働き方改革で長時間労働を解消するためには、働く“場所”の見直しが欠かせない。場所に縛られない働き方で、生産性を上げられる可能性があるからだ。企業においてモバイルワークや在宅勤務はどう認識され、どう取り組まれているか。日経BPコンサルティングのアンケートシステムAIDAにて、同社保有の調査モニター1794人を対象に、意識調査を実施した。
4割はモバイルワークを実行中
「自社のオフィス以外で働くこと(モバイルワーク)はありますか」という問いに対して、「ほとんどない」という回答は62.5%だった。残りの約4割が“モバイルワーカー”ということになる。
約4割のモバイルワーカーのうち「時々、オフィス外で働いている」「外出のついでにカフェなどで働く程度」というライトなモバイルワーカーが、15.8%と3.5%を占める。「ほとんどオフィス外で働いている」「半分以上オフィス外で働いている」という本格的なモバイルワーカーは、12.9%と5.2%という結果になった。つまり現状は本格モバイルワーカーが約2割、ライトモバイルワーカーが約2割に達している(図1)。
【図1 モバイルワークの現状について】
モバイルワークをする際、障壁となっていることについての質問では、リスク対応への項目がトップになった。「情報漏えいなどのセキュリティー対策」(24.0%)が一番多く、次に「モバイルワークを想定した就業規則や人事・評価制度になっていない」(20.8%)。「ネットワーク、通信環境がオフィスで働くのと同等のレベルにない」(13.4%)が3番目に続いた(図2)。
モバイルワークを行う前提となる就業規則、人事・評価制度や、必要不可欠なネットワークや通信環境よりも、セキュリティーを問題視している。この結果から、情報管理の重要性をビジネスパーソンが非常に強く認識していることが分かった。
【図2 何がモバイルワークの障壁になっているのか】
在宅勤務の導入は大企業が優勢…
在宅勤務の導入状況に関する質問に対しては、22.8%が「すでに勤務先で導入済み」と回答した(図3)。
【図3 在宅勤務の導入状況(従業員数別)】
在宅勤務の導入状況は、企業規模によってかなり異なった結果となった。従業員3000人未満の企業で「導入済み」という回答は、多くて20.1%(従業員99人以下の企業)にすぎないが、従業員5000~9999人の企業で37.2%、従業員1万人を超える企業では46.9%にまで上昇する。大企業が在宅勤務導入を積極的に進めているのがうかがえる。
それでは在宅勤務制度の利用意向はどうだろうか。全体の3割が「利用したい」または「利用している」と回答した(図4)。
【図4 在宅勤務制度の利用意向】
しかし、導入済み企業と未導入企業では利用意向状況に差が出た。導入済み企業では、「利用したい」または「利用している」という回答は50.9%、「利用する気はない」という回答が49.1%と、利用意向に関してはほぼ半々に分かれた(図5)。
一方、勤務先では導入されていない層の利用意向は、「利用したい」が35.0%で、「利用しないと思う」が65.0%と、導入済み企業の回答よりも在宅勤務に消極的な結果となった(図6)。
【図5 在宅勤務導入済み企業の利用意向】
【図6 在宅勤務未導入企業の利用意向】
在宅勤務をする際、障壁となっていることについての質問では、モバイルワークと類似傾向が見られた。「情報漏えいなどのセキュリティー対策」(21.3%)が一番多く、続いて「在宅勤務を想定した就業規則や人事・評価制度になっていない」(20.4%)が2位。「ネットワーク、通信環境がオフィスで働くのと同等のレベルにない」「対面コミュケーション不足を補う施策が不十分」(12.5%)が同数で3位と、トップ5までが同順位となった(図7)。
【図7 何が在宅勤務の障壁になっているのか】
最後に、モバイルワークや在宅勤務をする際、必要となるITシステム機器について質問した。上位を占めたのは、パソコンなどの情報端末(55.9%)、IP電話・スマートフォンなどの通話機器(34.4%)という通信端末そのものが1位、2位を占めた。続いてセキュアなネットワーク(32.3%)、リモートデスクトップ(31.7%)、遠隔会議システム(28.4%)、オンラインストレージ(25.8%)が続いた。システム系では管理関連のものは下位で、より実用的なものが選ばれる結果となった(図8)。
【図8 モバイルワークや在宅勤務に必要なITシステム・機器】
モバイルワークや在宅勤務によって働く場所を自由に選び、ビジネスパーソンが生産性を上げる――。この取り組みが、これからの日本経済成長の焦点となるのは間違いない。現状のモバイルワーカー比率約4割、在宅勤務希望派の比率3割は、決して多い数字とはいえない。そんな中で、ビジネスパーソンが働く場所を変える場合に、情報セキュリティーの確保を心配していることが明らかになっている。これらの不安を取り除くのは、企業の努めだ。働く場所の多様化推進には、まずこうした課題への解決が求められているといえるだろう。
<本調査について>
日経BPコンサルティングのアンケートシステムAIDAにて、同社モニター1794人を対象に2017年3月に調査