経済産業省が、「DXレポート」(2018年)で警鐘を鳴らした「2025年の崖」が目前に迫っている。データ活用はもちろん、デジタル技術を前提としたビジネスモデル変革の切り札として期待されるDX推進。
各企業の対応などを調査(2024年9月実施)した自由回答には、「DXの本来の効果を理解している者が少ない」「推進部署が現場の実情把握ができておらず非現実的な施策を提案してくる」「取引先、元請けの理解が少ない。過渡期と思うしかない」などの声もあった。今、企業DX対応をめぐる課題意識や現在地はどこにあるのだろうか――。以下でその内容について見ていきたい(日経BPコンサルティングのアンケートシステムを用い、同社保有の調査モニター3044人を対象に調査を実施)。
クラウドサービス利用が伸長するも、企業規模でDX対応に濃淡
まず勤務先におけるDX推進に向けた各種の取り組み内容について聞いた。最も取り組みが進んでいる項目が「文書の電子化・ペーパーレス化」(33.9%、前回比3.4ポイント増)。2位に「テレワークの実施」(25.9%、前回比2.7ポイント減)、3位が「営業活動・会議のオンライン化」(23.5%、前回比1.8ポイント減)となった。そして、4位に「クラウドサービスの活用」(23.4%、前回比4.5ポイント増)が続いた(図1)。
【図1 勤務先におけるDX推進に向けた取り組み(従業員規模別)】(複数回答)
前回と引き続いて顕著だったのが5位の「DXに取り組んでいない」(20.0%、前回比0.3ポイント減)において、特に99人以下企業の回答が集中した点(44.4%)だ。100~299人以下の企業(19.8%)と比べても24.6ポイントもの開きがある形となった。その他、「電子決済導入」や「基幹システムの構築・導入」「RPAツールやその他のロボットの導入」「デジタル人材の採用・育成」などの各項目でも99人以下の企業は、低調な形となり企業規模に応じてDX対応に濃淡があることが伺える。
「顧客データの一元管理」「電子決済導入」などに効果を実感する企業が増加
続いて、DXに取り組んでいると回答した企業に、どの程度効果を実感しているか聞いた。この点、「営業活動・会議のオンライン化」や「顧客データの一元化」「電子決済導入」「クラウドサービスの活用」などの各項目において、おおむねどの項目でも約8割超が「効果あり」と回答(「想定していた効果を大きく上回った」「想定した効果を上回った」「想定通りの効果があった」と回答した合計値)。
今回、顕著だったのが「想定した効果を上回った」の回答で、「営業活動・会議のオンライン化」(26.9%、前回比4.7ポイント増)、「顧客データの一元管理」(19.4%、前回比7.1ポイント増)、「電子決済導入」(23.1%、前回比11.2ポイント増)、「クラウドサービスの活用」(21.5%、5.8ポイント増)など、導入に確かな手ごたえを感じる企業が増加している点だ。DX対応が着実に進んでいる兆し、と見ることもできるだろう(図2)。
【図2 DXの取り組みについての効果実感】
「社内業務やワークフロー等の効率化」への期待が約6割に。DX対応は急務に…
ここではDXに取り組んでいると回答した企業に、今後のDX推進に向けてどのような効果を期待しているのか聞いた。1位は「社内業務やワークフロー等の効率化」(58.9%)、2位は「リモート環境による業務環境の構築や働き方の改善」(34.1%)、3位は「DXによる新業種・新サービス展開の検討」(29.0%)という結果となった(図3)。
【図3 今後のDX推進にあたって期待する効果】(複数回答)
トップ3の項目は、いずれも前回から大幅な伸びを見せており、それぞれ、22.1ポイント、9.1ポイント、12.5ポイントほど増加している。企業規模によるDX対応意識の差はみられるものの(例えば、1位の社内業務やワークフロー等の効率化では3000~4999人以下企業が65.9%、99人以下企業が47.0%となり、その差は18.9ポイント)、多くの企業にとってDX推進が喫緊の経営課題として認知されつつある姿が垣間見える。
「専門人材の不足」「対策費用」「費用対効果」が企業の共通課題に
ここでは、DX推進に向けた企業課題について聞いた。従業員規模別に見ると、1位は「専門的な技術者や人材がいない」(42.3%)、2位は「対応する費用が高い」(33.3%)、3位は「効果が示せず導入に踏み込めない」(21.7%)という項目が並ぶ(図3)。
【図4-1 勤務先におけるDX推進上の課題(従業員規模別)】(複数回答)
前回の調査と同様に各項目で99人以下企業での低調が一部目立つものの、それ以外の従業員規模による明確な傾向は見られなかった。ただ、1位から3位の項目において、それぞれ前回比16.7ポイント、14.7ポイント、8.0ポイントの増加が見られ、企業の焦燥感がじわりと伝わる結果となった(図4-1)。
この点、前回と同じく役職別では大きな差異が認められた。例えば、「専門的な技術者や人材がいない」の項目では役員が55.4%と高い課題意識を持つ一方で、会長・社長は29.6%となり、25.8ポイント差となった。また「特になし」の項目で、会長・社長が最多選択の26.1%(前回比7.2ポイント増)である点などを加味すると、経営層の意識醸成は今後もDX推進に向けた大きな課題の1つともなりそうだ(図4-2)。
【図4-2 勤務先におけるDX推進上の課題(役職別)】(複数回答)
相談先は「社内の専門部署」「ITベンダー、SIer」に回答が集中
最後に、DX推進に際しての相談先について聞いた。従業員規模を問わず、「社内またはグループ企業の専門部署」と「ITベンダー、SIer」に回答が集中。全体ではそれぞれ31.1%(前回比8.9ポイント増)、22.7%(前回比3.4ポイント増)となった。この一方で、99人以下企業では「相談していない・相談する予定はない」が65.8%(前回比5.3ポイント増)に、100~299人以下企業でも26.4%(前回比0.8ポイント減)との結果が得られた(図5)。
【図5 DX推進に際しての相談先】(複数回答)
新型コロナ禍を経てテレワーク・リモートワークが広く浸透し、生成AIやIoT、RPAといった多様な先端技術がビジネスの姿を大きく変化させている。少子高齢化・人口減少の進展が危惧される中、この流れはより顕著に加速していくだろう。これからの企業成長や、閉塞感打開のカギを握るとされるDX。しかし、「どこから着手したらよいのか」と悩むケースも多いだろう。歩みを進めるには「自社がめざす姿は?」「実現するためには?」と改めて自社として問い直すことも必要だ。
今回の調査回答の自由回答欄には「局所的に対応していて全体最適になっていない」「クラウドに移行するだけで業務改革になっていない」などの意見も見られた。社内での対話とともに各種のツール活用を有効に生かし、外部の専門家知見を有効に活用しながら、まずは第一歩を踏み出したい。
<本調査について>
日経BPコンサルティングのアンケートシステムにて、同社モニター3044人を対象に2024年9月に調査