識できていないのは、もったいないですね。
自分自身の強みを見つけるためにお勧めなのが、上司や同僚、友達、家族など身近にいる人たちに幅広く聞いてみることです。「そんなの、人に聞きにくい」と思って行動しないのはソンですよ。
また、褒められたときは、「いやいや、そんなことないよ」なんて謙遜せずに、「ほんと?具体的には?」「例えばどんなところが?」と詳しく聞いてみてください。自分では欠点だと思っていたことが、実は強みだったりすることもあります。
以前、私は自分の声が嫌いでした。アナウンサーみたいに奇麗な声ではないし、ハスキーだし。でも、あるとき、思いがけず友人に声を褒められたことがありました。「高過ぎず低過ぎず、聞きやすくてすごくいいね」と。そこから、嫌いだった自分の声は強みなのだと受け取ることにしました。そうすると、セミナーの受講生たちからも「声が好きです」と言われるようになったんです。声なんて、自分の努力とはまったく関係のない親からのギフトですよね。だから、自分では意識しないし気付きにくいもの。
こんなふうに、人から見た自分に触れてみると、意外な発見があるかもしれません。強みは自分で認識した瞬間から、あなたの武器になります。
私は自分の声が受け入れられませんでしたが、聞く人にとっては心地よく聞こえるのだと受け取った瞬間から強みになりました。ないものを努力して習得するのではなく、既にあるものに気付くだけ。“見留める”だけなのです。
1つ、お互いが強みを生かし合って成功した事例を紹介したいと思います。
イベントの企画・運営をしているある女性社員の職場に、3歳年下の男性社員がいました。彼は熱意を持って仕事に取り組み、とても優秀でした。いろいろなことを改革していきたいと考えていましたが、この職場では、前例通りに仕事を進める風潮が強かったため、事あるごとに、「そんな仕事のやり方してどうするんですか? みんなどこ見て仕事してるんですか?」と、相手が誰であっても、突っかかっていたそうです。
そのため、せっかくいい視点、いい才能を持っていても、上司はマイナスにしか受け止めず「生意気だ」という評価の下、言い分は受け入れられませんでした。そして彼はさらに意固地になり、周りの人と戦ってしまうという悪循環に。
そんな彼と彼女が、チームを組むことになりました。周りからは、「彼と組むなんて大変だね……」と同情されたそうです。
実際に組んでみると、やはり歯に衣(きぬ)着せぬ物言いもあり、最初は大変だったようです。それでも、仕事に対する熱意、企画力、効率的に仕事を進める力など彼の才能には目を見張るものがあり、彼女は「すごいね」「この才能あるよね」と言い、“見留め”ていたそうです。
すると、彼のほうも少しずつ「先輩のここは才能ですよね」と逆に彼女の強みを言ってくれるようになりました。2人はお互いの強みを理解し合い、相乗効果でどんどん成果を出したそうです。彼らは2年ほどチームを組み、これまでにない新しい企画をいくつも立ち上げることができました。
「なぜあんな彼とうまくいっているのか、仲いいねと、周囲からは驚かれました。でも、私たちは気が合っているのではなく、同じゴールに向かってお互いにないものを補い合い、強みを“見留め”合っただけ。それができたから、いい仕事をすることができたんです」と彼女は話していました。
自分の弱みを“見留め”れば、力は倍に!…
上の図を見てください。真ん丸と少しだけ欠けた丸だったら、どちらが気になりますか?
恐らく、欠けた丸のほうが気になるでしょう。しかも、気になるのは欠けている部分。大部分がきちんと丸くなっているにもかかわらず、「ない」ところに目が行くのです。人も同じで、どうしても欠点ばかりに目が行きがち。
ここまで強みの話をしてきましたが実は、人が認識しやすいのは、弱みのほうなんです。自分のできないこと、苦手なことは気になるものです。「ダメなところは?」などと聞かれたら、すぐに答えられるのではないでしょうか?
欠けた部分を、足りないと気にするのではなく、「欠けている」とありのままを“見留め”ることで、周囲の力を借りることができるという話をしましょう。
社会人として働く以上は、自分の得意なことだけを仕事にすることはできません。企画を考える、プレゼンをする、議事録をまとめる、チームを仕切る……。自分が苦手な仕事を担当することもあります。でも、自分の苦手な分野の仕事だなと思ったときにリカバリーする方法があるのです。
私は、物事を早め早めに進めることが苦手。時々、原稿執筆の依頼を受けることがあります。納期を伝えられたときには、「はいはーい、かしこまりました!」と返事はとってもいいのですが、どうしても書くのが締め切りギリギリになってしまいます。
それで、手帳に締め切りを入れつつも、担当編集者さんには「納期は本当の締め切りよりも少し早めに設定してください」と言ってあります。
仲の良い編集者さんにはさらに、締め切りの数日前にプッシュの連絡をお願いすることも。「相手に手間をかけさせるなんてとんでもない!」と思うかもしれませんが、締め切りに遅れるほうが、もっと迷惑をかけてしまうことになります。自分の弱みを最小限にできる引き出しを持っておくことも大事なんです。
自分の弱みを公言して、助けを求めるほうが結果を生みやすいこともあります。1人で頑張ることも大切ですが、時に誰かに甘えることは、社会人として大事なスキルでもあるのです。仕事ができる人ほど、弱みを堂々と認めて隠さないし、人に頼るのが上手です。
苦手なことも自分のパターンだから、努力をしなくていいと言っているのではありません。素直に認めることで、仕事もうまくいくことが多いことを知ってほしいのです。「開き直る」でも「諦める」でもなく、できない自分に対して「折り合いをつける」ということだと思います。
ある会社員の女性から、こんな話を聞きました。
彼女の会社の同僚は、〝今まで会ってきた中で一番仕事ができる人で、その人以上の才能を持つ人に出会ったことがないくらい〞だったそうです。しかし、すごい才能にあふれていながらもったいないなぁ、と横にいながら思うことが何度もあったというのです。その同僚の仕事力を100としましょう。どんな仕事も本当に素晴らしく常に100の結果を出すのだそうです。しかしその同僚はプライドがとても高く、他人の助言を一切受け入れません。そのため、100以上の仕事をすることはできなかったそうです。
でも、皆が100の仕事ができるわけではありません。例えば仕事力が50の人はどうすればいいと思いますか?足りないところを補う努力をすることだけが方法ではありません。周りに「こんなことやりたいけど、いいアイデアないかな?」「こんなふうにしたいんだけど情報を持っている人いないかな?」と、人に頼ることです。周囲の人から助言を得ることで、100や150の仕事につなげることは可能なのです。
「山﨑さんは、人に頼るのが上手ですよね」といろいろな人から言われます。
そう、私は仕事力50の人。でもこれまでの自分を振り返ると、多くの人に助けてもらったから自分の実力以上の結果を出せたのだと感じます。
いい仕事って、決して自分1人でやることだけではないんです。プライドは成長を妨げ、人生の幅を狭めるものです。
持っている以上の力を発揮するために、プライドはちょっと隣においといて、他人からのアドバイスに耳を傾けてみる。人と戦わずに受け取ってみる。誰かに助けてもらうことを、ぜひやってみてほしいと思います。
持っている才能を生かしきろう
私たちは、必ず何かしらの才能を持って生まれてきます。以前、ある人から、こんなふうに言われたことがあります。
「例えば、私たちが必ず誰もが5つの才能を持って生まれてくるとしたら、山﨑さん、あなたは残念ながら他の人より1つ少ない1つしか持ってないのよね……」
その話を聞いたとき、何かの間違いだと思いました。だって、人前で話すのが得意だし、たくさんの人に応援してもらえているし、書籍だって出版できている。根拠のない万能感だけは人一倍ある私。むしろ自分は、人より1つ多く才能を持って生まれているはずだ……。そんなふうに感じたのです。
すると、友人が言うのです。
「でも、あなたはその4つの才能をすべて生かしているでしょう? 多くの人は、5つ才能を持っていても、実際には全部使えていないことが多いんだよ」
それを聞いて、私は「はい、全部使っています!」と答えたのです。数字は例えですが、私は自分が持っている「人前で話す」「人に頼る」「隙がある」「ユーモアがあり、笑いに変える」という4つの才能を今の仕事でフル活用している自信があります。
さて、皆さんは自分が持っている才能(強み)をすべて生かしているでしょうか?足りないところにばかり目を向けて、できない自分を嘆いて、そこを埋めるために一生懸命になっていませんか?
きっと、まだ自分では気付いていない素晴らしい才能があります。ぜひ今日から、そんなふうに自分のことを意識してみてほしいのです。それだけで、きっと未来は変わります。
<第5回と第6回のまとめ>
1 チームのゴールを共有し、スイッチを適宜切り替える
2 チーム内での自分の役割を知り、それぞれが強みを生かす
3 弱みを“見留め”、人に助けを借りる