ゆとり世代の特徴として「ホウレンソウが苦手」というものがあります。報告・連絡・相談というビジネスの基本中の基本です。苦手な原因には、前述したような「上司が怖い」「上司が苦手」という、それまで接したことのない人たちと接することへの漠然とした恐れがあります。
もう1つの原因は、ゆとり世代には、自分が心を開いて何でも相談できる相手が極めて少ないということです。ゆとり世代は他人との関係が希薄で、自分から積極的に人間関係を求めていこうともしません。
肯定も否定もなく、無気力にあいづちを返しました。これが、ゆとり世代の平均的な友人関係です。絶対評価によって「ほかの人はどうなのか」「ほかの人と比べて自分はどうなのか」という思考をしないで育ったゆとり世代にとって、友人といっても他人には関心が薄いのです。
これが上司世代の友人関係であれば、「サボるなんて、最低だな」と時には冗談めかして言ったり、「今回はしょうがないけど、本当はまずいだろう?」と理解を示しつつも軽く説教をしたりするでしょう。そこには「ほかの人に迷惑がかかるのに、最低だな」という、集団の中における常識が友人に欠けていることの指摘や、「サボっていたら友人自身がこの先、困るからまずい」という友人への関心があります。この部分が、ゆとり世代は非常に希薄になっています。
絶対評価だから集団の中での立ち位置が分からないし、気にならない。つまり、他人に興味を持たないのです。だから、会社という集団の中でも、行事や飲み会を私的な理由で断るのは日常茶飯事です。それを「申し訳ない」とも思っていません。それでも、上司への苦手意識など、対人関係を克服させれば、報告と連絡はなんとかできます。彼らの学生時代にたとえれば、クラスメート程度の関係という意識を持って、上司とも接します。これは事務的に連絡をやりとりする関係です。
しかし、それではビジネスはうまく回っていきません。ホウレンソウでいえば「ソウ=相談」の部分をしっかりと行うことができてこそ、円滑に仕事を進められるのです。では、どうやったらゆとり世代と「相談をする関係」に入ることができるのでしょうか? それは、面と向かって話す「面談」の時間をたくさん設けることです。
ゆとり世代にとって「相談」相手とは、学生時代で言えば心を開いて接している、数少ない友人との関係です。そしてゆとり世代にとってそれほどの友人はとても希少な存在であり、どちらかといえば苦手な上司と、同列に考えることはできません。この高い壁を越えて関係を築くには、ゆとり世代にとって相談しやすい環境を、仕組みとして整えてあげることが必要です。
月に1回の面談では、話したことを忘れてしまいます。毎週では多すぎて、話すことがなくなります。随時にすると、上司の都合のよいときだけになり、ゆとり世代から「面談しましょう」と持ちかけてきません。その結果、面談のタイミングでは、既に抱えている問題がこじれてしまっていることもあります。
曜日は、木曜か金曜、できれば金曜日がベストです。週の初めに面談すると、そのときに与えた課題(問題点の検証・分析)を抱えたまま、通常の業務に臨まなければなりません。負担が2倍になり、業務でミスを起こしやすくなります。金曜日に面談をすれば、土日に復習・予習ができます。時間は、金曜日に面談をするという前提に立てば、就業時間後はまずありません。1週間の疲れがたまっている中、早朝からという選択肢もないでしょう。1週間の仕事の終わりに、来週への課題を提示する午後から夕方がベストです。
ゆとり世代は報告・連絡・相談が苦手、特に相談が大の苦手です。仕事がうまくいかないと、なおさら自分から相談を持ちかけられなくなります。だから、上司が場を設定してあげることが大切なのです。2週間に1回の面談を3カ月、計6回程度続ければ、ゆとり世代と上司は「相談できる(親しい)間柄」になり、それ以降はゆとり世代から自主的に相談を持ちかけてくるようになります。
足りないスキル、雑談力をつけさせる
営業部署のみなさんなら、訪問先でまず雑談から入り、相手の気持ちをほぐしてから本題に入る、という会話のテクニックは常識だと思います。ところが、この常識はゆとり世代には通用しません。
相手企業の担当者が野球好きだとして、「昨日の試合は面白かったなぁ」と話しかけてきたとします。すると、ゆとり世代は「へーそうですか」と答えます。あいづちを打つのでもなく、「どんな試合だったんですか?」と聞くでもなく、まるで無関心です。これでは、会話が弾むわけがありません。
なぜ無関心なのでしょうか? これまで説明してきたのと同様に、絶対評価に原因があります。絶対評価では「過去の自分に対し、現在の自分がどれだけ進歩したか」を評価されます。そこには、他人との関わりがあまりありません。「他人が知っていることを自分が知っていないと恥ずかしい。仲間はずれの感じがする」という意識がないのです。
2つ目の理由は、ゆとり世代がちょうど直面した時代的な背景、インターネットの普及です。昔は新聞やテレビなど、情報は一方的に流されているだけでした。興味がない情報も、自然と頭に入ってきます。
ところが、インターネットの普及によって、興味がある情報だけをどこまでも徹底的に調べて、見に行ける環境が整いました。そこに時間を費やす結果、ゆとり世代は「興味があることはとても詳しく知っているが、一般的な知識、常識が欠けている」ようになったのです。
上司世代ならテレビや新聞でいやでもかじっているような事件の話題をふっても「いや、知りません」と平然と答えます。1日中内勤で、人と接しない仕事ならともかく、一般的には、社会に出たゆとり世代にはまず「雑談力」をつけさせなければなりません。でないと、取引先の気分を害することは確実です。
基本的な話ですが、興味がなくても新聞の1面には必ず目を通す、テレビのニュースは必ず見る、といった義務を課すようにするといいでしょう。また冒頭の事例のように、取引先企業の担当者が何を好きなのかが分かったら、そのことを事前に調べて、知識として身につけて訪問する習慣づけをしてください。
上司世代の方々には「雑談力は日頃の暮らしから自然に身に付くもの」という感覚があるかもしれませんが、ゆとり世代は違います。これも1つのスキルとして、勉強させることが必要なのです。
ゆとり世代が社会に出始めた頃から、非常に集客のよくなったセミナーがあります。それは雑談力を身に付けるセミナーです。「雑談力を勉強する」こう書くと不思議な感じもしますが、雑談力に関して学ぶ本も、最近は続々と出ています。それだけ勉強が必要なスキルになったということです。新入社員をこうしたセミナーに参加させたり、本を読ませたりするのも1つの策でしょう。
日経トップリーダー/柘植智幸(じんざい社)