確かに、経営者か経理部にいる人でないと、決算書を読む意味は分かりづらいものです。しかし、たとえば銀行から借入をしようとすると、銀行からは必ず社長による決算書を含む事業計画の説明が求められるように、ビジネスを継続するうえでは欠かせないものです。
決算書を読む一番のメリットは、その会社が利益を出すための行動、お金を残すための企業行動がすぐにわかる、ということです。私は税理士という立場上、企業の経営者、金融機関の方々と話をする機会が多くありますが、経営に参画している方や金融機関で活躍している方は、みな決算書や財務状況のことを前提に事業計画を考えています。決算書を読み解くというのは、優れたビジネスマンになるための必須スキルになってきているのです。
決算書の読み方を既にご存知の方も多いと思いますが、中にはいまいちピンと来ない方もいらっしゃるかもしれません。復習の意味も込めて、ここで決算書ともう一度向き合ってみませんか。
では具体的に決算書を見ていく作業に入ります。決算書は大きく3つの書類に分かれており、1つ目が経営成績を示す「損益計算書」、2つ目が資金の流入と支出を示す「キャッシュフロー計算書」、3つ目が財産状況を表す「貸借対照表」となります。上場企業であればたいていの企業がホームページに掲載しています。自社でも、気になる企業でも良いので、実際の決算書と合わせて見ていただけると、より理解が深まると思います。
本稿では一般的に決算書を読む順序でお伝えしますが、この中で特に押さえたいポイントは、損益計算書の「営業利益」、キャッシュフロー計算書の「営業活動によるキャッシュフロー」です。少なくとこの2つの項目だけは、ぜひご一読いただければと思います。
次に「売上原価」という欄があります。要は販売物やそのサービスができるまでに必要とした費用のことです。「期首商品」や「期首製品」と示されているものが前期末に残っていた商品で、「期末商品」や「期末製品」は、当期末に残った在庫を示します。
売上原価は、期首の在庫と当期に掛った経費との合計から当期末に残った在庫を差し引くと、当期の売上高に対応する原価が計算されます。ここで売上高と売上原価の差額が「売上総利益」、いわゆる粗利益となります。
続いて、「販売費及び一般管理費」を見ていきましょう。これは、会社が存続するために確実に必要となる経費、いわゆる固定費です。たとえば人件費やオフィスの賃貸料など、「売上が上がろうと上がらなかろうと、確実に必要となる費用」が当てはまります。
売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた金額が「営業利益」といわれます。これが、会社の利益となります。
「営業利益」は、どの企業もどの金融機関もどの投資家も、最も注意して見ている箇所の1つです。営業利益が出ていないということは、会社の永続的な存続が危ういことを意味します。その場合は大きなコストカットをするか、新たな事業を始めなければならなくなるでしょう。逆に営業利益の数値が高ければ、事業として強固な企業として評価されます。つまり、売上が好調、原価や経費がうまく抑えられているということです。
絶対に守らなければならない利益は「営業利益」です。繰り返しになりますが、営業利益が出ていないということは、会社として事業を続けていくことがこの先できないことを意味しています。建設業の公共工事の入札の場合、営業利益が守れていない企業は、入札に参加することが相当厳しくなるほど重要な項目となります。
経常利益・特別損益・当期純利益はどういう意味?
さて次は、「営業外損益」の欄を見ましょう。ここには本来的な事業以外での損益が記されます。たとえば小売業を営む会社が「普通預金の預金利息がついた」や「借入金の利息を支払った」といった収支があった場合はここに反映されます。
営業利益に営業外損益を反映したものが「経常利益」と言われます(“ケーツネ”と略されることもあります)。
銀行の担当者は、この経常利益を特によく見ています。おそらく、企業としてどの程度利益が残る企業であるかを見極めるためでしょう。
損益計算書で最後に見ておきたいのが「特別損益」です。ここでは予期していなかったような事態により、通常の会計期間では考えられない収入または経費が計上されます。たとえば「裁判による損害賠償での損失」、「火災が起こったことによる保険金の収入」などです。
ここでの利益や損失は、通常起こり得ない事情によるものなので、金額が小さければ意識するほどの項目ではありません。しかし金額が大きい場合には気をつけましょう。なぜなら、法人税や配当の金額に直結するからです。
経常利益から特別損益を差し引いたものが「税引前当期純利益」です。税引前当期純利益に、法人税などが調整されたものが「当期純利益」となります。当期純利益が多いことは、企業にとっては内部留保を厚くし、株主にとっては配当を増やすことができることを意味します。「儲ける」という結果が、すべてここに集約されます。
キャッシュフロー計算書:“黒字倒産”に気をつけろ!
続いては、「キャッシュフロー計算書」を見てみましょう。簡単にいえば、企業のお金の流れを示すものとなります。なお、ここでいうキャッシュとは、現金だけではなく現金同等物(定期預金など)も含まれます。
まず注目したいのが「営業活動によるキャッシュフロー」です。これは「本来の事業で稼ぎ出したキャッシュ」を表します。ここがマイナスであれば、事業は大変厳しいことになります。債権回収が遅れていたりキャッシュが回っていないと、この数値はマイナスとなり、事業でお金を稼ぎ出せていないことになります。
逆にマイナスが良いとされるのが「投資活動によるキャッシュフロー」です。これは投資にかけたキャッシュ、または投資によって回収したキャッシュを示します。投資を潤沢に行い、かつ以前の投資も途切れることなく続けている状態では、数値はマイナスとなります。投資をするということは利益を産み出すために必要なことで、投資を怠ると企業は新たな利益を産む機会をどんどん失うことになりかねません。この項目で値がマイナスになっているのは、企業が新たな利益を生み出すための投資を潤沢に行っていることを意味するため、マイナスが良い、ということになります。
最後に「財務活動によるキャッシュフロー」も確認しましょう。これは金融機関とのやり取りや配当金の支払いなど「財務的活動」にフォーカスしたキャッシュフローです。これは借入金などを減らし、かつ配当金等も詰まることなく支払うことができる状態の指標とされます。債務がきちんと減らすことができた場合、また配当金をきちんと支払うことができた場合は、支払額の方が大きくなるのが通常です。なので、ここでの数値はマイナスとなるのがよいとされます。
キャッシュフロー計算書では、細かい項目に目を通すことが重要です。なぜなら、損益計算書では収入や経費として載っているもののうち、資金の流入・支出には表現されない科目が掲載されているからです。損益計算書では黒字なのに、キャッシュフロー計算書では赤字となっている例はよくあります。利益が出ても資金繰りが困難になる「黒字倒産」とは、まさに営業活動によるキャッシュフローがマイナスになっていることが原因で起こります。単なる黒字や赤字だけで見るのではなく、キャッシュが潤沢にあるかないかというのも、企業を評価する上で必要な項目なのです。
キャッシュフロー計算書で大事なのは「営業活動によるキャッシュフロー」が必ず「+(プラス)」であることが、企業が生き残る上で絶対条件だということです。ここだけはいかなる事業体(たとえ企業、プロジェクトなど)でも落とせないところです。
貸借対照表:企業の“武器”と“自力”を見抜く
それでは最後に「貸借対照表」を見てみましょう。ここには、企業の“武器”となる「財産状況」が隠されています。
貸借対照表は「資産の部」、「負債の部」、「純資産の部」の3つに分かれていますが、「資産の部」には資産が示されていて、「負債の部」は企業が他に支払う義務を示しています。優れた経営者はどんな自社に資産があったかを常に把握しているものです。自社の保有する資金によって投資の内容を考え出したり、自己の資産を他に転用することで利益を産めないかを考えたりしています。この貸借対照表で資産を確認することは、経営者にとって重要なことと言えます。
企業が借入をしたりせずに存続できる力(自力)を見るには、「純資産の部」に注目しましょう。資産は負債と純資産によって支えられています。負債を全部返しきったとしたら純資産が残ります。株主資本と毎期積み立ててきた利益との合計値(自己資本)が高いほど企業は強いのはいうまでもないでしょう。
ここまで駆け足で説明してきましたが、本稿における決算書の解説は以上となります。決算書は自社の最新の情報あけではなく、いろんな企業、いろんな会計期間を、何度も繰り返しみることが重要です。最終的には、会社全体のみならず、部や課、プロジェクトチーム単位で考えることができれば、プロジェクト内での経営判断にも迷いが少なくなるのではないでしょうか。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年9月19日)のものです。