連載2回目に「ゆとり世代とは1987年度以降生まれの若者のことを指す」と説明しました。6年ほど前に「ゆとり世代が社会に出てくる!」と、マスコミなどでもずいぶん話題になったと記憶しています。
1987年度生まれの若者が、中学3年生のときにゆとり教育は始まりました。つまり、彼らは中学2年生まではゆとり教育を受けていないのです。95年度生まれが、小学校1年生から「ゆとり教育だけを受けて育った世代」になります。「純粋ゆとり世代」と言っていいでしょう。
彼らが大学を卒業して社会に出てくるのは、2年後になります。すでに社会人になっていて、さまざまな問題を起こしているゆとり世代は、厳密にいえばその前の「少子化世代」の影響も濃く、ゆとり教育の弊害が、まだまだ少ない世代です。これからどんどん、ゆとり教育の影響の濃くなっていく世代が、社会に出てくることになります。
95年度生まれの若者は、2015年時点で大学2年生。アルバイトが当たり前になり、社会との接点が増え始める世代です。彼らが社会と関わりを持ち、どのような問題を起こしているか。その一例をご紹介しましょう。
皆さんもよく知っているある大手小売店が、求人誌に「普通の人募集」というタイトルでアルバイトの求人広告を出しました。そこに応募してきた人たちの、実際にあった仰天話です。
・履歴書が名前以外白紙
・志望動機欄に「暇つぶし」と記入
・履歴書の証明写真がプリクラで撮ったもの
・面接なのにモヒカン頭で来た
・面接に2時間遅刻して、第一声が「ちいっす」
いかがでしょうか? すべて採用現場で起きている事実です。ゆとり世代の学生の常識やモラルはここまで低下しているのです。
「いい人材がいない」「いい学生がいない」と嘆くのは簡単です。しかし、現実はそうではないのです。いい人材がいないのではなく、社会に適した、いい人材を学校で育てていないのです。ゆとり世代である彼らに責任はありません。そのように育てた教育制度の方に責任はあります。
「ゆとり教育は終わった」という幻想…
「ちょっと待って。最近、ゆとり教育は終わったんだよね?」と思った方もいるかもしれません。確かに平成22年度(2010年度)からゆとり教育が見直され、「脱ゆとり教育」が始まったとされています。マスコミも一斉にそう報道しました。しかし、その内実はどうでしょうか?
ゆとり教育では、授業時間が2割、授業内容が3割カットされました。脱ゆとり教育では、その授業時間のうち約4.6%を復活させたにすぎません。つまり、ゆとり教育以前と比べて授業時間が約15.4%減った状態のままです。大きな流れとしてのゆとり教育には何も変わりがないのです。学校の先生からすれば、授業時間が2割増え、授業内容が3割増えたら、とても対応できません。授業以外の業務も多い中、今すぐに昔の教育体制に戻るというのは、現実的ではないでしょう。
ただ、ここで言いたいのは、ゆとり教育が良いとか悪いとか、昔の教育が良かったとか悪かったとか、そういう問題ではありません。ゆとり教育の内容、脱ゆとり教育の内容、それぞれが正確に伝えられていないことにより、実社会がゆとり世代の実態や今後起こるであろうことについて、正しく理解していないことが問題なのです。
定員割れが続く大学での教育が崩壊している中で、これからどんどん、ゆとり教育の影響の濃い、純粋ゆとり世代が社会に出てきます。現在よりさらに学力が低く、社会的モラルが低く、上の世代と価値観の異なる人材です。
大学が基礎学力を教えているように、企業も新入社員の入社後約3年間は基礎的なビジネス力や社会人としてのモラルを教える期間と考え、しっかりとビジネス社会のルールを叩き込む必要があるでしょう。ゆとり世代の「当たり前」とビジネス社会の「当たり前」をきちんとすり合わせ、社会人としての認識・意識を持つまで徹底的に基本を教え込む気がまえを持って、ゆとり世代に接してください。
悪気なく悪いことをする素直で良い人
ここでもう一度、ゆとり世代の特徴をまとめてみましょう。ゆとり世代を一言でいうと、「悪気なく悪いことをする素直で良い人」です。これは一見矛盾するような表現ですが、彼らを言い表すには最も象徴的な一言なのです。
その上で、彼らは「根拠のない自信」を持っているが、「メンタルが弱い」という短所があります。これもまた相反するような表現ですが、その理由は、これまでご説明してきた通り、「ゆとり世代」はほめられて育ち、絶対評価を受け続けて、最終的に大学受験にも落ちないでこれまで生きてこれたからです。
そして、絶対評価の弊害で、あまりにも結果が出ないと、すぐに落ち込んでしまうのです。それは「ゆとり世代」の彼らにとっては社会に出て初めて、こんなにもうまくいかないことが多いのかというぐらい、それまでの人生で「うまくいかない」ことに出会わなかったからです。大学を卒業するまでの22年間は、常に昨日までの自分と比べて、今日どのように成長しているのか評価され、ほめられてきました。
先輩・上司世代は、大学を卒業するまでの22年間で「うまくいかない」ことも経験してきました。つまり、社会に出るまでの間にいろいろなストレスをこまめに受けてきたのです。その結果、ストレスに対する免疫力を付けることができ、社会に出ても多少のストレスでは参らないようになっていたのです。つまり「ゆとり世代」は決して「メンタルが弱い」というわけではなく、これまでにストレスを受けずに過ごしてきたため、免疫力を付けずに社会に出てきてしまったのです。
次に長所です。これまで、「ゆとり世代」の弊害や短所ばかりに言及してきましたが、そ んな彼らにも長所があります。その一番代表的なものは、「素直さ」です。「悪気なく悪いことをする素直で良い人」の「素直で良い人」というのは彼らの最大の長所でもあるのです。
日経トップリーダー/柘植智幸(じんざい社)