働き方改革関連法が2019年4月から施行される。中小企業にも、追いかけで2020年からの施行となる。長時間労働へは厳しい規制が設けられる。罰則もある。コンプライアンスの徹底は、先延ばしにできない。現在、長時間労働に対する企業の意識や取り組みはどうなっているか。その実態について、日経BPコンサルティングのアンケートシステムAIDAにて、同社保有の調査モニター2389人を対象に調査を実施した。
長時間労働だという自覚は3割
現在の自分自身の働き方はどうか。この問いに対し、「長時間労働だと思う」と答えた企業は28.8%だった。一方、「長時間労働ではないと思う」との回答は71.2%だった。およそ3分の2は、長時間労働に対し問題意識を持っていなかった(図1)。
【図1 自分自身の労働時間について】
一方、勤務先が長時間労働で、その縮小が課題だと感じている層は、54.3%と半数を超えた。自分自身の問題と、勤務先全体への課題感では大きな差が見られる(図2)。
【図2 会社の長時間労働について】
ちなみに同じ質問に対する2017年3月に行った調査と比較すると、自分自身を「長時間労働だと思う」と答えたのは38.0%。この2年間で9.2ポイント、スコアを下げた。また、「長時間労働縮小が課題」との回答は、61.0%で6.7ポイント下降した。長時間労働に関して、改善の傾向が見られるといえる。
それでは、生産性についてはどうだろうか。自身の生産性について「高い」と感じているのは16.6%、「普通」が58.1%。「低い」と感じているのは25.4%という結果が出た。生産性に関しては「高い」と感じる人よりも「低い」と感じる人のほうが10ポイント近く多い(図3)。
【図3 自分自身の生産性について】
長時間労働の解決は経営者の意識次第
長時間労働の解決について、どのように考えているか。まずは、解決に向かうと考えるか、解決しないままかを聞いた結果が図4だ。
【図4 会社の長時間労働は解決するか】
「解決に向かう」と答えたのは61.1%。3分の2が前向きな回答をした。内容的には「経営者の意識変化主導で解決に向かうと思う」との回答が最も多く、22.3%。続いて「経営者の意識が変わらず、解決しないと思う」が18.7%となった。会社の長時間労働の成否は、経営者の意識に委ねられると、多くの人が考えている。また、最も選択率が低かったのが「政府の規制主導で解決に向かうと思う」の6.9%。政府の規制が打ち出されるさなか、当選択肢の回答が少なかったのは、長時間労働には規制でどうこうできるものではなく、“根源的”“根深い”課題があるのを示すかのようだ。
【図5会社の長時間労働は解決するか(項目別)】
男女に意識差…
この問いに関しては、男女差が出た。最も差が大きかったのが、「従業員の意識が変わらず、解決しない」(5.5ポイント)だ。現場レベルで意識が変わらず、改善に至らないと思っている女性が多いのを示す。次に差が大きかったのが、「経営者の意識変化主導で解決に向かう」(5.0ポイント)。こちらは女性のほうが、回答比率が少なかった。「分からない」と回答したのは4.6ポイント、女性のほうが多かった。
【図6 会社の長時間労働は解決するか(男女別)】
長時間労働への取り組みは、圧倒的に大企業が進む
次は、企業規模で長時間労働への対策に差があるかを見てみよう。長時間労働が課題だと回答した中で「対策に取り組んでいる」と答えた、最も比率が高い層は5000~1万人未満の企業(74.3%)だった。ほぼ差がなく、1万人以上の企業が74.2%で続いた。一方、最も低かったのは99人以下の企業で、割合としては半分以下の30.1%となった。取り組みの度合いとしては、大企業のほうがかなり進んでいるといえる。
【図7 会社は長時間労働対策に取り組んでいるか(従業員数別)】
生産性向上に対する役職による意識差
労働時間を減らすとはいっても、ただ減らすだけでは代償は大きくなる。労働時間が減る。すると生産性を上げなければ、スタッフを増やすか、業績縮小を受け入れるかしなければならない。そこで労働時間を減らす取り組みのうち、現実的な選択肢を「生産性の向上」「業績縮小の受け入れ」「従業員数の増員」の中から選んでもらった。結果は49.8%と約半数が「生産性の向上」を選択。27.2%が「従業員数の増員」、15.8%が「業績縮小の受け入れ」を選択した(図8-1)。
【図8-1 労働時間を減らす現実的な取り組み】
これを役職別に見ると、立場による考えの違いが表れる。役職が上位の会長・社長、役員、部長のレベルでは「生産性向上」を労働時間削減の手立てとして考える傾向が強い。全体平均の49.8%よりも10ポイント程度高い60%前後の選択率となる。一方、係長以下一般社員・職員では30%以上が「従業員数の増員」を現実的な取り組みとして想起する。同取り組みが会長・社長で17.4%、役員で17.6%の選択率なのを考えると、社内の立場によって採択する手段が異なるのが分かる(図8-2)。
【図8-2 労働時間を減らす現実的な取り組み(役職別)】
生産性向上のためにすべきことは何か。この質問の答えとして最も高かったのは、「業務量の適切な分配」(31.5%)、続いて差がなく「経営層・従業員の意識改革(社風・職場風土)」(31.3%)だった(図9)。
【図9 会社で生産性を上げるためにすべきこと】
2017年の結果と比較すると、大きな変動は見られなかったものの、「ITの積極的な活用」については17年の11.5%から、今回17.4%に選択比率が増加。順位も「その他」を除く最下位から2つ順位を上げた。
2年間で、長時間労働の実態は改善傾向にある(「長時間労働だと思う」17年38.0%から19年28.8%)。だが、大企業に比べると、中小企業の対応遅れは否定できない。また、生産性に関する自己評価「生産性は高いと思う」の結果は、17.2%から16.6%と、2年たってもほぼ横ばいである。実際に、日本の労働生産性はOECD加盟36カ国中20位から、順位を上げられずにいる。生産性向上に関しては感覚的にも数字的にも、まだ改善傾向にあるとは言い難いのではないだろうか。
<本調査について>
日経BPコンサルティングのアンケートシステムAIDAにて、同社モニター2389人を対象に2019年2月に調査