生き馬の目を抜く戦国の世で家の、また国の存亡を懸けて戦った戦国武将は、多くの名言を残しています。その中には現代のビジネスに役立つばかりでなく、人生の指針となるものも少なくありません。平時には家臣の上に立ち、戦ともなると数万といった兵を率いた戦国武将は、紛れもなく現代でいうところのリーダー。今回から、リーダー論としても学べる戦国武将の名言をシリーズで紹介していきます。
「上一人の心、下万人に通ず」
これは、秀吉に仕え肥後の虎と異名を取った加藤清正の言葉です。上に立つ者の気持ちは、下にいるすべての者に影響を及ぼす。大将が油断すれば、兵も気が緩む。上に立つ者はしっかりとした心掛けを持たなければならない、という戒めです。
上の立場に立つと下の人間についてよく見えるものですが、下の立場にいる人間も上の人間をよく見ており、その表情や言葉に敏感に反応します。リーダーは、上一人の気持ちは下万人に通じていることを忘れてはなりません。これは、企業を率いる社長でも、部長、プロジェクトマネジャーといったチームを率いるマネジャーでも同じです。
会社でリーダーになるには、それ相応の理由があります。将来性が買われる場合もありますが、たいていは実績や経験、資質を見込まれてそのポジションに就きます。しかし、そのポジションを笠に着ると下の人間はついて来ないことも戦国武将は認識していました。
「大将たる人は、威厳というものがなくては、万人を押さえることができぬ。さりながら、悪く心得て、威張ってみせ、下を押さえ込もうとするのは、かえって大きな害である」
これは、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康という3人の天下人に仕え、軍師として名高い黒田官兵衛の言葉。リーダーには威厳がなければ人はついて来ないが、その権威で下を押さえ込もうとすると組織に害を及ぼすという箴言(しんげん)です。
重要な局面で、リーダーはどう決断する?…
リーダーにはさまざまな役割がありますが、その中でも大きいのが組織の方向性の決断です。戦国武将は、自分の決断によって多くの人間の運命を左右する立場にありました。そのため、決断についても多くの言葉を残しています。
「大事の義は、人に談合せず、一心に究めたるがよし」という伊達政宗が決断に関して述べた言葉は、示唆に富んでいます。これは、大切なことを決めるときは人に相談せず、一心に考え尽くすのがいいといった意味です。
もちろん、人の意見を聞くのも悪くはないでしょう。しかし人の意見に頼り、「あの人がこう言っていたから」という理由で決断するのはリーダーとしてあるべき姿ではありません。リーダーは自分で深く考え、自分が十分に納得できるよう決断すべきだと伊達政宗は言っているように思われます。
熟考する大切さとともに、そうして出した決断に自信を持つようにと説いたのは、知将として知られる小早川隆景。「長く思案し、遅く決断すること。思案を重ねた決断であるなら、後戻りする必要はない」と、考え抜いて出した決断ならあれこれ思い悩まないようにせよと勧めています。
そして、「戦場に出でては、我が思うようにして、人の言うことを聞き入れぬが良し」と言ったのは豊臣五大老の1人、前田利家。現場ではいろいろな人がいろいろな意見を言ってきますが、自分でよしと判断した通りに進めていくべきだと述べています。
浅井長政に始まり8人の武将に仕えた藤堂高虎は、「己の立場を明確にできない者こそ、いざというとき一番頼りにならない」という言葉を残しました。自分の立場をはっきりと示せないのは、リーダー失格という意味です。
最後に、リーダーの資質について触れた戦国武将の言葉を2つ紹介しましょう。
吉川元春は、毛利元就の次男で猛将として知られた武将。彼は「律義を旨とし、智少なく勇のみある者は単騎の役にはよいが、大将の器ではない。数千の将たる者は、自分の小勇を事とせず、智計において、人より勝る士でなければだめである。智勇あわせ持たずに、どうして百千の軍兵を指揮できようか」と大将に求められる資質を語りました。
大将は、義理を大切にすること。そして、勇気だけある者は1人で敵陣に乗り込む分にはいいが、大将は「知恵」と「勇気」の両方を持たなくてはならない、と説いています。
また、越前朝倉氏7代目当主の朝倉孝景は、「人の上に立つ主人たるべき者は、不動明王と愛染明王のごとくあれかし」と語りました。不動明王、愛染明王は共に、憤怒の形相の下に慈愛を持った仏です。こちらも、「厳しさ」と「優しさ」の両方を併せ持っています。どちらかの資質に偏らないことも、リーダーとして大切なのかもしれません。
リーダー論を切り口に、さまざまな戦国武将の名言を紹介しました。皆さまがリーダーとして適切な判断を行う際の参考にしていただければと思います。