戦国武将に学ぶ経営のヒント(第88回)戦国武将の失敗学⑤ 徳川家康を成功に導いた2つの“失敗”

歴史・名言

公開日:2022.09.14

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 1603年に征夷大将軍の座に就き、260年の長きに及んだ徳川の世の礎を築いた徳川家康。家康には沈着冷静、忍耐といったイメージがありますが、その背景には失敗から学んだ経験がありました。

 この「戦国武将の失敗学」シリーズの1回目で武田信玄、上杉謙信が後継問題に失敗したことについて詳しく触れましたが、家康が間近で見ていたのが豊臣秀吉のケースです。

 秀吉は秀勝、鶴松という子をもうけたものの、いずれも幼くして亡くしており、その後は子供に恵まれませんでした。秀吉は1585年に関白となり、1590年には北条氏を倒して天下統一を果たしますが、この時点でも嫡子はおらず、後継者は不在のままでした。年齢が50代半ばに差し掛かっていたこともあり、1591年、秀吉はおいの秀次に関白の職を譲り、元号を文禄に改め、秀次の時代になったことをアピールします。

 しかし1593年、秀吉にとっても思いがけないことだったかもしれませんが、側室・淀殿との間に秀頼が誕生します。いったんはおいの秀次を後継とした秀吉でしたが、秀頼が生まれた以上、実子である秀頼を後継にしたいと、気持ちが傾きます。もちろん秀次が素直に納得できる話ではありませんが、秀次は関白の職を解かれ、高野山で切腹するまでの事態となりました。いわゆる「秀次事件」です。

 豊臣政権を揺るがすこの事件を沈静化するため、秀吉は諸大名を京都に集め、秀頼に忠誠を誓うように促しました。この中に、家康も入っています。しかし幼い秀頼にリーダーシップなど望めるはずもなく、1598年に秀吉が没すると家臣の分裂が明らかになり、豊臣の力は急速に衰えていきました。

 このいきさつを見て後継問題が家の運命を左右することを実感していた家康は、自身の後継に慎重を期します。後継を定めないまま自分が健康を害したり、この世を去るようなことになると、いさかいが起こるのは明らかです。そこで、自分の目がまだ黒い1605年、三男の秀忠に将軍の座を譲りました。長男の信康は20年以上前に他界し、次男の秀康は結城の跡目を相続して結城性となっていたため、人選に関して大きな混乱はありませんでした。このとき秀忠は20代半ばで将軍職をこなせる年齢に十分達しており、かつ家康は自分の影響力を保持できる体制で、スムーズに権限移譲を行います。

 家康は、自分の後継だけでなく、将軍職を譲った秀忠の後継にまで目を光らせていました。長男・長丸は早世していたため、秀忠の元には次男の家光、三男の忠長がいました。家光は体が弱く、性格も温和。忠長は健康で、利発です。また家光は乳母の春日局が育てていましたが、忠長は実母の江(ごう)が自ら育てていました。そうしたことから、秀忠と江は忠長が自分の後継にふさわしいと考えるようになります。

 家康は秀忠と江の意向を知りますが、忠長が継ぐことになると混乱が生じる可能性が十分にありました。そこで家康は、家光が秀忠の跡を継ぐことを明確に伝え、家光に対して次期将軍として接するように求めました。1623年に将軍の宣下を受けた家光は諸制度を整え、江戸幕府の基礎を築く功績を残したのはご存じの通りです。

 江戸幕府が260年にわたって続いた要因はいくつもありますが、そのひとつとして後継問題で家、政権が二分され、全面的に対決するようなシチュエーションを幕末まで招かなかったことが挙げられます。

 その土台を作ったのは、秀吉の失敗を間近で見て、その重要性を強く認識していた家康の後継に関する手腕でした。

 後継問題に関しては秀吉という他者の失敗を糧とした例でしたが、家康は自らの失敗ものちに活かしています。家康の生涯最大の敗戦となった、三方ヶ原の戦いです。

自らの失敗による学びが導いた関ヶ原の戦いでの圧勝…

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