企業に生産性の向上を促す中小企業等経営強化法が2016年7月1日に施行された。経営力向上計画をつくって国の認定を受ければ、さまざまな支援を受けることが可能に。既に500社近くが認定を受け、支援策も今後さらに充実していきそうだ。
上に中小企業等経営強化法(以下、「経営強化法」)のスキームを示した。国が基本方針をつくり、事業分野ごとに生産性向上の方法などを示した指針を策定。中小企業などは、それに沿って「経営力向上計画」を作成し、管轄する大臣の認定を受ける。8月24日時点で、合計482件を認定済みだ。
現在、製造業、卸・小売業、介護など11分野で指針(※)がつくられ、具体的な生産性アップの施策やその指標が公表されている。製造業であれば、「多能工化・複数台持ちの推進」「実際原価の把握とこれを踏まえた値付けの実行」など。そして労働生産性・売上高経常利益率・付加価値額のどれかを、3年計画なら1%以上引き上げることが求められる。
認定のメリットとしては、生産性を高めるための機械装置を取得した場合に、その固定資産税が3年間半分に軽減されるほか、金融支援も受けられる。商工中金など政府系金融機関からの低利融資や、信用保証協会の保証枠拡大などに加え、各種補助金をもらう際に有利になるメリットもある。
この法律の対象になる「中小企業等」は、資本金10億円以下または従業員数2000人以下の会社や個人。医療法人やNPO法人なども含まれるが、企業規模に応じて受けられる支援には差がある。
「申請用紙はA4判2枚。社長が自分で書けるように手続きの簡素化を図った」と、中小企業庁事業環境部の川村尚永企画課長は話す。記入のポイントは4カ所。自社の事業内容や強み・弱みなど現状認識の記入欄、労働生産性などの指標の現状と目標値を記入する欄、今後実施する具体的な取り組みを書く欄、固定資産税軽減の対象となる設備などを記入する欄だ。
「申請書はわずか2枚で書きやすかった。申請のハードルは高くはない」と、認定を受けた中込工業所(東京・江戸川)の中込良之取締役は話す。同社は鉄骨工事や耐震補強を行う建設会社。施工前の現場実測調査の結果を3次元スキャナーでデータ化し、全自動溶接ロボットに入力することで、稼働率上昇や人件費削減を通じた生産性向上をめざす。
「『革新的ものづくり補助金』の採択の際、加点されると聞いて認定を受けた。1点、2点を争う中で、多少でも有利になると考えている」(中込取締役)
補助金採択にプラス
中小企業庁では支援の目玉は固定資産税の減免だとしているが、実際には中込工業所のように補助金を受けやすくなるメリットに引かれ、認定を受ける会社が少なくない。
東京・港でペット向けの健康ビジネスを展開するペットボードヘルスケアもその1つ。同社は、2015年3月創業のベンチャー企業。スマートフォンを通じてペットの食事管理ができる装置やアプリの開発費用の一部とするため、ものづくり・商業・サービスの補助金を受けようとしていた。
「事業計画を簡単にまとめるのは、創業時の資金調達のためにやっていたから、申請にあまり労力はかからなかった。一方、製造は委託する予定だから、固定資産税の減免には魅力を感じなかった」と、堀宏治社長は話す。
中小企業庁は、認定を受ければ補助金採択時にどのくらいの加点になるかを明らかにしてはいない。しかし、「補助金は応募が多く競争が激しい中で、未認定の会社は厳しい。採択にそれなりの影響はある」(川村課長)と話している。
メリットの拡大図る
堀社長も指摘しているように、サービス業など高額な設備を必要としない企業にとって、固定資産税の減免が中心の経営強化法のメリットはあまり大きくない。中小企業庁もそれを踏まえ、「非製造業への支援をいかに手厚くしていくか」(川村課長)が課題だとしている。
そのため、2016年度の第2次補正予算で経済産業省は、ITシステム導入費用の補助金の受給条件を、経営強化法の認定の方針に沿ったものとした。17年度の税制改正でも、器具備品や建物付属設備も減免対象となる固定資産に追加するよう求めるなど、非製造業への経営強化法のメリット拡大を要望している。
経営強化法は、国の今後の中小企業に対する政策支援の方向性を示しているといえるだろう。申請にそれほどの時間や労力は要しないので、本業に磨きをかけたい企業は認定を積極的に考えたい。
日経トップリーダー/文/井上俊明