戦国の世の室町時代、日本人の平均寿命は30歳代だったともいわれています。そんな中、60歳、70歳まで生きた戦国武将も少なくありませんでした。
一家の主(あるじ)が若いうちに急逝すると、家の存続に関わる事態になりかねません。後継者も幼いので、近隣から攻められる恐れが増すだけでなく、後継者争いの“お家騒動”が起こりえます。
また、天下統一はともかく、隣国を攻め落とすのにも相応の時間がかかります。いくら有能な武将でも早世してしまえば、成し遂げられることは限られます。ですから大きな足跡を残した戦国武将は当時の水準からすると、長命を実現したケースが少なくありません。
その代表が、戦国武将の中でも健康オタクとして知られる、徳川家康です。74歳(満年齢、以下同じ)まで大きな病に倒れることなく生き抜きました。
家康が人一倍気を使ったのが食事の内容。ぜいたくは月に2、3回で十分と、普段の食事は麦飯と豆味噌の一汁一菜を基本としていました。家康の身分からするとかなりの粗食ですが、麦飯は栄養価が高く、豆味噌は消化吸収を促して体内の老化を防ぐなど、実は健康面で優れたメニューなのです。
また、体に悪いからと、季節外れのものや冷たいものを口にしませんでした。あるとき織田信長から桃が贈られましたが「季節外れだから」と食べなかったというエピソードがあるほどです。
家康は、薬の研究家としての側面も持っていました。中国から薬学書の『本草綱目(ほんぞうこうもく)』や『和剤局方(わざいきょくほう)』を取り寄せて読み込み、薬草園を開設。100種類を超える薬草を栽培し、自ら調薬を行うほど力を入れていました。
そして風邪薬の「紫雪(しせつ)」や滋養強壮に効く「八味丸(はちみがん)」などを専用の薬箱に入れ、常備薬にしていました。静岡県にある家康ゆかりの神社・久能山東照宮には、家康が薬の処方に使ったつぼが残されています。
体を動かすのが健康の基本なのは、今も昔も同じです。そのために家康が好んだのは鷹狩りです。「これは単なる娯楽ではない。郊外に出掛けるから、民衆の生活ぶりを見ることができる。また骨や筋肉、手足が機敏になり、朝早起きして走り回るから疲れで夜もよく眠れる」といって、生涯、鷹狩りを楽しみました。
毛利元就、伊達政宗の健康法とは?…
「三本の矢の教え」で有名な毛利元就も、健康に気を配り74歳という長寿を全うした武将です。元就は長男、隆元に家督を譲った後も実権を掌握。さらに隆元の急死後には、その子ども輝元の後ろ盾として力を振るいます。その意味では死ぬまで、毛利家の中心であり続けたといっていいでしょう。
元就は、父親の毛利弘元、兄の毛利興元を、共に酒の飲み過ぎが原因で亡くしています。そのため元就は酒を飲まず、禁酒を家訓としました。それだけでなく、健康に人一倍、気を配っていました。
その指南役となったのが、曲直瀬道三(まなせ どうさん)です。道三は、正親町(おおぎまち)天皇や織田信長らの診察を行った戦国時代きっての名医です。元就は道三の診察・治療を受けたことをきっかけに、健康法を伝授されます。
元就が道三から贈られた『養生俳諧(ようじょうはいかい)』には、全120首の俳諧の形で道三の養生訓が示されています。その内容は「食べ物は軟らかくして、温かいうちに足らないと思う程度に食べる」「さまざまな彩りの食材を、旬の時期にバランスよく取る」「唾液を吐かずに飲み込んでいると老化しない」といった健康のための心得です。現代の健康書にも、そのまま掲載されておかしくないものが少なくありません。
東北の雄・伊達政宗も、実は家康に劣らぬ健康オタクでした。さまざまな養生法を実践して、69歳まで長生きしました。
その1つが、水飲み。政宗は大茶わんに水を注ぎ、1日に何杯も飲んでいました。水を多く飲むと尿の排せつを促し、老廃物を排出する効果があるといわれています。
政宗には脈を取る習慣がありました。普段から脈を取っていると頻脈や不整脈などにすぐ気付くことができます。また、熱が出ると平常時より脈が速くなります。体調チェックになるのです。
面白いところでは、政宗は天気の悪い日などに竹を割って鬱気(うっき)を払っていました。現代でいうところのストレス解消、メンタルケアです。「天気の悪いときに竹を割るほど、気分を楽にすることはない。気鬱を病む者に竹を割らせたら、たちどころに回復する」と竹割りのススメをするほど、その効果を実感していました。
その他にも行水する、薄着で過ごす、昼寝をするなど、いろいろな健康法を行っていたことが、政宗が長生きした理由の1つでしょう。
戦国武将が実践していた健康法を紹介してきましたが、体が資本なのは現代のビジネスパーソンも同じ。特にマネジメントに関わる人材が健康を害すると、企業経営に大きな影響を及ぼすことになります。
ジムに通ったり、ランニングをしたりするなど健康への意識が高いビジネスパーソンが増えていますが、健康維持は仕事のためにも自分の人生のためにも大切です。戦国武将たちを参考に、健康について見直してみるのもいいかもしれません。