平成26年4月1日から、消費税及び地方消費税の税率(本稿では一律に「消費税率」という)が5%から8%となりました。将来的には10%にまで引き上がることがほぼ確実といわれています。消費税率の引き上げは、日本で生計を立てている企業であれば切り離せない問題となります。
その一方で、法人税の税率は2015年より下がるという見通しもあります。上がる消費税に下がる法人税、コロコロ変わる税率に対し、企業はどのような対策を取れば良いのでしょうか?
消費税増税と法人税減税が、企業にどのような影響を与えるのかを見ていきます。
避けては通れない?消費税の増税
根本的な話ですが、なぜ消費税は5%から8%へと上がったのでしょうか? その理由はただ1つ、「社会保障に必要な財源を確保するため」に実施されたものです。
実際に財務省のホームページでも「今後、少子高齢化により、現役世代が急なスピードで減っていく一方で、高齢者は増えていきます。社会保障財源のために所得税や法人税の引上げを行えば、一層現役世代に負担が集中することとなります。特定の者に負担が集中せず、高齢者を含めて国民全体で広く負担する消費税が、高齢者社会における社会保障の財源にふさわしいと考えられます」と記載されています。
しかし、社会保障の財源は、実際は増税でまかないきれるものではありません。日本国は毎年の収入を税収と国債の発行にほとんど頼っているわけですから、消費税の増税を行ったとしても、財源としては全く足りない状況です。消費税増税は今後も避けられない事態となりそうです。
消費税増税に耐えうる企業とは
消費税の増税は、多くの企業にとって耳の痛い話です。商品の仕入れ先に支払う金額が上がりますし、商品を購入する客が企業に支払う額が従来よりも増えることになるため、買い控えで消費は低迷することが予想されます。企業の収入が少なくなることが予測されます。
中には、その値上がりした消費税分を抑えるため、仕入先等に商品の値下げを要求し、税込価格を消費税増税前の価格と据え置きにする企業もあるかもしれません。しかし、こうした「消費税の転嫁」は、法律により禁じられています(消費税転嫁対策特別措置法)。
このような状況であっても、利益を確保するよう努力しなければならないのが企業です。それでは、消費税増税に耐えうる企業を作るには、どうすればよいのでしょうか。…
1つ目の答えとしては、消費税の増税にも負けない「商品やサービス」を作ること、2つ目としては何か大きな武器をもつことがあるでしょう。
1つ目については、私は税理士という職業柄、多種多様な業種の企業の経営者や従業員の方の人と話す機会がありますが、やはり「これ!」という強い商品やサービスを持っている企業は、たとえ時代が変わろうとも強く、逆に専門性に欠ける商品やサービスを売っている企業は、大変厳しい状況になってきていると非常に感じます。他社と似たような商品やサービスを扱っている場合は、その分他社との競争も激しくなるからです。
2つ目の「武器」とは、たとえば大きな株主資本やキャッシュ、優秀な人材などがあげられます。これらの武器を持っている企業は、そうではない企業に比べて競争を有利に進められるからです。しかし、いくら巨大な株主資本やキャッシュを持つ大企業であっても、厳しい状況であることは変わりませんので、新たに強みを作っていく必要があります。
自社の強みがすぐに出てこない場合はどうしたらいいでしょうか。その場合は、自社の社歴を振り返ってみてください。歴史のある会社でしたら50年史や100年史といった社史があったり、比較的新しい企業であれば創業者がどのようにして起業し、成功にいたったかを書き修めたものがあると思います。その中にはもちろん企業としての成功が描かれていますが、たいていどこかで「強い商品やサービス」の開発や「強い武器」を得た時期があるはずです。昔と今は違いますが、そのエネルギー等感じることができれば新商品の開発やセグメントの業務に取り組む姿勢などが変化し、上記2点の強みを得られるのでしょうか。
消費税の増税においても耐えうる商品やサービスを常に考え続けないと生き残れない厳しい時代が加速していきます。手遅れになる前に、対策を始めましょう。
法人税減税による期待と実態
次に、法人税についてお話しましょう。こちらは消費税とは打って変わって「減税」です。東京都の場合は税率が約36%ですが、2015年度より引き下げられ、ゆくゆくは20%台まで抑えられると言われています。今まで払っていた額は減らされるということで、企業としては嬉しい話です。ですが、なぜ法人税の減税がなぜ行われるのでしょうか?
理由はいくつかありますが、もっとも大きなものには、国が減税による景気の回復を期待したということです。法人税を減らした分、企業にはキャッシュが残りますので、それを投資に回せば景気の回復につながる、というわけです。景気が良くなれば企業の売り上げも伸び、そうすれば税率を下げても法人税による税収が保持できるという狙いです。
減税が企業にプラスの影響を与える可能性は高いです。特に内部留保(企業の純利益から税金や配当金など社外流出費を除いたもの、企業の蓄え)は間違いなく増加するでしょう。実際に日本の法人税の実効税率(主に法人税、法人事業税、法人道府県民税、法人市町村民税の税率の合計値)は先進国の中でもかなり高く、たとえばフランス(約33%)、ドイツ(約30%)、中国、韓国、イギリス(約25%)あたりの国は日本よりも実効税率は低いです。余談ですが、これが日本を“島国化”しているという指摘もあります。
しかし、投資市場の反応が「減税は、失った内部留保を埋める程度」としか思われていない場合、期待したほど投資が増えることはなく、株価はそれほど上がらないかもしれません。
このことが及ぼす影響はどのようなものでしょうか。内部留保がたまらなければ当分の間、給与等や社外にする投資は低下したままとなります。一方で消費税は増税します。企業の目的は現状を維持するのが当面必至になり、私生活では消費税の増税や上がり続ける社会保険料により、財布のひもも固くなるわけです。すると一般消費も伸びない、投資も伸びないという、最悪の事態になりかねません。
企業が生き残る道とは
このような消費税増税と法人税減税の悪い面が出てきてしまった場合、どのように生き残っていくのか。そこに裏ワザはありません。「売上を伸ばし、経費を最小限にすることで利益を確保する」という、正攻法で挑むべきでしょう。
では、実際どのように売上を伸ばし、経費を最小限にするのでしょうか。もちろん、それは業種によって違いますが、基本的なことは「計画と実際を知ること、それに則って実行すること、管理し改善すること」――いわゆるPDCAサイクルです。人事やマーケティングにおいてこのPDCAはよく使われるのですが、税理士の立場から言うと、これを会計、財務に応用できている経営者が率いる会社は、伸びていることが本当に多いです。
これは何も経営者だけがすることではなく、プロジェクトリーダーレベルでも同じです。PDCAを幅広く応用させる管理職がいることは、経営者の大きな助けになることでしょう。まずは、数字の見直しのためにプロジェクトごとに収支一覧表やキャッシュフロー計算書を簡単に作成して、お金の流れを把握、分析し、そこからどのような施策が必要となってくるのかを考えてみてください。施策の方向性が決まればそこからさらにモノやヒト、具体的な行動と、必要なものがおのずと見えてくるはずです。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2014年10月2日)のものです。