燦ホールディングスは、関西を発祥とする公益社を中心にした葬祭業界のリーディングカンパニーだ。社会が変化する中、常に革新的なサービスを生み出し葬祭業界をけん引してきた。同社の強さの源泉と今後の戦略について、代表取締役社長の野呂裕一氏に話を伺った。
葬祭業の市場規模は高齢化により拡大していると思われがちです。しかし、葬儀の単価が下がっていることなどにより、実は近年、ほぼ横ばいの状況にあります。そうした中で、当社は業績を伸ばしています。例えば、2017年度、過去最高の業績を上げることができました。
燦ホールディングスは、大阪と東京に本社を置く公益社、鳥取県と島根県で事業を展開する葬仙、兵庫県明石市を中心にしたタルイという3つの会社で葬祭業を行っています。それに、警備事業や料理事業といった葬祭関連サービスを提供するエクセル・サポート・サービスを加えた4社がグループの構成企業です。2016年には5カ所、2017年には4カ所、2018年は1カ所の葬祭会館を新たに開設し、運営する葬祭会館はグループ全体で65カ所になりました(2019年1月末現在)。
私どもが行っている葬祭事業は、社会インフラとしての意味合いが強い事業です。お引き受けする葬儀の件数などよりもお客さまの満足度にこだわりたいと思っています。いつも社員に言っているのは、クオンティティーよりクオリティー。量より質を大切にする。これが大前提です。それを追求した上で業績が伸びているのは、時代によって変化するお客さまのニーズに合ったサービスを提供できていることが要因かもしれません。
公益社の設立は1932年です。三越百貨店大阪支店の販売部長だった久保田昌利氏がスピンアウトし、知人の村上隆祐氏とともに出資を募って作ったのが公益社です。株式会社としてスタートした葬祭会社というのはちょっと珍しい存在だと思います。
当時の公益社は、今でいえば葬祭業界に新風を吹き込む“ベンチャー企業”でした。新風とは何か、それが「価格の明朗化」でした。それまでの葬儀は価格が不透明で、詳細な見積もりもなく、「葬儀一式 ◯円」というやり方で通っていました。それを公益社は、内容を明確にして「このセットの葬儀なら◯円」と不透明だった価格を明確にしました。これがお客さまの安心感につながり、葬儀の件数を増やしていったのが初期の公益社です。
故人様をしっかり見送りたいというご遺族のお気持ちは、いつの時代も変わることはありません。しかし、社会状況の変化につれて、求められる葬儀のあり方も変わって来るのです。
その後、大きなターニングポイントになったのは、1970年代に入った頃です。それまで葬儀は、自宅で行われるのが一般的でした。しかし都市化が進み、住まいが変化する中で、自宅で行うのは難しい状況が生まれてきました。
そこでこれからは葬祭専門の施設が必要になると考え、1971年、大阪の吹田市に建てたのが千里会館です。それまで、葬祭専門の会館というのはなかったため、周囲からは「無謀だ」という声もあったと聞きます。しかし、自宅では葬儀がやりにくいという方々が多くなっており、こうした会館が社会的に必要とされる状況になっていたのです。
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公益社の葬祭専門施設の第一号である千里会館(2007年にリニューアルオープン)[/caption]
――今では、葬祭会館での葬儀が一般的になっています。社会の変化を見て、それに道を付けたわけですね。
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最近は、故人を親しい人だけで送る家族葬が増えている(イメージ)[/caption]
お客さまが必要としているものは何か、と考え続けていた結果だと思います。その後も、社会状況の変化で、求められる葬儀のあり方も変わりました。
従来は、社員の家族が亡くなると職場の上司や同僚、人事・総務のスタッフが総出で参列するような、大人数の葬儀が少なくありませんでした。例えば、直接の面識はなくても、取引先の会社の方が亡くなると葬儀に行くこともよくありましたよね。
しかし、2000年くらいから身内や親しい友人など懇意の人だけで故人様を見送りたいという声が高まってきました。いわゆる家族葬です。
これは、会社と社員の関係が変わってきたのも1つの要因です。それに加え、高齢化が進み、仕事の一線から退いた後、それなりの時間がたってから、亡くなる方が増えているのも影響しているでしょう。
こうしたニーズにいち早く対応し、家族葬のプランを作るほか、何百人も入れる会館ではなく、家族や仲のいい知人だけでお見送りができる小規模な式場の会館にスタイルを変えていきました。
――今は、家族葬でのお別れも増えてきました。しかし、家族葬で葬儀の規模が小さくなると、必然的に葬儀の単価は低くなります。この点についてはどのように対処されているのでしょうか?
確かに、家族葬の普及もあり葬儀の単価は下がっています。しかし、商品やサービスの価値が同じでは値上げなんてとてもできません。ですから価格を上げるのではなく、商品やサービスの価値を上げることに注力しました。
さらに、葬儀をお手伝いするだけの会社ではなく、ライフエンディングのトータルサポート企業へとシフトすることにしました。葬儀を行っていると、仏壇仏具やお墓のことに始まり、相続や不動産の名義変更に至るまで、葬儀が終わった後のことでもお客さまから相談を受けることがあります。
また、亡くなってからではなく、あらかじめ葬儀のことを知っておきたいという「事前相談」のご要望もありました。こうした葬儀の前後のことも含め、葬儀に関するお困りごとをすべて解決する総合ライフエンディングサービスへとビジネスを広げていったのです。
葬儀前の事前相談も好評ですし、葬儀後のサポートについても「こんなに長い付き合いでコミュニケーションが取れるとは思っていませんでした」という声をいただいています。このようにサービスのラインアップを増やした結果が、好業績につながっていると思います。
――葬祭業は、365日24時間対応が必要なビジネスでもあります。働き方改革および少子化に伴う人材不足で業務の効率化を進めなければいけない面もあるかと思います。この点についてはどのようにお考えですか?
当社は上場会社ですし、業界のリーディングカンパニーとして、働き方改革に真摯に取り組んでいます。社員には休日をしっかり取ってもらい、そのときには、携帯電話の連絡に対応する必要もありません。
こうしたことを実行するためには、業務の効率化が欠かせません。すでにコンサルティングの会社に入ってもらってITを活用した現場の業務改善や、バックヤード業務の効率化を図っています。
ただ、効率化してもサービスの満足度を落としては意味がありません。例えば、ご遺族に会場などの説明をするとき、タブレットPCを見せて話をする際にも、お客様に寄り添って、しっかりとお話をお聞きしながら応対することが最優先です。効率化すべきこととそうでないことの切り分けをしっかり考えていきたいと思っています。
――これまで社会の変化にいち早く対応してきた燦ホールディングスの、今後の事業展開について考えていることをお教えください。
1つは、首都圏の強化ですね。1994年に大阪から東京に進出し、現在11の会館を首都圏で運営するようになりました(2019年1月末現在)。しかし、私たちのサービスは首都圏でもっと受け入れられる余地があると考えています。最寄り駅から徒歩5分以内にあるなど、利便性にこだわってクオリティーを保ちつつ、もっと首都圏で会館の数を増やしていきたいと思っています。
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強化を図る首都圏で次々に会館を建設(東京都世田谷区に2016年にオープンした喜多見会館)[/caption]
後は、ライフエンディングのトータルサポート企業としてさらにサービスを進化させていくつもりです。社会がどうあっても、また業界がどういう状況にあっても、伸ばせるところは必ずあると私は信じています。自分たちのバリュー、価値をどうやって強めるかを考え、勇気を持って実行していく。そうやって、これからも歩んでいきたいと思っています。
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野呂氏は「ライフエンディングのトータルサポート企業としてサービスを強化する」と力強く語った[/caption]