景気もよくなったか、よくなっていないかわからない今日このごろ、企業のお金にまつわるいろんなニュースを目にし、耳にします。「過去最高益」とか「増収増益」といった明るい話題もありますが、だいたいが「脱税」や「所得隠し」といった、負の要素をもった話題であることが多いです。
しかし、この「脱税」や「所得隠し」といったワードは、いったい何がどう違うのでしょうか。どちらも“ズルをする”ということというは何となく分かりますが、たとえば「脱税」と「節税」とは、何が違うのでしょうか。
この記事では、「所得隠し」や「節税」「脱税」といった税金に関するワードを詳しく解説します。ついつい脱税とみなされるようなことをしてしまっても、知らなかったではすみません。どこに気をつければいいのか、ポイントをお伝えしましょう。
「脱税」と「節税」。その違いはどこに?
まずは、「脱税」と「節税」について解説することにいたしましょう。
法律による定義から見ていくと、「脱税」は「課税要件の充足の事実を全部または一部秘匿する行為」、「節税」は「租税法規が予定しているところに従って税負担の減少を図る行為」とあります(金子宏『租税法』[弘文堂刊]117、118頁より引用)。ただ、これだとあまりにも法律用語すぎて、大学や大学院で法学部だった、または法学を専攻されていた方以外の方では、なかなか分かりづらいかもしれません。
簡単にいえば、「脱税」は「違法な手段で納税額を減らそうとする行為」を指します。たとえば売上において本来の金額よりも少なく計上したり、架空の経費を計上したりすることで所得を減らすことで、本来支払うべき税金を減らすことを言います。
この、意図的に本来の売り上げよりも少ない額を所得として計上して申告する行為が、俗にいう「所得隠し」であり、脱税にあたります。また意図的ではないにしろ、処理のミスによって結果的に脱税をしてしまうといったケースもありますが、これは「申告漏れ」にあたります。
脱税は法に反する行為ですので、当然それに対する罰則が設けられています。事例によって適用される法律が異なるため、罰則の程度も事例ごとに異なることが多いです。罰則の一例としては、本来支払うべき税金に加え、納税が遅れたことに対する延滞税や、収入を申告していなかったこと対する過少申告加算税などが追加で課されたりします。このように追加で支払わなければならない税金が積み重なると、結果的に、隠した売上、経費とそのまま同じ金額程度を納税することとなるのです。さらに悪質なケースなどでは国税犯則取締法が適応され、刑事事件にまで発展することもあります。
一方で「節税」というのは「法で許されている通常の行為の範囲で納税額を軽減する」行為を指します。具体的には、住宅ローン控除や医療費控除など、政策として認められた方法に則り、減税する効果をいいます。
たとえば、みなさんの通勤費は、所得税の計算対象から外れています。給与として支払われるものには税金がかかりますが、通勤費として支払われるものには課税されないのです。
なかには通勤にかかる費用を通勤費として支払わず、給与の中に含めて従業員に支払っている会社もあるかと思います。しかし会社が支払う金額は同じでも、全額を給与として支払うか、給与と通勤費とに分けて支払うかによって課税額が変わり、従業員が受け取る金額が変わってくるのです。従業員にとっては、所得税額が少ない方が嬉しいのは言わずもがなでしょう。
通勤費を通勤費として支払うことには、会社側にもメリットがあります。…
通勤費は「課税仕入れ」という、消費税を計算する際に課税対象となる売上から控除される仕入金額に該当します。つまり、通勤費として会社が支払った金額には消費税がかからず、その分節税できるということです(ただし、簡易課税制度の適用を受けている場合は控除の対象になりません。また、非課税となる通勤費には上限があります)。
このように「脱税」と「節税」は共に減税効果を表現するものですが、前者は「違法」で後者は「合法」です。脱税することの重大さを理解し、脱税ではなく節税によって会社や従業員の利益を増やす方法を考えていくことが大切です。
交際費には要注意!?
ここまで脱税と節税の違いに関して述べてきましたが、ここで脱税の具体的な例を見てみましょう。最近では、某大手電機メーカーで次のような脱税事件がありました。
同社は2年間で約100億円の申告漏れを国税局に指摘され、うち約3,000万円が所得隠しと認定されました。所得隠しとして認定された3,000万円は、同社が決算を連結している海外子会社の経費として申告したもの。しかし国税局は、本来は経費として認められない交際費を別の費目に変えて隠蔽したと認めました。
この事件で問題になったことは、海外子会社の経費に交際費を計上したことが、所得隠し、つまり脱税と判断されたということです。現在では法改正により、どの法人も一定の交際費は経費として認められることとなりましたが、昔はそういう訳にはいきませんでした。大法人では交際費が経費にできない法制度なので、中小法人である子会社に付け替えてしまおう、という発想です。バブル期においては、会社を大きくするためには増資が不可欠になり、こういった交際費を使うだけの法人というのが存在していたようです。
経費として処理できると思っていたものが経費ではないと判断され、結果的に脱税してしまったというようなことがないよう、気を付けなければなりません。「経費になると思って領収書などおいてあるが、本当は経費の規定に照らすと問題ないのだろうか」、「交際費の社内規定もっと注意して見よう」などと思っていただければ幸いです。
税制の抜け道? 租税回避とは
「脱税」や「節税」に似た言葉として、「租税回避」というものもあります。
まず、定義から確認してみましょう。租税回避とは、「私法上の選択可能性を利用し、私的経済取引プロパーの見地からは合理的理由がないのに、通常用いられない法形式を選択することによって、結果的には意図した経済的目的ないし経済的盛夏を実現しながら、通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、もって税負担を減少あるいは排除すること」(金子宏『租税法』[弘文堂刊]117頁より引用)をいいます。
定義を聞いただけではよく分からないですよね。租税回避を簡単に言うと、税制の抜け道を探すなどをし、税金の負担額を軽くする行為です。「脱税」が違法行為であることは先に述べましたが、「租税回避」は法に触れない範囲での行為のため、違法ではありません。しかし、法律の規定する範囲内で合理的に行われる「節税」に対して、「租税回避」は法律で規定はしていないけれど、通常の取引では考えられないような行為によって減税を図るという方法であり、いわばグレーゾーンであります。
租税回避にあたる行為とは、たとえば、通常考えられるよりも高すぎたり、逆に安すぎたり、あり得ない金額での取引だけれど、契約書などでは締結されていて、民法上は有効な取引だったりします。
たとえば会社で車を購入し、その半額で社内の役員に売ってしまったとしたらどうでしょうか。そんなものコンプライアンス上無理というのが大半だと思いますが、何億も稼いでいる会社であれば金額的には大きくなく、あり得ない話ではないかもしれません。その役員は半額で車を購入することができてラッキーだし、法人では買値と売値の差額が損失になって減税効果もあるし、なんだかうまく丸まってしまいそうです。通常ではありえないような話ですが、これも租税回避のひとつです。企業経営とは異なりますが、バブル期には相続税を減少させるために養子縁組を12人もしたケースがあったそうです。
しかし、そうは問屋が卸しません。納付税額の軽減を図るというのは、経済人として自然な行動ですが、ちょっと落ち着いて考えてみてください。500万円で買ってきた車を250万円で他人に売りますでしょうか。そんなことないですよね。これは減税効果を図っていることが見え見えで、本来あるべき取引のかたちを完全に無視しています。
ここで述べたような車を利用した租税回避は、中小企業の場合では、税法上の「同族会社の行為計算の否認」という決まりによって課税されるため、そもそもこういった形で納税を回避することはできないようになっています。では、大企業ではどうでしょうか。大企業に上記の「同族会社の行為計算の否認」はあてはまりませんが、大企業には会社に利益がでないことや社会秩序を守らせることについて厳しき監督している機関として、株主総会や企業の法務部があります。会社に損失があれば当然配当額も減ることにつながるので、株主が黙っていないということです。
「租税回避」によって減税効果があったとしても、会社に損失を与えることは本来あるべき姿ではありません。減税ばかりに目を向けて、大切なものを見失うことのないようにしなければならないでしょう。
「脱税」「節税」「租税回避」について語ってきましたが、ご自身の職場で思い当たるところはありませんでしょうか。「脱税」は違法行為ですので、はっきり止めておきましょう。「節税」は日本国や地方公共団体で認められた合法的な行為ですので、よく調べて適用できるものについては、適用していきましょう。「租税回避」行為についてもその取引に減税効果以外にきちんと商取引としての効果があることを重視して行いましょう。
また「脱税」行為に加担しないためにも、取引先が「領収書なしでよければ…」や「必ず納付税額が抑えられる方法教えます!!」と持ち掛けてくることには要注意です。ご自身の会社や部署では健全な経理処理が行われているか、一度見直してみてはいかがでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年9月4日)のものです。