テレワークの普及や改正電子帳簿法施行などの影響を受け、企業の文書管理は紙からデジタルへの移行が進んでいる。業務のペーパーレス化への機運が高まる中、その実態を明らかにすべく、紙文書が介在する業務やその保管方法について調査した。紙文書のデジタル化に多用されるOCR(光学的文字認識、画像データ内の文字情報をテキストデータ化する技術)の活用状況についても尋ねた。調査は2023年7月、日経BPコンサルティングのアンケートシステムにて、同社保有の調査モニター3099人を対象に実施した。
企業の業務の中で、紙の文書が介在する業務工程について聞いたところ、最も多かったのは「契約・申請書類」の59.1%となった。2位は「取引先・顧客への請求・見積もり」(44.9%)、3位に「手順書・マニュアル・チェックシート」(38.5%)が入った(図1)。2020年3月に行った同調査と比較すると、「社内会議資料」が4位に後退。首位の「契約・申請書類」は3.4ポイント減と、全項目の中で最も減少幅が大きかった。一方、「紙文書で行うものはない」は2020年の調査結果と比較して8.3ポイント増加した。コロナ禍を経て紙文書の減少傾向が続いていると言える。
紙文書の管理について種類別に尋ねた結果は次の通り(図2)。どの種類の文書・資料に関しても「紙のままファイリングして保管」が最も多い結果となった。紙のままファイリングして保管する比率が最も高いのが「契約・申請書類」の71.0%。以下、「社内稟議・申請」(68.9%)。「顧客情報・カルテ」(68.0%)が続いた。
一方、「紙のままファイリングして保管」の比率が低かったのは、「社外会議・プレゼン資料」(46.9%)と「社内会議資料」(52.2%)だ。ZoomやTeamsなどのオンライン会議ツールが普及した今、会議やプレゼン資料もデジタル化して配布されるのが一般的になっていることがうかがえる。前回調査と比べ、紙のままファイリングして保管する比率の減少幅が最も大きかったのは「受発注書」で、前回の調査結果(72.3%)より7.7ポイント減少した。各企業でPCFAXや販売管理システムなどが導入され、受発注業務の電子化が進んでいると推察される。
紙文書の廃棄ルールについて尋ねたところ、どの項目においても最も多かったのは「期間を決めて廃棄」だった(図3)。次に多いのは「種類・重要度で定めたルールに準拠して廃棄」だが、「契約・申請書類」「顧客情報・カルテ」については「原則、廃棄せずに保管」の比率が「種類・重要度で定めたルールに準拠して廃棄」を上回った。
また、全項目において「スキャンが済んだら廃棄」の選択率は前回調査と同じく10%に達しなかった。電子帳簿保存法の改正もあり今後は見積もり・請求関連の書類を中心にペーパーレス化が加速すると見られる。今後の動向に注目したい。
【図3 業務工程別の紙文書の廃棄ルール】
企業規模でOCR活用に温度差も
紙文書の保存には、OCR(光学的文字認識)を活用してデジタルデータ化する方法がある。これにより入力作業の効率化、文書検索性の向上などさまざまなメリットがある。しかし、過去の調査では企業でのOCR活用はさほど進んでいない実態が浮き彫りになった。前回の調査から1年経過し、活用度合いはどう変化したのか見ていく。
「有料サービスを利用している」と「ソフトの補助機能などで利用している」の合計を見ると、全体の20.7%が日ごろからOCR機能を利用していることが分かった。「利用してみたいが、まだ利用したことがない」「利用予定はない」と答えた割合の合計は54.9%。また「OCR機能の存在を知らない」を選択したのは12.8%と、横ばい状態だった。
従業員規模別に利用状況を見ていくと、有料サービスを利用するという回答が最も多かったのは3000~4999人で8.8%。「ソフトの補助機能などで利用している」比率との合計でも、従業員数3000~4999人の企業が最も高い結果となった。
【図4 OCRの利用状況(従業員数別)】
OCR機能の満足度について利用者を対象に聞いた結果は次の通り(図5)。「非常に満足」「満足」「どちらかというと満足」の合計では、「PC等からの文字出力に対する認識」(67.7%)が最も高く、以下「データ容量の軽減」「文字認識スピード・一括認識等の効率性」の順だった。反対に「どちらかというと不満」「不満」「非常に不満」の合計では、「学習機能」(53.9%)、「手書き文字に対する認識」(53.6%)だった。文字認識の精度の高さが期待できる有料サービスの利用率が高まれば、こうした不満の解消につながると考えられる。
【図5 OCRの機能の満足度】
<文書管理実態のまとめ>
・紙の文書が介在する業務工程で最も多いのは「契約・申請書類」(59.1%)
・紙文書の管理法では「紙のままファイリングして保管」が最も多い
・紙で保管する比率が最も高いのは「契約・申請書類」(71.0%)
・紙で保管する比率が最も低いのは「社外会議・プレゼン資料」(46.9%)
・紙文書の廃棄ルールは「期間を決めて廃棄」が最も多く全体の40%前後が選択
・全項目において「スキャンが済んだら廃棄」の選択率は10%未満
・OCRの利用率は約20%
・OCR機能の存在を知らない層は12.8%
・OCR利用者の満足度が高かったのは「PC等からの文字出力に対する認識」(67.7%)
・OCR利用者の満足度が低かったのは「学習機能」(53.9%)
業務におけるペーパーレス化は進む一方、今回の調査で見えてきた図2、図4などの結果を見るに、これから紙で受け取った物の一部はデータ化されているが、これまで社内に蓄積された紙文書のデータ化は依然として道半ばと言えそうだ。昨今はAI技術を取り入れた学習機能を有するものがあるなど、OCRの文字認識の精度も向上している。文書保管ルールの見直し、電子決済システムやクラウドストレージの導入などと併せ、OCR機能も業務のDX推進に役立ててみてはどうだろうか。
<本調査について>
日経BPコンサルティングのアンケートシステムにて、同社モニター3099人を対象に2023年7月に調査