今や、日本人の2人に1人はLINEでチャットする時代。人手不足の中、接客を充実させる道具として、チャットボット(※)が使われ始めた。技術を蓄積したベンチャーが中小企業向け市場に照準を定め、普及が進みそうだ。
(※)チャットボット:「チャット」と「ボット」を掛け合わせた言葉で、ボットとは「ロボット」の略称。人間の問い掛け(テキストメッセージや音声)に対して、あたかも人間のように反応するようにプログラミングされたアプリケーション。代表的なものに「Siri(シリ)」などがある
若年層ではネット検索して情報を探すよりも、知りたいことを詳しい人にピンポイントで尋ねられるチャットのほうが便利と考える人も増えている。企業でも、チャットによる接客がサービス向上、売り上げ拡大に役立ちそうだ。
こうした流れを受け、既に大手企業ではLINEの公式アカウントに「チャットボット」を組み込む例が広がっている。チャットボットとは、お客と自動で会話するロボットという意味だ。
例えばヤマト運輸のLINE公式アカウントでは、チャットボットを介して宅急便の到着日時を調べたり、再配達を依頼したりできる。人手を増やすことなく、顧客1人ひとりの問い合わせに対応できるようになった。
中小企業では、どんなことに使えそうか――。
まず、お客から電話で直接問い合わせを受ける小売店、クリーニング店や不動産店などのサービス業では、従業員が電話を受けていた問い合わせのうち、簡単なものはチャットボットに任せられる。電話対応に割いた時間を店頭での接客充実などに回せる。
LINEなどに店の公式アカウントをつくり、そこにチャットボットを導入して窓口にすればいい。家電店なら「型番1の炊飯器は在庫ありますか」と質問が来たら、在庫管理のデータベースと連動させて「あいにく品切れです」などと即答できる。担当者がパソコンをたたいて倉庫の状況を確認し、電話で返事をするより楽で、対応も早い。店の印象は良くなるだろう。
クリーニング店なら、これから来店するお客に伝票番号を伝えてもらい、あらかじめ仕上がった衣類を袋詰めしておくことで、混雑時でも待ち時間を減らせるといったサービスにも使えそうだ。
製造業でも「型番12の寸法を教えて」といった問い合わせは自動応答で済む。新しい仕様の発注が来たときなど、難しい問い合わせのときは担当者を呼び出してくれる。担当者は電話に追われることなく仕事に集中できる。
下図は、日米に拠点を置き、お客とのチャットの効果改善をめざすベンチャー、アップソーシャリーのチャット支援アプリ。採用面談のアポイントを取るという場面だ。
会話を学習するので導入が楽
アップソーシャリーのアプリを使い、採用面談のアポイントを取る例
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人が返信候補を選ぶうち、AIが適切な答えを学習する[/caption]
このアプリは、担当者とお客という人対人のチャットを支援しながら、お客の質問に対して担当者がどの答えを選んだかを人工知能(AI)で学習。アポイントの適切な流れを自動化できる。アルバイトの募集なら、電話よりもチャットが便利という学生は多く、効果を発揮しそうだ。
手軽な仕組みが充実
さまざまな使い道がありそうなチャットボットだが、これまでは大企業での活用が中心で敷居が高かった。ここに来て、中小企業が使える安価なサービスを提供するベンチャー企業が登場し、身近なサービスになってきた。
東京・品川のハチドリは、LINEやフェイスブックの画面から誰でも独自のチャットボットを作成できるサービスを提供する。法人向けは月額20万円程度だが、個人向けはボットを5個まで設定できるプランで月額9980円などと手ごろ。小さな店はこれで十分使えそうだ。
ハチドリは法人向けサービスで蓄積した事例を基に、美容室向け、病院の予約・問診など業種別のテンプレートを今後用意する予定で、会話の流れ(シナリオ)を設定する手間も軽減されるだろう。
――最近増え始めた音声対応のチャットボットも、小売店や飲食店などには役立つ。
東京・板橋のネクストリーマーは、2016年9月から高知銀行の店頭で音声を使ったチャットボットの実証実験を始めている。お客が「ATMはどこですか」と画面に話しかけると「正面玄関左のコーナーです」と答えてくれる。
省力化のため、タブレット端末で注文する回転ずし店などはあるが、やはり味気ない。「マグロ1貫」と声で注文できたほうがお客には心地よいだろう。
ネクストリーマーの向井永浩社長は「チャット機能は、間もなくWebページ制作の発注と同じ感覚で手軽に使えるようになる」と話す。今からチャットボットの使い道を考え始めてはどうか。
日経トップリーダー/文/宮坂賢一