新卒採用が買い手市場から、売り手市場に変化している。そんな中で、中小企業にとって使い勝手のいい、様々な求人支援サービスが登場している。こうしたサービスを活用し、学生・既卒者に従来とは異なるアプローチをする中小企業の動きを紹介する。後編はオフラインタイプやSNSタイプを運営する企業と活用例だ。
ウェブやSNSを使わないオフライン型の求人サービスでも、新タイプが出てきた。東京・港にある慶應義塾大学正門前のカフェ。学生ならコーヒーやジュースが無料なので、講義の合間や終了後に学生が集まってくる。壁際に、20社ほどの会社説明資料が置いてあるのが目を引く。
就職シーズンともなれば、カフェを借り切って会社説明会を開く企業もある。人事担当者による説明もあるが、カフェらしく若手社員を囲んだざっくばらんな質疑応答が中心だという。
「4カ所の『知るカフェ』を利用し、60人を採用した会社もある。砕けた雰囲気の中で膝を突き合わせて話すから、ミスマッチも少ない」と、エンリッションの柿本優祐社長は話している。
企業側が広告を出す従来型の求人サイトも、時代に合わせて変化している。ビジネス向けSNS(交流サイト)運営のウォンテッドリー(東京・港)は、12年2月に始めたサイト「ウォンテッドリー」で企業情報を提供する。現在は約2万社が募集要項を掲載する。
他の求人サイトとの違いは、SNS機能の活用。募集要項の詳細ページで「応援する」ボタンをクリックすると、クリックした人の友人などにフェイスブックやツイッターを介して「〇〇さんが××会社を応援しています」といった情報が投稿される。友人や知人に就職活動中の人がいれば、「知り合いが応援している企業だから」と、募集要項を見てくれる可能性が高まり、結果的に多くの学生や既卒者にアプローチができる。
求人企業は、5回募集要項を掲載し、先着10人に連絡するまでは無料。その後は有料で、スタンダードプランなら月10万円で6カ月間、上限なしに使える。募集要項は、ウォンテッドリーの定めたガイドラインに沿ってウェブ上で作成する。サイトに給料など採用条件の掲載はできないので、応募者との面接で伝える。
「やりがいやビジョンを前面に出せば、中小企業にも採用の機会は広がる。クチコミによる拡散なので、お金を掛けずに多くの学生にアプローチできる」(藤本遼平執行役員)
ウォンテッドリーの利用者は40万人を超え、うち学生が9万人。藤本執行役員は、「既卒者の求人がメーンのサービスだったが、最近は学生の登録が増えている」と話す。
SNS経由で2人採用
従来はなかったこうしたサービスを利用して採用に成功する中小企業も出てきた。
長野県松本市の藤原印刷は、ウォンテッドリーを活用して2人を中途採用した。同社では、新卒の採用スケジュールが後ろにずれて本来業務が忙しい3月と重なり、採用活動に支障を生じた。そこで、14年からウォンテッドリーを使った通年採用に方針転換した。
採用担当の藤原隆充生産管理部部長は、「1年半ほどで8人に連絡し、30代前半の女性と20代後半の男性を採用した。数は集まらないが、地方在住でウォンテッドリーを見る人は情報感度が高く、なかなかアプローチできない層。当社も、狙っていた年齢の元システムエンジニアなどを採用できた」と話す。
一方、東京・港のアイレットは、SNSを活用した会社説明会「虎はち会」を昨年11月から始めた。フェイスブック経由で同社の技術や製品に関心のある転職希望者を集め、軽食やドリンクを用意したカジュアルな会社説明会を月2回ずつ開催する。
03年設立で、クラウド業界では老舗というアイレットだが、転職希望者への知名度は高くはなく、採用面談のキャンセルや入社直前の内定辞退に悩まされた。転職エージェント経由の採用も高くついた。
そこで、同社の製品を知る人に絞ってムダのない採用活動を行うために、虎はち会を始めた。多いときには20人ほどが参加。製品概要と職場案内が説明会の柱で、後日、希望者対象の個別相談も行う。
アイレットでは、虎はち会を通じて既に6人を採用。後藤和貴執行役員は、「採用活動の費用対効果も向上し、成果は出ている」と話す。
紹介してきたように、企業から求職者へのアプローチ法は多様化している。「大企業に人材をとられ、思うような採用ができない」と悩むなら、新しい動きを取り入れて積極的に活用すべきだ。従来通り求職者を待つだけでは、人材獲得競争は勝ち抜けない。
※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年7月)のものです
日経トップリーダー/井上俊明