その流れを変えたのが、人口減少です。団塊世代が生まれた頃に約270万人だった出生数は年々減少して今や約100万人。当然、人手不足になる。直近の宮城県の有効求人倍率は約1・4倍です。県外からも企業が採用に来ており、引く手あまたです。
大山:東京で年収600万円の人と、地方で年収500万円の人を比べれば、収入が低くても、物価が安くて土地も広い地方のほうが豊かに暮らせますから、地元で就職したいと思う人が増えるのは自然でしょう。
既に、企業が地方から東京に人を呼ぶのではなく、企業が地方に行き、そこで採用する動きが始まっています。経営は、企業優先から働く人優先に変わる。働く人が快適に暮らしやすい場所に、企業が行かなければならない。まさしく地方の時代です。
カナダの南に位置するシアトルは、マーケットとしては最悪の場所だと思います。なぜ、そんな田舎町に本拠を置いているのかというと、生活が快適でいい人材が集まるからです。市場の大きさじゃないんです。
──この流れは、地方の中堅・中小企業にとっても有利ですね。
大山:ただ、人口が少ない地方はそれだけ需要も少ない。そこで地方企業に必要になるのが、自ら需要を創造することです。世の中にあるものを後追いするキャッチアップ型の経営では、東京の会社に勝てっこない。キャッチアップ型の製品を売りたいなら、東京に出たほうがいい。地方なら10万人しか住んでいない町もたくさんありますが、東京は1300万人もいるんです。市場の大きさは全然違います。
アイリスオーヤマが仙台から発展したのも、キャッチアップ型でなく、需要創造型だったからです。今は全国各地に工場や関連会社がありますが、(仙台工場を竣工した)約40年前は小さな会社でした。我々は園芸用品を作っていたので、それまでの「育てる園芸」の先を行き、「飾る園芸」を提案し、新しいガーデニング用品で需要をつくり上げたのです。
──需要を創造するのは難しくないですか。
大山:そんなことはありませんよ。地方にいれば、需要を創造しやすいんです。地方の人々はアフターファイブを楽しむ時間が十分にあるので、生活者の視点に立って物事を考えるという点では、満員電車に揺られて夜遅くに帰る東京の人より有利です。
また、東京は市場が大きいから、アイデアが良ければすぐにそれなりの事業規模になる。地方は市場が小さいから、どうすれば売れるかと考えざるを得ない。東京は市場にポンと商品を投げればいいが、地方では特定の人を思い浮かべて「こういう人のために、こんな商品を作ろう」と考える。つまりユーザーインの発想です。
──ユーザーインですか。
大山:昔の企業は、プロダクトアウト型でした。大きな工場を造りたくさんの機械を使って、大量にものを作り、市場に流す。その売り手市場が、ある時期からマーケットインの買い手市場に変わった。でも、マーケットインというのはくせもので、市場が大きいところでは、がぜん有利です。
だから地方企業は大衆市場を狙わず、その先にいる個々のユーザーをターゲットにするのです。顧客には2種類あります。例えばメーカーなら、卸や小売店もお客様ですが、実際に商品を使うのはその先にいる一般のお客様。当社は、そうした本当のお客様の利便性を考えてきました。これがユーザーインの発想です。
ユニクロも地方発
──そのユーザーインの発想を地方企業は持ちやすい、と。
大山:そうです。市場が小さいので、個々の消費者のことを考えた商品を出さなければ、事業が成り立たない。だからこそ、新しい需要を創造できる。
考えてみてください。「ユニクロ」のファーストリテイリングは山口県宇部市から、ニトリは札幌市から始まった。みんな、最初は地方で事業を始め、その成功モデルを全国に広げたのです。IT企業を除けば、ベンチャー企業の大半は地方から生まれています。
それに地方は事業コストが安い。東京は家賃も人件費も高いので、最初から相応の収益が求められますが、地方は家賃も人件費も安いので、失敗できる。チャレンジできるのは大きいですよ。
──アイリスオーヤマの売上高はグループ合計で3000億円を超えました。規模が大きくなっても成長を持続できているのは、ユーザーインを貫いているからですか。
大山:その通りです。我々は1つのジャンルの商品で何千億円と売っているのではなく、ペット用品や園芸、LED照明など、一つひとつの事業を積み重ねて大きくなってきました。
最近始めたコメの販売事業も、ユーザーインの発想です。
これまで国は農家のほうばかり見て、消費者は見ていませんでした。だから平気で、キロ単位で売っている。主婦がスーパーに来て、5キロ、10キロの重い袋を買っていくのは、高齢化も進んでいるのにばかげています。
そして、1袋のコメを食べ終えるのに、1カ月も2カ月もかかる。日数がたつと劣化して、ご飯がまずくなる。少しでもおいしく食べたいと、10万円もするような高機能の電気釡を買うけれど、そもそもコメが劣化していると、やはり限界があります。
だから、アイリスオーヤマが流通を変えるんです。
摂氏15度以下の低温倉庫で保管し、精米工場全体も15度以下に保つ。普通は常温で精米しますから、おいしさが逃げやすいが、この方式だと大丈夫。こうして精米したコメを、小さな3合パックに入れて、販売しています。こうすれば時間がたってもおいしい。我々の取り組みで、「新米がいい」という従来の価値観を変えたいんです。
コメの流通を変える
──需要創造型ですね。
大山:1人当たりのコメの消費量が減っている大きな理由は、これまでのコメがまずいからですよ。食品の場合、生活者視点は「簡単、便利、おいしい」に尽きる。
今、コメの販促をどんどんかけています。スーパーやコンビニエンスストアでも当社のコメは並んでいますが、まだまだ、お客様は慣れ親しんだ大きなコメ袋を買っていく。そこで、ホームセンターに「米蔵(こめぐら)」という当社専用の売り場をつくってもらい、商品の魅力をしっかり伝えています。
これがすごく売れている。10年後には間違いなく、コメの流通は変わっていると思います。
──製造業だけでなく、地方のサービス業も、ユーザーインの発想をすれば需要をつくれますか。
大山:もちろん大丈夫です。こだわりのレストランや旅館をつくり、東京からも集客しているという例はよく耳にするでしょう。それは目の前のお客様をとことん満足させようと考え、新しいタイプのレストランや旅館を創造したからです。それができれば、全国のお客様を相手にできます。
それに最近はインターネットでものを買い、ネットを使って遠くのレストランや旅館を探す時代です。ネットでは企業とユーザーが直接つながり、商品やサービスのレビュー(評価)も書いてくれる。ネット社会の到来は、地方の企業にとって歓迎すべきことですし、あらゆる企業にユーザーインの考え方へ転換することを迫る要因にもなっています。
ただ、そこで重要になるのがブランディングです。「関サバ」といっただけで価格が全然違うでしょ。当社がコメに着目したのも、地元東北のコメは雪解け水が田んぼに流れ、しかも寒暖の差があり、おいしいからです。商品やサービス、あるいは会社そのものに、独自の特徴があれば、地方からでも大きな市場をつかめます。
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※掲載している情報は、記事執筆時点(2016年1月)のものです