働き方改革がひときわ注目されている。中でも、企業における長時間労働対策はどう認識され、どう取り組まれているか。日経BPコンサルティングのアンケートシステムAIDAにて、同社保有の調査モニター1794人を対象に、長時間労働に対する意識調査を実施した。
自分自身の労働時間に対して「長時間労働だと思う」と答えたのは38%。6割程度が自身に対し長時間労働の意識はないという結果が出た(図1)。一方、自分自身ではなく、自身の「会社」という観点での回答は、この結果とちょうど反転する形となる。自身の会社において「長時間労働縮小が課題」だと61%が感じている(図2)。意識のどこかに、長時間労働が自分事化されていない可能性が見て取れる。
長時間労働と密接な関係がある生産性を見ると、約半数が「普通」だと答えるが、自身の生産性が「低い」という意識を持つ回答が、「高い」という回答を10ポイント以上上回った(図3)。労働時間との相関性では、自身が長時間労働ではなく、かつ生産性が「高い」「普通」と感じている、現状に対しての満足層は48.1%と約半数に上った(図4)。
企業が抱える長時間労働問題に対し、どのような方向性に向かうかという意見については、「解決に向かう」「解決しない」がほぼ半数に分かれた(図5)。
【図5 会社の長時間労働は解決するか】
項目別に見ると、解決すると回答した中で顕著だったのが、「経営者の意識変化主導で解決に向かうと思う」だ。「政府」「従業員」の主導による解決を回答数で大きく引き離した。また同時に、「経営者の意識」は、解決しない理由のトップにもなっている。この結果から見えるのは、長時間労働の解決のカギは経営者が握ると企業は認識しているといえそうだ(図6)。
【図6 会社の長時間労働は解決するか(項目別)】
長時間労働の解決に対する期待感は、男女間で差が生じている。女性は経営者の意識に男性に比べ懐疑的で、「経営者の意識変化主導で解決に向かうと思う」では5.7ポイント男性を下回る。さらに女性の回答の中でトップが「経営者の意識が変わらず、解決しないと思う」で、男性との比較でも3.1ポイント上回る。一方、男性は「政府の規制が形骸化し、解決しないと思う」で女性を5.3ポイント上回っており、政府に対する期待感の薄さは男性のほうが顕著だ。最も男女差が表れたのが「分からない」との回答で、6.5ポイント。女性のほうが長時間労働に対しては、先行きの不透明感を持っているともいえる(図7)。
【図7 会社の長時間労働は解決するか(男女別)】
長時間労働対策はやはり大企業が先取り
長時間労働対策を、実際に自社が取り組んでいるかという問いに対しては、事業規模で大きな違いが見られた。「長時間労働の縮小が課題であり、対策に取り組んでいる」という課題解決に向けての動きは、1万人以上の企業で6割弱なのに対し、99人以下の企業では28.9%と、大企業のほぼ半分の割合にとどまった(図8)。
【図8 会社は長時間労働対策に取り組んでいるか(従業員数別)】
「業績」=「労働時間」×「生産性」×「従業員数」だと仮定すると、労働時間を減らすには、理論上、業績の縮小か、生産性または従業員数を拡大しなくてはならない。主にこの3つのうち現実的な取り組みとして挙げられたのが「生産性の向上」だった。50.9%と半数以上のスコアを獲得した。
役職別で見てみると、役職が上位なほど従業員数の増員に対してはシビアだ(図9)。一般社員・職員、その他の層では約3割が従業員数の増員を解決策として挙げた。労働負荷軽減への、現場ならではの声といったところか。
【図9 労働時間を減らす現実的な取り組み】
それでは生産性向上として、どのような取り組みが考えられるか。結果を見ると、具体的な施策以前に「意識改革」という、ある意味アナログな問題意識が1位となった(図10)。一方で「ITの積極的な活用」という即効性がありそうな回答は、意識改革の3分の1程度にとどまった。2位が「業務量の適切な分配」だったのを見ても分かるように、現状のリソースの活用こそが生産性向上を生むと、多くの企業が考えているようだ。
【図10 会社で生産性を上げるためにすべきこと】
現在、長時間労働は企業にとっても働き手にとっても問題として認識されている。だが解決すべき課題は、生産性が低いまま放置される点にある。ここを解決しようとしなければ、いつまでも古いビジネスモデルのまま仕事を続けることになってしまう。今は、「まずは意識改革から」というスタートしたばかりの地点なのかもしれない。だが、生産性向上の取り組みにゴールはない。この試みを継続的に行い、そのレベルを上げていける企業こそが、今後生き残っていくはずである。
<本調査について>
日経BPコンサルティングのアンケートシステムAIDAにて、同社モニター1794人を対象に2017年3月に調査