働き方改革関連法の施行やコロナ禍を経て、テレワークやフリーアドレス制など柔軟なワークスタイルを推進する企業は増加傾向にある。コロナ禍が一段落したことでオフィスへの出社回帰も強まる中、働き方はどのように変容しているのか。その実態について調査を実施した。調査は2023年9月、日経BPコンサルティングのアンケートシステムにて、同社保有の調査モニター3388人を対象に実施した。
職場の長時間労働縮小が課題だと感じているのは47.8%で、前回調査と同様の結果となった。個人単位での労働時間に対する認識と、職場に対する労働時間への課題感の間には依然として大きなギャップがある(図2)。
日本の労働者は長らく「働きすぎだ」と問題視されるが、それは解決しているのだろうか。その問いに対して「解決に向かう」と答えたのは64.9%となった。働き方改革関連法が中小企業にも施行されて約3年半が経過したが、3分の1は「解決しない」という否定的な層が残る(図3)。
その内訳を見ると、回答が最も多かったのは「経営者の意識変化主導で解決に向かうと思う」の21.4%。2位の「従業員の意識変化主導で解決に向かうと思う」(18.7%)は、前回の調査より5.1ポイント上昇し、前回2位の「経営者の意識が変わらず、解決しないと思う」(15.2%)を上回った。長時間労働の是正には経営者の意識変容が不可欠であることは変わらないが、従業員の意識変化も同様に重要視されている傾向が見てとれる(図4)。
男女間で長時間労働の解決に対する意識に違いはあるのか見てみると、すべての項目において男性の回答が女性を上回る結果となった。その中で男女差が開いたのは、「経営者の意識変化主導で解決に向かう」と「経営者の意識が変わらず、解決しない」の項目。前者は4.3ポイント、後者は4.9ポイントの差があった。
なお、男女ともに1位は「経営者の意識変化主導で解決に向かう」だった。前回調査では女性の1位は「経営者の意識が変わらず、解決しない」だったが、環境の変化によって長時間労働の解決への期待感が高まっていると見られる(図5)。
企業規模ごとの長時間労働対策の取り組み状況を見ると、長時間労働が課題だと回答した中で「対策に取り組んでいる」と答えた層が最も多かったのは、1万人以上の企業(69.9%)。最も低かったのは99人以下の企業で32.3%だった。大企業ほど長時間労働の是正に向けた取り組みが進んでいる傾向にある。ただし、99人以下の企業は前回調査と比べると「対策に取り組んでいる」と答えた層は4.4ポイント上昇し、改善の兆しが見られる。一方で500人~4999人以下の企業に関しては「あまり対策に取り組んでいない」と答えた層が増加している(図6-1)。
【図6-1 会社は長時間労働対策に取り組んでいるか(従業員数別)】
また、役職別の長時間労働対策に向けた取り組み状況について尋ねると、会社の労働時間を課題に感じており、その対策に取り組んでいるのは課長が34.7%で最も多い結果となった。この役職はプレイングマネジャーとして活躍する層が多く、自身の労働時間をコントロールしつつ、部下の労働時間にも目を向けることが求められる。したがって労働時間の縮小に対する意識も高いと推察される。
一方、長時間労働は課題ではないものの、さらなる労働時間の縮小に取り組んでいると答えたのは部長が33.0%で最多だった。この層は部署全体の労働時間を管理する立場にあり、日ごろからさまざまな対策を講じていることがうかがえる(図6-2)。
【図6-2 会社は長時間労働対策に取り組んでいるか(役職別)】
労働時間を減らす最も現実的な取り組みとは
自身の生産性について尋ねた結果が図7だ。「高い」が18.9%、「普通」は57.9%、「低い」が23.2%となり、前回調査から大きな変化は見られなかった。
【図7 自分自身の生産性について】
労働時間削減の対策として現実的なものを「生産性の向上」「業績縮小の受け入れ」「従業員数の増員」の中から選んでもらったところ、最も多い回答は「生産性の向上」で59.2%。これは前回調査よりも3.7ポイント上昇する形となった(図8-1)。
【図8-1 労働時間を減らす現実的な取り組み】
役職別回答を見ると、「生産性の向上」の比率が最も高いのは部長(71.5%)で、前回より8.7ポイント増加した。課長においても生産性向上との回答は前回から7.8ポイント増え、「業務縮小の受け入れ」は6.1ポイント減った。「業務縮小の受け入れ」は、係長・主任の15.8%が最も高い選択率となった。また、「従業員数の増員」は一般社員・職員が最も高く29.0%。前回調査から依然として高い傾向が続いている。この他、役員においても従業員の増員を挙げる比率は高まり、前回より5.1ポイント上昇した(図8-2)。
【図8-2 労働時間を減らす現実的な取り組み(役職別)】
会社で生産性を上げるためにすべきことに関しては、「業務量の適切な分配」が28.6%で最多。次いで「経営層・従業員の意識改革(社風・職場風土)」(27.2%)、「ITの積極的な活用」(24.7%)だった。前回調査のトップは「経営層・従業員の意識改革(社風・職場風土)」(30.7%)で1位と2位が今回入れ替わった(図9-1)。
【図9-1 会社で生産性を上げるためにすべきこと】
この回答を役職別に見ると、会長・社長に関しては「ITの積極的な活用」の占める比率は31.6%と最も高かった。他の役職と比べてもその比率は高く、経営者がITの活用を非常に重視しているのが分かる。また、政府が支援する「リスキリング」にもつながる「従業員個々のスキルアップ」と答えたのは役員が33.0%で最も多かった。
一般社員・職員では、「業務量の適切な分配」(32.8%)、「従業員のモチベーションアップ」(24.6%)を挙げる声が目立った。また、多くの業務を抱えがちな係長・主任からも「ITの積極的な活用」(28.0%)に対する回答が集まったことから、会社全体のITスキルアップは至上命題と言えそうだ。課長、部長、役員では「経営層・従業員の意識改革(社風・職場風土)」の比率が最も高かった。さまざまな調整や管理を担う立場として、生産性向上には労使それぞれの意識改革が重要であると捉えているようだ。
【図9-2 会社で生産性を上げるためにすべきこと(役職別)】
21年の結果と比較して傾向をまとめた。
・自身が長時間労働だと思うのは25.5%で同水準
・勤務先が長時間労働で課題だと思うのは47.8%で同水準
・会社の長時間労働は「従業員の意識変化主導で解決に向かうと思う」層が5.1ポイント増
・自身の生産性が高いと思うのは18.9%で同水準
・労働時間を減らす現実的な取り組みは「生産性向上」が59.2%で増加
・生産性を上げるためにすべきことは「経営層・従業員の意識改革(社風・職場風土)」が27.2%で微減
・前回まで増加傾向にあった「ITの積極的な活用」は24.7%で同水準
生産性を上げるためにすべきことの3位に入った「ITの積極的な活用」は、19年17.4%(6位)、20年25.1%(3位)、21年26.4%(3位)と選択率が上昇傾向にあったものの、今回は微減した。ITの積極的な活用には、業務フローの見直しや浸透するまでのフォローアップが欠かせない。経営陣と現場が一丸となり、企業競争力を高めるためにもこうした取り組みの推進が必要になるだろう。
<本調査について>
日経BPコンサルティングのアンケートシステムにて、同社モニター3388人を対象に2023年9月に調査