2014年度補正予算の成立に続き、15年度の本予算案と税制改正法案がまとまった。アベノミクス第2弾の施策は、景気回復の効果を中小企業や地方へ波及させる役割を担う。新設された補助金や減税などその中身と、中小企業関係者の受け止め方をまとめた。
昨年12月、総選挙で大勝して再び政権についた安倍晋三首相は、直ちに「地方への好循環拡大に向けた緊急経済対策」をとりまとめた。それを実行するために編成されたのが、3兆5000億円規模の2014年度の補正予算。うち3013億円が、中小企業や小規模事業者向けの事業の分だ。
続いて編成された15年度の本予算案のうち、中小企業対策予算は1856億円。金額自体は、14年度の本予算額とほぼ同じだ。
12年12月の政権発足から実行してきたアベノミクス第1弾については、「恩恵を被ったのは株価が上がった大企業だけ」「オリンピックに沸く東京などはいいが、地方には政策の効果は届いていない」など批判の声も聞かれた。「中小企業は『アベノミクス不況』のさなか」と酷評する経営者団体もあったほどだ。
そこで安倍内閣は、中小企業や地方に効果をもたらすべく、アベノミクス第2弾を打ち出した。補正と本予算は、一体として編成されており、補正に盛り込まれた事業に本予算でもお金がついている例が目立つ。
円安による原材料・エネルギーのコスト高に対する支援や地域経済再生(ローカル・アベノミクス)が柱だが、中小企業や小規模事業者の新しい取り組みを支援するための補助金なども盛り込まれている。安倍政権は、15年度税制改正法案も加えた政策パッケージで、アベノミクスの効果の拡大を図る方針だ。
業態転換による第二創業も補助対象
アベノミクス第2弾に対し、経営者からは評価する声が上がっている。「中小企業の新たな挑戦を後押しする上で、有益な施策が盛り込まれたと思う。現場の実感に近い政策が打ち出されるようになってきている」と、東京商工会議所副会頭で三和電気工業社長の石井卓爾氏は指摘する。
中小企業家同友会全国協議会で政策委員長を務める石渡裕氏(総合環境分析社長)も「補正のうち約5700億円は中小企業向けだとはっきり分かる。金額的にも一定の評価はできる」と話す。石井氏が言うように、例えば中小企業や小規模事業者が、新しい商品・サービスの開発、業務プロセスの改善といった事業革新に取り組む際の費用の3分の2を補助する「ものづくり・商業・サービス革新補助金」は、補正で1020億円と多額の予算がついた。
また補正では、「創業・第二創業補助金」が新設。50億円が計上されたほか、本予算にも8億円が盛り込まれている。事業承継に伴い、既存事業を廃業して業態転換する第二創業の場合も対象になるのが特徴で、補助率はいずれも要した費用の3分の2。創業の場合は上限が200万円なのに対し、第二創業の場合は1000万円まで補助が受けられる。
原材料やエネルギーコスト高に対しては、「資金繰り・事業再生支援事業」として、補正で1380億円が投じられた。中身は、日本政策金融金庫などの政府系金融機関から運転資金を借りる場合の金利の引き下げ、信用保証協会や中小企業再生支援協議会による支援体制の強化などだ。
並行して、省エネ化や再生可能エネルギーへの転換に多額の予算がついている点も注目だ。中小企業などが省エネルギー設備を導入した場合の補助金として、補正で930億円が盛り込まれた。最新モデルの省エネ機器・設備導入費用の半額の補助が受けられる。工場やオフィス、店舗などの省エネに役立つ設備の更新や改修も対象になる。
中小の使い勝手を改善、申請書類は3枚以内に…
人手不足対策としては、人材の確保・育成支援のための事業に、補正で60億円が計上され、本予算にも10億円が盛り込まれている。地域の中小企業のために人材の発掘、紹介、定着まで一貫して支援するほか、地域の複数の中小企業による出向や共同研修を通じた人材育成も行われる。カイゼン活動指導者の育成・派遣などで、生産性向上に役立つ人材の育成も支援する。
対策の中身や金額以上に、補助金などの使い勝手をよくしようという行政側の意図が見てとれる点に、経営者らは好感を持っている。中小企業庁は、「申請書類の作成負担を軽減するため、原則3枚以内にする」方針。先に挙げた省エネルギー設備導入の補助金では、導入前後のエネルギー使用量の提出を不要にし、「ものづくり・商業・サービス革新補助金」でも、共同で取り組む場合には、創業間もない企業や小規模事業者の申請書類を簡素化した。
「補助金を使っている中小企業は全体のわずか。その主な理由は、申請書類を書くのが難しいこと。量が多ければ手間もかかる」(中小企業家同友会の石渡氏)という現実があるだけに、「今回の配慮はありがたい」(同)と言う。
税制で本社の地方移転を支援
もう一つの柱である地域経済再生(ローカル・アベノミクス)では、まず経済産業省関係で「中心市街地、商店街、ヘルスケアビジネスの先進モデルづくり」や「ふるさと名物の試作・販路開拓支援」などに、補正と本予算の合計でいずれも50億円を超える金額が盛り込まれている。
商店街が取り組むアンテナショップの設置やオリジナル商品の開発など、「地域商業自立促進」の取り組みに費用の3分の2を補助する制度も、14年度本予算に続いて15年度本予算にも盛り込まれた。補正に2500億円が計上された、地方自治体が実施するプレミアム付き商品券の発行など、地域消費喚起・生活者支援事業と組み合わせると相乗効果が期待できる。
そして15年度税制改正法案には、地方創生の目玉として「地方拠点強化税制」の新設が盛り込まれている。東京圏および近畿圏・中部圏(いずれも中心部)を除く一定の自治体で、国が認定した計画に基づいて、既にある企業の本社機能の強化や東京23区などからの本社機能の移転受け入れを促進しているところが対象。オフィスの取得費用の一部の特別控除か税額控除が受けられる仕組みだ。雇用の増加や新規雇用を伴う場合は、その人数に応じた税額控除も受けられる。
この税制優遇の効果は未知数だが、「東京は固定資産税やオフィス賃料が高いし、今は地方に工場を持つ会社が珍しくない。税制優遇を契機に、地方への本社移転に踏み切る企業も出てくるだろう。地方移転でコストが削減できれば新規事業に資金を回せる」(東商の石井副会頭)との見方も出ている。
増税免れた中小企業
税制改正法案には、政府の既定方針通り、法人税率の引き下げが盛り込まれた。現在25.5%の法人税率は、今年4月以降に始まる事業年度から23.9%に引き下げられる。14年度末で期限が切れる中小企業向けの軽減税率も、2年間延長に。資本金1億円以下の法人に限り、年800万円までの所得には特例として15%の低い税率が課されているが、これが原則の19%に戻されずに済む。
もっとも大企業の中には、増税に見舞われる会社もある。資本金や給料・利子などの付加価値の額に応じて課税され、赤字でも税金が発生する外形標準課税の対象が拡大されるからだ。しかし、その条件である「資本金1億円超」という部分は、今回の見直しでは手がつけられなかった。
そのほか、青色申告の場合に生じた欠損金を次年度以降に繰り越して所得と相殺できる制度や、特定の業種などに限って優遇を与える租税特別措置の廃止・縮小などが、今回の法案の主な増税項目だ。例えば欠損金の繰り越し控除では、現在所得の80%までみとめられている限度額が、段階的に縮小される。
だが、資本金1億円以下の法人については現状のままの限度額で据え置かれることになっている。結局ほとんどの増税項目は、中小企業には影響しないといっていい。
将来の増税には含み
ただし、将来に向けて気がかりな点もある。改正法案のもとになった自由民主党と公明党の「平成27年度税制改正大綱」は、16年度以降の法人税率引き下げをうたいつつ、そのための財源確保策に言及している。
中小企業への配慮はにじませながらも、外形標準課税の対象のさらなる拡大や、現在選択適用が認められている減価償却方法の統一など、増税になる項目が検討課題に上がっているのだ。さらに、中小法人への課税全般の検討を掲げ、中でも資本金1億円以下の法人をすべて中小法人として扱って優遇する点を疑問視している。
税理士法人山田&パートナーズの三宅茂久統括代表社員は、「今回の改正法案には中小企業に増税をもたらす項目は見当たらないが、大綱に盛り込まれた中小法人の〝線引き〞の見直しは興味深い。増税につながる可能性もあり、16年度以降の改正に注目したい」話す。
アベノミクス第2弾の施策が、狙い通り中小企業や地方に恩恵を及ぼすか、今年後半になれば見えてくるだろう。
日経トップリーダー